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椎名林檎『ありあまる富』から考える、彼女にとって富とは何か

椎名林檎は、日本のシンガーソングライター。最近の活動としては、リオデジャネイロオリンピック閉会式での演出を担当


椎名林檎は、日本のシンガーソングライター。2004年から2012年までは東京事変のボーカルとしても活動している。最近の活動としては、リオデジャネイロオリンピック閉会式での演出を担当したことは記憶に新しい。

2009年5月27日にリリースされた『ありあまる富』は、椎名林檎名義としては11枚目のシングル。表題曲の『ありあまる富』は、TBS系金曜ドラマ『スマイル』の制作スタッフからの要望を受けてドラマのために書き下ろされた。

椎名林檎が伝える価値のあり方を、この楽曲から考察していく。


――――
僕らが手にしている富は見えないよ
彼らは奪えないし壊すこともない
世界はただ妬むばかり
――――

冒頭のこの歌詞では「僕ら」「彼ら」という主語を用いることでそれぞれの富に対する考えを対比させている。初めに、「僕ら」「彼ら」がどのような立場の人物なのかを明らかにする。「僕ら」とは、椎名林檎が考える富、つまり富は金銭や地位、権力のような目に見えるものには価値はないとする立場の人である。それに対して、「彼ら」とは、先述した物にのみ価値があるとする立場の人々である。この冒頭部分で言われていることは、僕らが持つ富がお金や地位のような目に見えるものではなく、他者から干渉されるものでもないと解釈できる。「世界は妬むばかり」、ここで世界と表現することによって、現代が物質主義に縛られた世界であることを反映している。

次に挙げる歌詞では、僕らが持っている価値がいかなるものであるのかが分かってくる。

――――
もしも彼らが君の何かを盗んだとして
それはくだらないものだよ
返してもらうまでもない筈
何故なら価値は生命に従って付いている
――――

新たに「君」という名詞が出てくることに注目である。サビは作詞家の視点、つまり椎名林檎からの君=僕(リスナー)へ書かれたもの。Aメロは僕の視点で書かれた歌詞であり、サビは椎名林檎の視点で書かれた歌詞という構成になっている。「僕ら」の言葉に同調するかのように椎名林檎は言葉を添えている。

彼らが盗むものは、僕にとってはくだらないものだと言う。つまり、僕にとっては金銭や名声なんかは盗まれてもどうでもいいものなのだ。返してもらうまでもないとまで言い切っている。金銭にのみ価値を見出す人、名声や権力を欲してる人、世の中はこんな人で溢れている。しかし、椎名林檎は価値は生命(いのち)に従って付いていると言う。人間にとっての価値は、モノに対してではなく私たち自身にこそ存在する、と言い換えることもできる。

――――
ほらね君には富が溢れてる
――――

椎名林檎はこの言葉で締めくくる。改めて、彼女は僕の富に対する価値観を肯定している。

つまりこの曲は、物質的・即物的なものごとを、他のものごとよりも優先させる「物質主義」に縛られた現代に向けて書かれたものである。金銭や地位を持っているであろう彼女が問いかけることに意味があるのだ。



TEXT:川崎龍也

1978年11月25日生まれ 福岡市出身 1998年にシングル「幸福論」でデビュー。 音楽家、演出家。バンド東京事変を主宰。 自らの発信と並行し、歌い手/踊り手/演じ手の表現や、舞台/映画/広告/番組などへの楽曲提供も精力的に行っている 2009年、芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。 ···

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