九十年代の半ばを迎えると共に訪れた、バブル崩壊。失われた20年と言われる時代を生きる私達若者は何をやるにもルールに縛られ、空気を読む事を強いられ、不景気な顔をして今日も満員電車に揺られている。
そんな、誰もが自分らしさを見失ってしまいがちな現代社会に勇猛果敢にもバブルを再び訪れさせようと目論む女子がふたりいた。
それが、「ベッド・イン」だ。
ベッド・インはリードボーカルの「おみ足担当」益子寺かおりとギターボーカルの「パイオツカイデ〜担当」中尊寺まいのマブい乙女ふたりによるツインボーカルアイドルユニット。「日本に再びバブルの嵐を起こすべく勃ちあがった」地下セクシーアイドルを自称する彼女達は、きらびやかなスパンコールをふんだんにあしらったぴっちぴちのボディコンに、モリモリのアップバングのヘアスタイルでキメたイケイケのバブルガールファッションに身を包んでいる。右手にはカラフルな羽根の付いた扇子を携え、場合によっては男勝りな下ネタもいとわない。
そんなルックスや雰囲気のインパクトもさることながら、彼女達の魅力は楽曲に徹底された世界観にも溢れている。それが特によく表れているのが、メジャーデビューアルバムに収録されている『C調び〜なす!』だ。
パキパキした鉄っぽいシンセと打ち込み風のドラム、キャッチーで軽快ながらテンポの速すぎないリフが特徴的なオケはあの有名な『愛しさと切なさと心強さと』などにも通ずる所があり、本格的に八十年代後半から九十年代のJPOPの趣きを感じる。JPOPよりも「ポップス」と言った方が正しい雰囲気のあるこの曲は「肉食女子」が主人公のシンプルなセクシーナンバーなのだが、若さが武器の今時のアイドルが歌う流行りの楽曲とは一線を画す。
「合図はもっとボディコン(みたいな) 抱いてみ?ソッコー虜(みたいな) ナイフの様なボディコン(みたいな) 24時間 戦うしィ(肉食女-vinus-) わたしのせいにするがメッシュ!」
これは冒頭サビのフレーズだが、ここまでの時点で既に幾つものバブル時代の流行語が練り込まれている事にお気付きだろうか?
バブル後の不景気真っ只中に生まれたナウいヤングの皆さんの中には元ネタが一切わからないと言う人も多いのではないだろうか。ベッド・インのトレードマークでもある「ボディコン」とは一体どんなものなのかすら知らない人も少なくはないだろう。
因みに「24時間 戦う」と言うフレーズは当時流行したCMからの引用、「するがメッシュ」は「ギルガメッシュないと」と言う当時のセクシー番組のタイトルから来ているのだが、そんな元ネタを知らずともなんとなく「ああバブルっぽい」と思わされる語感と言葉遊びのセンスが凄い。開始三十秒であっという間に圧倒されてしまう。更にこの後も、これでもかとばかりにバブリーさが音となって怒涛のように畳み掛ける。
「ルージュの色だけ噂がたつけど 全てをピーにはさせないわ そこまでYOU惑 ノリにもよるけど 一番オイシ〜毒になる」
「嫌いと言って キスしたり イミシンなベル 挿れたり スイッチ「ポチッとな」して 正義もビビらせたい」
「ピー」は放送禁止用語の意味、「ベル」はポケベルの意味だが、そんな「バブル用語」が使われている事よりも今時口紅を「ルージュ」と言う言い回しで表現しているところにたまらなくバブリーな色気を感じる。更に「フラストレーション 扇子でバイビー」「ヨッコイショーイチ」「イキフンな夜」等今の十代二十代にはワケワカメであろうフレーズが並ぶが、これらはどれもその時代に日常的に使われていた言い回しばかり。
「ボディコン」や「ミラーボール」など、バブルの雰囲気をそのまま象徴しているような単語を並べるだけなら楽だろうが、彼女達の楽曲はそうではない。
言わば、この曲の歌詞はネイティブの「バブル時代人」の言語センスで描かれているのだ。
ベッド・インのバブリーさは昨今のアイドルによくある「目立つため」「他のアイドルユニットとの差別化を図るため」の単純な「キャラづくり」ではない。
それもそのはず、ふたりは元々別のバンドで活躍していた生粋のバンドマン。曲や詞へのこだわりは、プロデューサーの趣味に左右されがちな普通のアイドルとは比べ物にならない。実際、彼女達は衣装からキャッチフレーズまで、その活動スタイルの全てをセルフプロデュースしているのだからその意識の高さは本物だ。しかも、この曲を作詞したギターボーカルの中尊寺まいはまだ二十代、バブルを直接的には全く知らないピチピチのチャンネエだというから驚きだ。その造形の深さと言語センスには、本心からバブル時代へのリスペクトを感じる。
そして何よりもその知識量等以上に彼女達の楽曲の魅力を引き立てているのが、本人達が心から「好き」「楽しい」と思ってバブルスタイルを貫いている事が伝わってくるパフォーマンス。
朗々と歌い上げるかおりの「ドヤ顔」ボーカルは姉御風でイカしているし、セクシーで可愛らしい中尊寺まいのボーカルはギターソロでぶちかまされる力強いプレーとのギャップがバツグンにシャレオツだ。MVでも楽しめるパワフルでセクシーな勇姿は超絶に痛快!
彼女達の「景気のいいバブルの女感」が最も表れているのは、何と言ってもそのゴーイングマイウェイさだ。ファンが優しく育てていく流行りの若いアイドルの、何色にでも染まる清純さも勿論魅力的。だけど、「お下品メンゴ」と謝りながらもふてぶてしい程に我が道を行く、何色にも染まらないバブリー姐さん達にイロンナ意味で育てられちゃうのも悪くないのでは?
今宵、きらびやかなディスコフロアに足を踏み入れてみるガメッシュ!?
TEXT:五十嵐文章