不倫する女心を描いた衝撃の前作「平日の女」から1年。
今年結成16年目を迎えるMERRYから届いた待望の新曲は、現代社会に生きる人々が抱える心の闇と、絶望を感じながらも未来への希望を捨てずに明日を生きていく、そんな儚くも強い人間の姿を描いた、多くの共感を呼ぶ楽曲となっている。
冒頭は鋭く突き刺さるような攻撃的なメロディーに、ハッとさせられるような歌詞で始まる。
“人と関わり合うのは気が滅入る
だから他人に興味は持てない”
まさに現代社会に生きる人々を象徴するかのような歌詞。
初めて聴いた時、まるで自分の心が見透かされているんじゃないかと思ったくらい、ドキッとした。自分の心のモヤモヤをストレートな言葉で代弁してくれた、そんな清々しささえ感じた。会社や学校で、人間関係に疲れた経験がある人なら、この冒頭の歌詞を聴いて、同じように思うはずだ。
“心を飼い殺すのは簡単
自分とさよなら するだけ
騒めく街に降る 冷たい雨
感じないから 傘はいらない”
一見、心に闇を抱えた、孤独で冷たい人間を表すような歌詞だが、この歌詞には社会や世間に対する皮肉と、自分がこんなふうに生きていけたら、という願望に近い思いが隠されているのではないだろうか。
「自分とさよなら」するということは、自分の感情を殺し、心を無にして、無感情で生きていくということだ。決して簡単なことではなく、強がりを言っているようにもとれる。それをあえて簡単と言うことで、社会や世間に対する皮肉を表し、また一方で社会という切っても切れない組織に飼い殺されている自分が、こんなふうに生きていくことができたら、世間からのどんな冷たい態度や言葉にも傷付かずに、心を楽にして生きていけるのに、という思いが込められているように感じた。
“時間は早く流れてく
皆一緒に消えていく”
残酷に過ぎていく時間に翻弄される人間の儚さを強調する歌詞。人間はこの世に生を受けた瞬間から、時間の流れには逆らえない。それは歳を重ねていくごとに早く感じると言う。
この歌詞で、人の人生には限りがあるというメッセージを強く感じた。時間が流れて、「変わっていく」のではなく、「消えていく」としているのはその為だろう。限られた時間の中で、毎日幸せだと思って生きてきた人も、不幸だと思って生きてきた人も、皆同じようにいつか終わりを迎え、消えていくのだよ、と。
“「人生は美しい」なんて
言葉振り回されても
俺は 何も望まない 何も望まない”
“未来はきっと明るいだろう”
最後にきて、絶望を表すような歌詞と、その直後に未来への希望を込めた相反する歌詞が並び、理解に苦しむ方も多いかもしれない。だがこの最後の4行の歌詞が、この歌の最大のメインであり、そしてこの最後の4行の歌詞に、私はMERRYというバンドの15年間分の生き様が詰まっているのだと感じた。
15年バンドを続けてきて、歳を重ね、色々な経験をして、挫折や絶望を味わい、社会の仕組みや物事が痛いほどわかるようになった彼らには、ありふれた綺麗事なんか言われても何も響かないだろう。だが彼らは決して絶望や苦しみを両手いっぱいに抱え、バンドを、人生を、諦めたわけではない。
「何も望まない」と強調するように2度も歌われているが、補足すると「今以上のことは何も望まない」と歌っているのだ。
その理由は2013年、ライブ中のアクシデントで怪我をしたベースのテツが長期療養を経て、昨年2月に完全復帰を果たしたことと深い関係があるのではないだろうか。
テツ本人やファンはもちろんだが、誰よりもメンバーがテツの完全復帰を待ち望んでいたに違いない。やっと5人揃ってMERRYとして活動できるようになった今、それ以上のことは何も望まない、と。
そして今はそれ以上のことは望まないけど、でもこれから自分達が進んでゆく未来はきっと明るいだろうと思いたい。
あるインタビューでも、ボーカルのガラが、この曲の歌詞のように未来はきっと明るいだろうと思ってバンドをやっていたい、と語っていた。
この曲がただ儚く、絶望的なだけの曲に感じないのは、メンバーのバンドに対するそんな前向きな姿勢と、色んな経験をしてきたMERRYが醸し出す大人の男の色気と、哀愁が華を添えているせいだろう。
新曲「傘と雨」は、15年バンドを続けてきて、酸いも甘いも色んな経験をしてきたMERRYだからこそ出来た楽曲なのだ。
TEXT:中村友紀