季節の変わり目に降る雨はややこしい。折りたたみ傘を忘れた日に限って降られちゃったりして、どうしてもあんまり好きになれない。そんなネガティブなイメージも相まってか、雨をテーマにした曲は大体悲しみや未練などをテーマにしているものが多い気がする。薄暗い雲が垂れ込める空から刺すように雨が地面を激しく叩きつける様なんか、見ているだけで気分が重くなってくるもんだ。
でも、Benthamの『激しい雨』は、そんなネガティブの権化みたいな「雨」を全く違う視点から描いている。
Bentham(ベンサム)は、2010年結成の若手ロックバンド。下北沢の老舗インディーズレーベル「KOGA RECORDS」からインディーズデビュー後、少し先輩であるKEYTALKのツアーのゲストアクトを務めた事をきっかけに注目されるようになった。彼等は自らを「ハイブリッドロックバンド」と名乗り、ポップでキャッチーでありながらメリハリの効いたサウンドとボーカル小関竜矢の爽快さとアツさを兼ね備えた少年のようなハイトーンボイスが人気を集めている。
今年四月、遂にメジャーデビューを決めた彼等の記念すべきデビューシングルのタイトルが、『激しい雨』だ。
曲を聴いてみると、タイトルから受ける印象が一音目から覆るのがわかると思う。明るい音像の軽快なギターロックで、歌詞も雨には触れない。
何気ない日々を繰り返し生きている
瞬きする度 モノクロになっていくよ
駆け引きはまるで
イメージを引き伸ばしている
しなる矛先は手を差し伸ばしてるみたいだ
この曲の主人公は味気ないモノクロ写真のような単調な毎日にうんざりしている。人付き合いの駆け引きはまるで当たり障りのない一定の「イメージを引き伸ばしている」だけのように思えるし、駆け引きに負けて言葉の暴力を駆使する人達の「しなる矛先」は、かえって救いを求めるように手を差し伸ばしているように見える。彼はおそらくそんな無益な戦いに身を置くような、つまらない生活者にはなりたくないと思っているのだろう。
まるで少年漫画の主人公のようだけど、だからと言って主人公がそんな人達に勝てるような、それこそ少年漫画の主人公みたいな特殊能力やスポーツの才能なんかを持っているのかと言えば、そう言うわけではなさそうだ。
いつか笑える日が来る
永遠に投げ射つような確かな光
僕は激しく降る雨
はしゃぐ君横目に涙も枯れた
これはサビの歌詞。やっとタイトルにある「雨」が登場したが、「いつか笑える日が来る」と言う言い回しから、主人公は今はまだ笑う事が出来ないと言う現状が見て取れる。タイトルの「激しい雨」は、無力な自分を悔やみながら無様に涙するしかできない、「彼自身」を言い表す言葉だったのだ。
「はしゃぐ君」とは彼が戦うべき相手なのかもしれないし、もしかしたら冒頭で描かれた「イメージを引き伸ば」すような無益な駆け引きに身を置いている不特定多数の“誰か”かもしれない。そんな相手に反論も反撃も出来ず、主人公は涙が枯れる程の激情を抱えるのみだ。
理不尽な事と言うのは生きていくにおいてどうしても避けられない事で、たとえ自分が正しくても涙を呑んで耐え忍ばなければならない事は沢山ある。あなたもきっと、この主人公のような感情を胸に抱えた事が一度はあるはずだ。
しかし、彼の涙は耐えるだけの無様な敗者の涙なんかじゃない。
窓の外は俄雨
このままじゃいけない 確かめながら
僕は激しく降る雨
いつか晴れるように
邪魔させない
いつかこの激しい雨が上がり、青空が広がり、眩い太陽が顔を覗かせるはずだと、彼は希望を持ち続けているのだ。そのためには今現在の我慢さえも、誰にも邪魔させない。どんなに苦しくとも、主人公は誇り高い程の意志に満ち溢れているように見える。「激しい雨」と対比を成す「俄雨」が、豪雨のように激しい主人公の胸のうちを鮮やかに際立たせている。
「このままじゃいけない」「いつか」と言う自分に言い聞かせるような言葉と執拗に繰り返される「Don't wanna lose!!」と言うフレーズから、主人公の強い想いが伝わってくる。いつか晴れ渡る空を見るために今は涙を呑む、主人公のもどかしい気持ちと前向きな意志は、メジャーシーンと言う未知なる大舞台へ向かってゆく現在のBenthamの姿をそのまま表しているようにも見える。
「いつか」「きっと」なんて気持ちは青臭い夢物語。大人になる程そんなふうに思ってしまう事もあるけれど、駆け引き無しの少年のような希望と負けん気を思い出させてくれるこんな曲がそばにいたなら、気が重くなりがちな雨の日もちょっと明るい気分になれるかもしれない。