Dragon Ashは、長年にわたって活躍している、様々なスタイルの音楽を融合したミクスチャーロックバンドとして有名です。このバンドが2010年に発表した22枚目のシングルが『AMBITIOUS』。スカパー! 2010 サッカーテーマソングとして使用されました。
AMBITIOUSと言えば、クラーク博士が言った「Boys, be ambitious」=「少年よ、大志を抱け」が有名です。この曲も、野心、大いなる志をもって何かに挑戦する姿勢をたたえる曲です。英語歌詞で始まりますが、ポイントとなるところを日本語で歌っていますね。
“何も持たずからっぽな両手 すべて掴んで存在の証明”
「何も持たずからっぽな両手」だからこそ、「すべて掴んで存在の証明」ができるわけです。我々は、自分は頭が足りてない、体力がない、金がない、モテないと「ないもの」にとらわれがち。しかし、ないからこそ「すべて掴んで」いくことができるはずだと、この曲は言っているんですね。
“何も出来ずすくんでいた足で 踏み締め前へ進んでいけ明日へ
闇雲に抱いてた未来を この瞬間今に塗り替えろ
さらけだし 鮮やかでなし 痣だらけで描いてこそ価値”
「何も出来ずすくんでいた足で」前へ進め、と歌うこのフレーズも良いですね。この曲は、まさに「何も出来ない」人を奮い立たせてくれる曲です。「さらけだし 鮮やかでなし 痣だらけで描いてこそ価値」ここは、「だし」「なし」「かち」、「さらけ」「あざやかで」「あざだらけで」「えがいて」という韻の踏み方も良いポイント。鮮やかでなくていい、痣だらけでつかむものにこそ価値がある、と歌っています。この曲は、「何も持たず」「何も出来ず」「痣だらけ」なマイナス要素を持つ人こそ、何かを得ることができると繰り返し言っているのです。
“何も見えずにじんでいた両目 見つめる先は鮮明な光景
やり場無く抱いてた思いを この瞬間この場所に込めろ
苦しんだり歯を食いしばり 自分自身で勝ち取ってこそ幸”
「何も見えずにじんでいた両目」というのが悔し涙を想像させます。そういう経験があればこそ「鮮明な光景」を見ることができる。「やり場なく抱いてた思いを この瞬間この場所に込めろ」この曲のMVでは、様々なアスリートが出てきます。アスリートは、悔しい思いを、特訓の成果を「この瞬間この場所に込め」ます。まさに、戦うアスリートの「瞬間」をたたえるフレーズ。そして、戦っているのはアスリートだけではありません。全ての人です。だから、どんな人にとっても「自分自身で勝ち取って」得たものこそが「幸」なんですね。
“痛んだその手 軋んだその足で 描いた今を握り締め走れ”
MVでは、ライトセーバーでベースを弾くIKUZONEが確認できます。ライトセーバーでベースを弾くという姿もAMBITIOUS、野心的と言えるのではないでしょうか。IKUZONEは、この曲がリリースされた翌々年に亡くなりました。人はいつ死ぬか分かりません。だからこそ、「今を握りしめ走れ」というフレーズが響くのです。
このバンドは活動期間が長く、その時々で様々な音楽スタイルに挑戦しているので「〇〇の頃が良かった」等とも言われがち。また、よく知らない人からは、悪ぶってるだけのバンドのようにも思われがちです。過去に様々な批判も受けてきました。
しかし、批判されようとも、メンバーがあの世に旅立とうとも、ずっと真剣に音楽を続けているバンドです。常に新しい音楽を取り入れ、今も観客を沸かせています。それができるのは、根幹にAMBITIOUS、大いなる志を持っているからなんですね。
『AMBITIOUS』は、閉塞した今の時代だからこそ響く歌。むしろロックが苦手な人や、このバンドをよく知らない人にこそ知ってもらいたい曲です。
TEXT:改訂木魚(じゃぶけん東京本部)
1997年デビュー。 あらゆるジャンルを驚異的なスピードで横断し、これからもDragon Ashとしか表現しようのない音を鳴らし続ける。 常にオルタナティヴな道を自ら選びながらも、圧倒的なファンの支持を得続ける日本の音楽シーンを代表するモンスターバンド。 ▷Dragon Ash official site ▷D···