“私はあなたのお部屋で九年前に死にました
いつもお部屋の隅っこであなた見ている地縛霊
未練は特に無いけれど何故か現世彷徨ってる
あなたはたまに私の方ちらりと見て首かしげる
私はあなたに恋をした
無いはずの心臓がドキドキバクバク”
「私はあなたのお部屋で九年前に死にました」でスタートする歌詞。最初から「死」がやってきます。活字に起こすと、それだけでホラーな歌詞ですが、カノエラナはあくまでもPOPに歌います。例えば「部屋」を「お部屋」とするだけで、だいぶ可愛い印象になります。絶妙に言葉を選んでいるんですね。
「未練は特にないけれど」という点も重要です。地縛霊は、地に縛られる霊と書くほどなので、現世に未練があるイメージがつきまといます。しかも、この曲の地縛霊は死んでから「九年」も「現世を彷徨ってる」存在。強い未練があってもおかしくないはずですが、未練は特にありません。これも、この曲が明るい印象になる要因の一つ。
「無いはずの心臓がドキドキバクバク」というフレーズも良いですね。2番の「ドキドキワクワク」とセットで地縛霊のテンションの上がり方を表現しています。
“私は恋する地縛霊特技必殺金縛り
苦しむあなたの頬を撫で
ちゅっとキスする三、二、一、ちゅっ
ああ あなたの唇すごくあったかいのね”
「特技必殺金縛り」が出てきました。地縛霊が恋心を伝える方法として金縛りを選んでいることが分かります。「金縛り」という寝ている体が動かなくなる怖い現象を、愛情表現にしてしまう想像力。カウントダウンからの「ちゅっ」というアイドルソングのような可愛らしさも忘れません。このフレーズもただ単に入れるだけでは「あざとい」だけの印象を与えますが、この曲の「あなた」にとっては「寝ている間に唇に冷たい何かが触れた」という「怖い」体験になるのです。
“あなたに気付いて欲しくて
お部屋の電気消してみる
あなたに気付いて欲しくて
お風呂もちゃんと覗いてる
いけないことだと知っている
だけど知りたいなドキドキワクワク”
「電気消してみる」「お風呂もちゃんと覗いてる」完全にホラーです。「お風呂も覗いてる」は、覗いてる側が生きていてもホラーでしょう。ただ、地縛霊は見えない。見えないならではの「ドキドキワクワク」感を歌詞と音で表現しています。このあたりのあやういフレーズがあることで、地縛霊の地縛霊らしさが強調されます。曲調がずっと明るいままなのも、実は怖いポイント。一方的なテンションの高い愛情表現は怖いということを暗に示しているからです。
“あああなたの唇すごくあったかいのね
わたしのくちびるすごくつめたいのね”
ラストの「あったかい」「つめたい」の対比も良いですね。「あなた」は生きているが、「私」は死んでいるという絶対的な境界線が感じられる歌詞。この「恋」が決して交わらない悲しさも持っていることを示します。
MVで表現される地縛霊は笑顔なので、この境界線すら楽しんでいるかもしれません。この曲は、ホラーになりえる状況や感情さえも、明るいものにできることを示しているのです。
カノエラナの歌詞センスが光る楽曲。カノエラナは、逆バージョンである『地縛霊に恋をした』も発表しています。こちらもぜひ確かめてもらいたいですね。