世間ではもはや音楽よりも“農家”のイメージが先行しがちなTOKIO。それでも、彼らがバンド形態を主として活動するグループであることはおよそ多くの人が知るところであろう。
メインボーカルはフロントマンである長瀬智也であり、他のジャニーズグループと違い、長瀬以外のメンバーは通常コーラス程度しか歌唱に参加していない。中でも、ドラムを担当する松岡昌宏の歌声をまともに耳にしたことのある人は少ないのではないだろうか。
今回は2012年にリリースされたアルバムから、彼にまつわる二曲を紹介したい。
デビュー17周年にリリースされた通算17枚目となる17曲収録のアルバムということで、松岡がタイトルを発案したこの「17」では、新録曲全てでメンバーが作詞や作曲に携わっている。
そのうち、松岡自身が作詞作曲、そしてメインボーカルを担当しているのが『Autumn』。通常盤のみに収録されたこの曲では、普段テレビなどでは聴くことのできない松岡の、大人の男の色気溢れる歌声を堪能することができる。普段の長瀬ボーカルでは感じられない、TOKIO楽曲の隠れた魅力のひとつだ。
寝起きに浮かんだフレーズを録音し、その日の夕方にはデモを完成させてしまったというこの曲は、ライブを意識せずに「自分が普段聴いている、心地良いラインのものを」ということで作り始めたという。当初は長瀬に歌ってもらう予定だったが、自分の好みに合わせるとキーが低すぎるのではということで、『Midnight Rose』以来約9年ぶりとなる松岡メインボーカル曲が出来上がった。
渋いメロディーラインのものを、アレンジもあえて渋く。「打ち込みでもできるけれど、俺達はバンドだからこそそれをあえてアナログでやろう」という拘りで、自らドラムに布を被せ、集音マイクの場所を変えたりしつつ、音の抑え方に徹底しながら作り上げたアレンジは、いかにも更けゆく秋に寄り添うかのごとく哀愁溢れるものになっている。
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忘れかけた想いに気づいて
戸惑う仕草も隠せず
重ねすぎた拘りを捨てたら
止められない ありのままでいいよね…
確かめるように…
求めあう二人…
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山口達也はこの曲の詞について、「松岡丸出し」だと語っている。それは本人も認めるところであり、「酒のお供にでも流しといてくれれば」というほどこの曲は“家で聴く用”なのである。音を極力減らした渋いメロディーラインとスローなテンポ、かつ歌っているのが松岡であるということもあり、聴き慣れない人にはとてもこれが“ジャニーズソング”だとはわからないだろう。
松岡は初めから、この曲を一般的なジャニーズのファン層である若者に向けてはいない。しかし、ある意味TOKIOにとってメインターゲット層ともいえる「大人」にはわかるはずだと彼は言う。
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窓の外の紅く染まる景色
街は酔い…秘かに雪を待つ
季節越えて、二人道が変わっても、
This moment one more time 思い出してみて…
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再会、駆け引き、そして別れ。昭和の香りさえ漂う大人の恋愛模様を秋という物悲しい季節に喩えて描かれているこの『Autumn』だが、秋を意味するこの単語には“爛熟期”という意味も含まれている。
爛熟とは“物事が発達しきって、衰えの兆しさえ含んでいる状態になること”。この曲を作ったとき松岡は35歳だが、四十路という節目が見えてくる年齢でもある。老若男女問わず幅広い層に支持されている彼らだが、TOKIOの良さを真に味わうことができるのは「大人たち」なのかもしれない。
また、このアルバムではもう一曲松岡が携わっているものがある。それが『ロースピード』。松岡が作詞し、城島と共に作曲、長瀬が編曲に加わっている。
こちらは『Autumn』とはうってかわってアップテンポで、軽快なリズムを打つドラムとブラスアレンジがTOKIOらしい、ライブを意識して作られたバンド曲だ。ボーカルも長瀬がメインを取り、国分も参加している。
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毎日同じ繰り返し 未来はどこで変わるんだろう?
無理はするなと言われるけれど しなきゃしないで文句言われ
めでたい考え方だけど もう歳も歳だけど
やっぱり憧れた 夢に向かって 勇気を出して
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この曲は元々、松岡と城島が合宿所時代に遊びで作ったものを松岡が掘り返し、当時は切ない曲だったが明るくしてみたら面白いのではないか、とアレンジし直して城島に提案したところから出来上がったという逸話を含んでいる。二人が初めて作った楽曲は、実に二十年ほどの時を経てそんなふうに生まれ変わった。
ロマンチストな城島と世界観を共有できるのは松岡くらいだ、と他のメンバーから言われるほどに、どこか通じるものがある二人。「昭和のかほり」に拘りを持つ松岡にとって、最年長である城島とは意外とそういった部分で繋がっているのだ。
そんなこの曲の作曲名義は“松島茂宏”。過去にも二人で関わった曲はあるが、他の曲とは少し違った想いがこの曲にあることがそこからも分かる。
山口は『ロースピード』の詞について「松岡っぽくない」と語り、松岡自身も「誰が作ったかわからない」というほど松岡らしくない言葉並びで出来ているという。しかし同時に「それでも出てきたってことは、色んなことを一周したのかもしれない」と話している。それはまさに、彼にとってひとつの“爛熟期”と言えるのではないだろうか。
“こんなヤツでもいいでしょ? ロックでキザな事言わせてよ!”
このフレーズが、更に“松島茂宏”の楽曲らしさを強調している。“歳も歳だけど”体を張ったり、無人島を開拓したりしつつもアイドルをやっている。たまにダジャレもこぼしつつ、キザな歌詞も書いてみる。松岡は「自分から出てくる歌詞じゃない」と語っているが、城島との共作であったからこそ出てきたものもあるだろう。
彼にとっては「17」が、爛熟期であり節目のひとつであったのかもしれない。
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新しい事始める時は いつも脅えているもの
海に飛び込む あの時と同じ気持ち
遠慮しないで もがけバタバタ 見てくれなんかシカトで
形にとらわれず それが信じた道なら
真っ直ぐ行こうよ 自分らしく
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『ロースピード』には大人に向けてだけではなく、悩み、行き詰まったとき、人生の節目、まさに老若男女に通じて力をくれる「自分らしくマイペースにいこうよ」というメッセージがある。
番組では、海に山に更には街にと次々アイドルの枠を超えた挑戦を続けているTOKIO。サビの歌詞には、彼らが作り歌うからこそ説得力のある言葉が連なっている。
“レールの上を降りたら ロースピードでいいから”
自分のペースで歩みを続け、それぞれの活躍をもって五人の力を常に五より上に保ち続けるTOKIOの、他のジャニーズグループとは一線を画した活躍の源が、何よりこれにある気がしてならない。そういえば彼らは、その“レール”でさえも自分たちで作り上げてしまうグループなのだ。
松岡が爛熟期の大人たちや自分に向けて作った『Autumn』。そこにゆっくりと浸ったあとは、『ロースピード』を聴いてまた明日から進み始めてみるのもいいのではないだろうか。
TEXT:祈焔( https://twitter.com/kien_inori )