「4つ打ち」の「踊れるロック」が主流のロックバンド戦国時代。数多くいる若手ロックバンドはいわゆる音楽通の人達に「似たりよったり」だと批判される事も少なくない。そんな中で槍玉に挙げられる事が多いのが、下北沢発の男性ツインボーカルロックバンドKEYTALKだ。
数多くの音楽フェスに出演し、ノリが良くキャッチーな楽曲が多い彼らは、如何にも現在の「ロックバンド戦国時代」を象徴するバンドと言えるだろう。それどころかメンバー個々のキャラクターがやたら強く、コラボカフェやらリアル謎解きゲームとのコラボやらといった派手なプロモーションも目立つためか、硬派な音楽ファンからは「アイドルっぽいバンド」と揶揄されているような印象さえ受ける事が多い。
この文章を読んでくれているあなたが、もしもKEYTALKを「はいはいそんな感じのバンドね〜」と思っているのであれば、今年一月にリリースされたばかりのシングル『ASTRO』を一度聴いてみてほしい。この曲には、今の彼らの魅力が余す事なく詰め込まれている。
まず、あまり知られていないKEYTALKの楽曲の魅力のひとつに、「歌詞の良さ」がある。次の歌詞を見て頂こう。
「夢終えた深夜の帰路に空見上げて
過去は走馬灯のように駆け巡って
遥か何億光年先の星のかけら
あの日の僕がよみがえる」
これは『ASTRO』の冒頭の一節だ。イントロもなく唐突に始まり、ベースボーカル首藤義勝によってなぞられるフレーズはご覧の通り見るからに“叙情的”。代表曲である『MONSTER DANCE』のハイハイハーイやらソイヤソイヤやらと言った合いの手のイメージだけで歌詞も読まずに聴かず嫌いしている人たちはきっとこの美しさに気づかない事だろう。
物語の主人公の独白のような独りよがりのモノローグがどうしても多くなりがちな若手ロックバンドのソングライティングの中では異彩を放つ程に、彼らの楽曲の歌詞では心象風景の描写が重視されている。これはメインで作詞を担っている首藤の感性の賜物だ。歌謡曲を愛聴し、「文学少年」とあだ名される程小説や漫画を好む彼の言語センスが最大限に生かされている。用いられている言葉が美しいだけでなく耳に心地良い語感の良さまで持ち合わせているのは、彼が絶対音感の持ち主であると言う点も大きいだろう。
次に、サウンド面のアプローチだ。「第三のボーカル」とも称される小野武正の押し出しの強いギターや、八木優樹の全身全霊を傾けるような強いビートのドラ厶は時に「歌に対して強すぎる」と評される事もあるようだが、そんなのはとんでもない。少なくともこの曲での彼らはあくまでも、ボーカルふたりの紡ぎ出す物語を鮮やかに彩る背景だ。
美しいアルペジオやローの音が際立つギターは力強いメロディだけでなく切なげな印象も残し、ドラムのリズムもキャッチーなようでいて細かな転調を繰り返す意外と複雑なビートを、ごくさり気なく刻んでいる。ベースの重厚感がそれらに安定性を与え、如何にもライブで盛り上がりそうな疾走感がありながらもまるで天体写真のように深く、キラキラとしたイメージを想起させる。ヘッドフォンをして再生ボタンを押した瞬間、まるで望遠鏡を覗いたように目の前に宇宙が広がるだろう。『ASTRO』と言う大仰なタイトルを裏切らないスケール感だ。
そしてやはりKEYTALK最大の魅力は、ツインボーカルふたりの歌声。ツインボーカルと言えば男女が主流の中、確かな歌唱力と表現力を持つふたりの存在は確実な武器だ。
その上それだけでなく、別々の個性を持つボーカリストであるふたりが歌詞の上でも適材適所の役割を担い、それぞれの味を最大限に活かしている点にも注目だ。この曲の中では特にサビにその存在感が色濃く現れている。
「そうさ光呼ぶ方へ進めよDreamer
誰も追いつけないほど遠くへ
高く舞い散る衝動
幾千の誓いを今つらぬけShooter
明日はこんなに輝くから
光を越えて」
始めの「そうさ〜」からのパートを歌う首藤は、甘く透き通ったハイトーンが特徴的な歌声。何処か中性的でありながら凛とした強さも感じられるその響きは「誰も追いつけないほど遠くへ」「高く舞い散る」と言ったフレーズと相まって空の彼方へ昇ってゆくような勢いと高揚感を醸し出し、夢見がちながら芯の強い「Dreamer」のイメージを作り上げている。
更に、「幾千の誓いを〜」からを歌うギターボーカル寺中友将は、「巨匠」と言う愛称に反しない貫禄すら感じられる朗々とした声を響かせる。嫌が上にも耳が惹かれてしまう強さと深みのある歌声による「幾千の誓い」「明日はこんなに輝くから」と言った確固たる意志を感じさせる前向きなメッセージは、どんな困難をもぶち破る「Shooter」そのものだ。
MVを観てもわかるように、彼らはそれぞれの強さと意志を湛えた歌声をまるで闘うようにぶつけ合いながらハーモニーを奏でている。こんな歌詞をあんな歌声で歌われたら女子ならドキドキしないわけにはいかないと言うもんだ。勿論男子だってまるで少年漫画のような、ギラギラのロマンを感じるに違いない。
更に、これだけの要素がたった三分足らずの短い曲の中にぎっしりと詰め込まれているのが何よりも凄い。どんなにトリッキーな試みを見せてもリスナーを飽きさせず、シンプルにさらりと聴かせられるストイックな曲作りも彼らの大きな持ち味のひとつだ。
しかし、実はこの曲の一番の聴きどころは、歌詞の中に滲み出す「彼ら自身」である。
先に引用した冒頭の叙情的な歌詞、これにはバンドの大きな夢のひとつだった一昨年の武道館公演を終えた際の首藤の感情が現れている。2007年の結成以来、下北沢を中心に地道なライブ活動を続け、一度もメンバーチェンジすることもなく歩んできた彼らの団結力は、同じ世代の若手バンドの中でも群を抜いて強い。
「これは僕から僕への未完成の手紙
どこまでもささやかで一途な祈り
今は言葉の意味はわからなくても
それでいいのさ 届いてくれよ」
これは二番メロ部分の歌詞だが、ここに現れているような「過去の自分へのエール」と言った、ともすれば綺麗事になりかねないテーマを独りよがりな歌詞ではなく美しく洗練された説得力のある言葉で描けるのは、きっと誰よりも首藤がバンドを信頼し、自分ひとりの言葉ではなく「KEYTALKの意志」として歌っているからだろう。彼らが足並みを揃え、時にぶつかり合い、時にすれ違いながらも泥臭く歩んできた道のりが、歌や音に説得力を与えているのだ。
そんな今の彼らにとっては「自称・音楽通」の人達による批判なんか、きっと痛くも痒くもないのだろう。明日を照らす光さえ超えて飛び立つ強さを、寺中の力強いロングトーンが高らかに轟かせる。
「幾千の誓いを今つらぬけShooter
明日はこんなに輝くから
光を越えて 遠くへ」
花火のように短く儚い時間の中に彼らの生き様が全て詰め込まれている『ASTRO』は、KEYTALKを「アイドルバンド」だと思っているあなたにも、自信を持ってお薦め出来る一曲である。
TEXT:五十嵐 文章