「あなたがいるなら」
深く沈むように刻まれるドラムで始まるこの曲。曲を聴いているというより、どこか空間に迷い込んだかのような気持ちになるのは何故なのだろう。不可思議なリズムで響くキーボードに、隙間に入り込むようにするりと溶け込むシンセサイザー。
痒い所に手が届くような音の配置で、「あなたがいるなら」という空間に安心しきってしまう。そのような気持ちにさせる何かが、この曲にはあるのだ。そして何より、ギターソロが素晴らしい。ここまで心地よいギターソロがあっただろうかと思わせるほど、リスナーに“適切な”距離をもって近づいてくるようなギターだ。また、小山田圭吾の歌声がどこまでも無機質であることが、すべてを上手くまとめあげているように思う。
「いつかどこか」
細部まで洗練されていて、永遠に聴いていられそうな一曲。ちょうど良い軽快さでいつまでも再生し続けてしまう。CorneliusはCorneliusであり、やはり変わらないものだと思わせる一方で、とんでもなく新しいものを聴かされている気にもなる。「あなたがいるなら」と同じく無機質ではあるが、爽やかさを帯びているサウンド。空間の中に入り込んでいくというよりも、空間が構築されていく様を見ているかのような緻密さを感じる。シンセベースのキレと、ノイズギターのアクセントがたまらなく良い。
「夢の中で」
『Mellow Waves』の中で最もバランスの良い曲であるように思う。音のすべてが釣り合っており、「あなたがいるなら」「いつかどこか」と同様、音があるべき場所にはまっていて落ち着きを誘う。聴いていると、まるでこのミュージック・ビデオのようにふわふわとした浮遊感に包まれ、そのメロディーは思わず一緒に歌い出してしまいそうな軽やかさだ。アルバムの中で一番ポップな一曲であるが、独特な寂しさがちらつく。都会の喧騒のなかでたった一人、居場所を失っているような感覚に陥る。そのアーバンな寂しさが、この曲の何よりものキーなのではないだろうか。
『Mellow Waves』というアルバムは、一度聴きだしてしまえばその世界に沈み込んでいくようなアルバムだ。新しさを追求するのではなく、もともとあったものをさらに洗練させていった結果、上質な音楽のなす空間が生まれたように思う。タイトル通りまさに「Mellow」なこの一枚を聴かずして、音楽は語れないだろう。