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『LET FREEDOM RING』に尾崎裕哉の父と音楽観を見る (2/2)



次に、唯一ラブソングに分類されるであろう『Stay by my Side』。
今回紹介している三曲の中で唯一英語詞を取り入れている。帰国子女なだけあって英語の発音はさすがとしか言いようがない。尾崎豊の楽曲で例えるなら『OH MY LITTLE GIRL』や『I LOVE YOU』などが同様のラブソングに当たるだろう。


Looking out through the window 光の粒指でなぞって
今夜も街は騒がしいけれど どこか寂しそうだね

When you're lone and down and out すべてを疑う方が
簡単だから 心を閉じて 苦しい息をしてる

それでも愛を 欲しがるから
愛を 受け取っても don't know how to love


“When you're lone and down and out”のloneはaloneと比べると孤独や寂しさといった意味をより強く持っている言葉である。物理的なひとりである状態を表すというよりは、街の騒がしさの中にある静けさ=孤独感を連想させる。続いて、“down and out”は、「落ちぶれて、ノックダウンされて」といった意味。つまり、ここでは「あなたが孤独で落ちぶれたときはすべてを疑って心を閉ざしてしまう」という主旨になる。この英語詞の配置は意図して用いたものだと推測するが、その意図が見えない。言葉を強調しているわけではなさそうだが、詳細を本人に問うてみたい部分である。特に意味はないところの可能性も否定はできない。

ひとは何のためにひとを愛してしまうの
もしも その答えがあるなら
そばにいて 君が教えてくれないか
お願い stay by my side ずっと
All I wanted to say is「愛してる」


「ひとは何のためにひとを愛してしまうの」という言葉からは哲学的な匂いがする。尾崎裕哉は「愛している」と無暗やたらと言葉にするのではなく、相手に対して「なぜひとを愛するのか?」、つまり「なぜ私たち二人は付き合っているんだろう?」という言葉を教えてくれないかと求めている。
“stay by my side”(私のそばにいて)で一緒にそれを探しに行こうよという前向きな歌である。そして、“All I wanted to say is「愛してる」”というフレーズは「愛している」以前の英語詞“All I wanted to say is”の部分が良い効果をもたらしている。“All I wanted to say is”で1拍置いてから「愛してる」と歌うことで「愛してる」の部分が巧く強調されていてとてもいい。
人を愛する理由はまだ見つからないけれど、言えることは愛しているという普遍的な言葉なのだ。改めて、「愛してる」というありきたりな言葉の力強さを感じた。



最後は、一曲目に収録されていて、MVの公開もされている『サムデイ・スマイル』である。この曲は尾崎裕哉が初めてラップを取り入れていて、意欲的な作品だと言える。最初は、尾崎豊の『ドーナツショップ』の語りを意識したそうだが、あまりにも尾崎豊っぽさが出てしまったためにラップという選択肢をとったとのこと。聴いてみると少し父親の面影が感じられるが、確かにオリジナル感は出ているように思う。


あと何度 目を覚まして
あと何度 目を瞑るの
あと何度 立ち上がり
あと何度 立ち止まるの
あと何度 前を向いて
あと何度 後ろを向くの
あと何度 嘘をついて
あと何度 自分騙すの


この曲が作られたきっかけとして、尾崎裕哉は全国ツアー「LET FREEDOM RING TOUR 2017」東京公演で東日本大震災の被災地に仲間とボランティアに行ったことを挙げていた。その言葉通り、この曲は背中を押してあげるような前向きな曲だ。どんなに困難に直面しても立ち止まらずに前を向いていこう、というメッセージが込められている。「あと何度」という印象的なフレーズは、8回も繰り返されている。楽曲全体では計16回も繰り返しが行われている。そのため、サビよりも印象的で頭から離れない。

まだわからない ここにいる意味
また擦れて尖って 光失って
たまに思う
なんでこんな辛い日々ずっと続くのか
だけど闇に射した少しの光捉えて
どんな時もじっと耐えて 前へ
こんな今日がきっとその未来へ
繋がってるから


ここは前述したラップの部分に当たる。東日本大震災が起きた最中、誰もがこれから先の明るい未来を想像することが出来ただろうか。津波による甚大な被害は勿論のこと、それ以外にもライフラインの壊滅、これらによって人々の「日常」は壊れてしまった。家族や親戚、友達の無事も分からない。このような状況の中で、先にある光を捉えることなど到底不可能である。尾崎裕哉は被災地に行くことで感じることが沢山あったと思う。そのエピソードとして非難所で遊んだ子供の話を彼はしていた。内容は、「避難所で一緒に遊んだ子供たちに『前を向いていこうよ』と言ってあげたかったけど、その場で言っても現実味もなかった。そんな思いを込めて、この曲を聴いた人に今日を生きていることの素晴らしさを感じてほしいと思って作りました」といったものである。東日本大震災の経験を踏まえ、彼は「音楽」にすることで世の中に届けることを決意したのだ。実際に、震災の被害を受けていなくとも、この曲を聴いた人が今を大切に生きることをこの曲は教えてくれる。

僕らはいつの日か かならず幸せになれる その途中の
今日を生きてる 今日を きっと生きてる
明日の風に 吹かれて夢を見よう


幸せに至るまでにはプロセスが存在していて、僕らはその途中だと彼は言う。だから来たる明日に備えて今日という日を大切に生きていこうというメッセージが込められている。僕らと複数形にしてあるのが、自分を含めた先ほど例に出した被災地の方々に寄り添って歌っているような印象を受け、尾崎裕哉の音楽観が表れていると感じた。

彼は「音楽を通じて世の中をよくしたい」と発言しており、このことが色濃く表れている楽曲が『サムデイ・スマイル』だと言えそうだ。私が感じた尾崎豊との決定的な違いは、歌うという行為の対象が内か外かである。尾崎豊は自分のために歌うというイメージがどうしても強い。勿論そうではない曲も多いことは知っている。一方で尾崎裕哉は歌うという行為が外に向けられている。『始まりの街』や『Stay by my Side』、『サムデイ・スマイル』などは他者に向けられた曲である。また、世の中のために歌うという発言がこのことを補っている。

尾崎裕哉と言えば、尾崎豊の息子というイメージを持たれやすく父親から受け継いだ声にばかり注目されがちである。しかし、彼の書く詞には尾崎裕哉の人生観が詰まっていて、それが彼の音楽に影響を与えている。世界の情勢が不安定な昨今、彼は何を思い何を歌うのだろうか。

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