寒風吹き荒ぶ今日この頃。鍋ものやシチューなど温かい食べ物が恋しくなる時期だが、何故か時々ガンガンに暖房を効かせた暖かい部屋で、冷たいアイスクリームが食べたくなる事はないだろうか?
また、同じような理由から、冬だからこそ「夏の歌」が聴きたくなることもある。夏真っ盛りには暑いだけでロマンも何もあったもんじゃないが、ひとたびその季節を離れるといわゆる思い出補正が強くなって、楽しかった夏休みやお祭りへの憧れを抱かせるのかもしれない。
そんな、こたつで食べたいアイスクリームのようなバンド(だと私が勝手に思っているの)が、昨今フェスシーンでも活躍目覚ましい下北沢発の男性四人組ロックバンド「KEYTALK」だ。夏の歌が多い彼等の楽曲の中でもライブで抜群の盛り上がりを見せるのが、『YURAMEKI SUMMER』と『MATSURI BAYASHI』の二曲。
約一年のブランクを挟み、ふたりのボーカルそれぞれによって制作されたこの曲は奇しくも同じテーマを扱っている。
それは、「ひと夏の恋」と「童貞思想」だ。
2015年の5月に発売されたアルバム『HOT!』のリード曲としてリリースされた『YURAMEKI SUMMER』は、メインコンポーザーであるベースボーカル・首藤義勝作詞作曲のパーティチューン。タイトル通り夏真っ盛りのゆらめくような高揚感が、ちょっとエッチでロマンチックな世界観の中で描かれている。
「Ah! (Hoo!!)
炎天下 日差しにもうエンジン低下?
キンキンに冷えきった かき氷食いてえ」
「Ah! (Hoo!!)熱帯夜 暑苦しくて寝らんないや
この夜乗り切る方法教えて先生?」
「見慣れてない浴衣姿に よろめけば夏のシワザに
めくる袖 腕の白さに
照れくさくて ハジけそうで 時間止めてエスケープしたいな」
いつにも増して甘い歌声で魅せる首藤の高速ラップや愉快な合いの手、更にはサンバホイッスルが嬉し恥ずかしのひと夏の体験を想起させ、弾けたパーティ感を一層際立たせている。和音階風の歌メロに朗々と響くギターボーカル・寺中友将の深みのある凛々しい歌声も、いつも以上に楽しげだ。
対して、今年の5月にリリースされたのが『MATSURI BAYASHI』。その、年齢の割に貫禄のある雰囲気から「巨匠」とあだ名されているフロントマン・寺中の手によるバキバキのギターロックだ。彼にとっては初めてシングルのリード曲として採用された、記念すべき楽曲となる。
鋭角的でキャッチーなギターリフから始まるイントロは、シブいギターラインやスラップベースが際立つ造りとなっている。
「髪をかきあげた君のしぐさで
夜風に乗ったシャワー君の香りにノックアウト」
「爆竹バンバン ハッピー 待ち合わせの裏路地
浴衣姿の君が ずっとソワソワ僕を待ってる
サディスティックな表情に ハイセンシーな罰ゲーム
空を舞ったコインにすっと息を飲む」
タイトに刻むドラムスとカッティングの細かいギターのオケにも無駄がなく、華やかでありながらスピーディでコンパクト。同じサビ前までを比べただけでも、『YURAMEKI SUMMER』とは全く違うイメージの楽曲となっているのがわかるだろう。
まず『YURAMEKI SUMMER』だが、この曲はカッコよさよりも楽しさが際立つシンセサイザーサウンドが特徴的で、全体に夏の恋の甘酸っぱさが感じられる仕上がりだ。
特に「教えて先生?」の件は年上の女性に憧れる、上目遣いの似合う少年のようなイメージが強い。例えるなら軽音部の可愛いボーカル男子のような、“あざとい”チャーミングさだ。
更に、少々馬鹿っぽい程に底抜けに明るいサビメロの裏で奏でられているシンセサイザーのメロディが、絶妙にマイナー調のいわゆる「美メロ」になっているのがまた印象的だ。
「Who are you!?
(Wow oh!!)触れたら溶けそうな唇に
(Wow oh!!)ココナッツの香り
君にゆらめき恋してるマジックサマー」
こんなにポップでときめきに満ちた歌詞を更に明るく彩りながらも、ただただテンションの上がる楽曲、と言うだけでは終わらせないほのかな切なさがこの曲のキーポイントと言える。
対して『MATSURI BAYASH』は、タイトルの通りお囃子を奏でる和太鼓や津軽三味線のような雰囲気のオケが特徴的。得意の伸びやかなフェイクをこれでもかと炸裂させる寺中には、侍のような趣きすら感じる。
「夜の帳の祭り囃子 センチなsummerにはもういっちょ 止まらない青い日々ループする
夜の帳の1人話 大人になるんならもういっちょ 終わらない祭り音頭」
「祭」と言う一貫したテーマのもと、青春を終わらせるかと言わんばかりの抽象的ながら力強いフレーズが並ぶサビの歌詞からは、軽音部のあざといボーイから漂うそこはかとない切なさは無い。
どちらかと言うと体育会系な勇ましさが溢れるこの曲は、剣道部の主将的なカタブツ男子を彷彿とさせる。
特にそれぞれの楽曲の特徴が色濃く表れているのが、曲の後半。
『MATSURI BAYASH』では大サビ前に、KEYTALKの楽曲では意外と珍しい煽り文句の台詞が入っている。歌詞に表記されてはいないのだが、寺中による「あの子に猛アタックや!」と言う雄叫びが強い印象を残すパートだ。この恋をひと夏の泡沫にはしないぞと言わんばかりの心意気と、作詞を手掛けた寺中のバンドのアイコンたる強い存在感が表れていて、思わずついて行きたくなる「漢の背中」像が鮮やかに描き出されている。正に、流石“巨匠”と言うヤツだ。
対する『YURAMEKI SUMMER』はラストの大サビにその底力が表れている。今までのハイテンションなサウンドが嘘のように突如ブルース調のギターソロが奏でられたかと思いきや、ふたりのボーカルが美しいファルセットを駆使して歌うのは、こんな歌詞。
「だけど 僕はいつも追いつけなくて 空回る思いゆらめいて
特別な季節 君に出会えた
またいつか夏が来るまで
sayonara」
ブルースギターは夏の終わりの訪れを表していたのだ。ふたりのハイトーンなハーモニーも相まって、儚く散りゆくからこそ美しい夏の恋を、たったの四分足らずの曲中で見事に完結させている。 ライブやツイッター等で“パリピ”キャラを自称しながらもロマンチックで何処か切ない詞世界に定評があり、現在のKEYTALKの作風を確立させた首藤らしい感性だ。
この全く違った個性を持つ楽曲達の唯一の共通点は、作詞を手掛けたツインボーカルお互いの「夏のロマン」がこれでもかと詰め込まれた歌詞世界だ。誰もが一度は抱く、夏休みやお祭りへの根拠のない期待やセンチメンタルなイメージ、夏という季節への不思議な高揚感や胸騒ぎ。
ふたりは、ロマンと言う言葉すらもすっかり死語となったこのご時世に、古臭い程の甘酸っぱい、そしてアツいロマンを恥ずかしげもなく表現出来る数少ない歌い手なのではないかと思う。
寒い冬には温かいものでも食べて、身体を温めるのも勿論大切。
だけど、物悲しい気分になりがちなこんな季節には、KEYTALKの火傷しそうなほどにアツい夏のロマンに憧れて、心の底からアツくなるのもいいんじゃないだろうか?
TEXT:五十嵐 文章