応援していたバンドがどんどんと大きく成長し、次第に距離を感じるようになる瞬間の寂しさはどうしようもない。
ネプトゥーヌス という楽曲
そんな矛盾した気持ちを抱えたままでCDを手に取った人は、このシングルの2曲目に救われた事だろう。3曲入りのシングル。1曲目はもちろんA面の『僕と花』、1曲飛ばし3曲目は電気グルーヴの石野卓球がリミックスした『ルーキー』。
サカナクションのシングルはA面、カップリング、リミックス曲という構成が多い。3曲しか入っていないのに纏まりが良くボリューム感もあるのがサカナクションのシングルの強みだ。
そしてこのシングルの2曲目こそが凄く良い。『ネプトゥーヌス』というタイトルが付けられた楽曲だ。
『僕と花』が外の世界に向けた楽曲だとしたら、表という表現になる。
対照的に影を落とした裏の楽曲0『ネプトゥーヌス』。
裏、という言い方から察して頂きたいのだが、この楽曲は決して明るい曲では無い。
それが顕著に出てる歌詞が
――――
痛いのは まだまだ 慣れてないからかな
僕は 砂 深く深く埋もれてしまったんだ
―――― の部分だろう。
初めてのドラマ主題歌のシングル。モード学園へのCMソングも決まっていてまさに波に乗っている状態。
飛ぶ鳥すらも落とすような勢いがあるはずなのに2曲目はその勢いの反動からなのか、とても弱気で痛々しい楽曲になっている。
この楽曲の面白さがより一層分かる瞬間は名前の意味が分かった時に尽きる。何故ならば、タイトルの『ネプトゥーヌス』という意味は"海の神"という意味だからだ。
ローマ神話に於ける海の神様。英語ならばネプチューン。"海の神"という大きな名前が付けられた楽曲なのに、対照的に女々しいと言っても良い程に弱い楽曲である。
自身は海の神なのに、この楽曲中に海の神は"僕は砂だ"と繰り返し言っている。サカナクションがこの楽曲で伝えたかったのは"完璧なものは存在しない"という事だ。全能かのように思える海の神でさえも些細な事で痛み、傷付く。
誰もがそうやって不完全なままで生活しているのだから、貴方の感じている傷でさえも一概に悪いものでは無いと言ったメッセージを感じる。
更にこの楽曲を紐解いてみる。
――――
部屋を暗い海だとして 泳いだ 泳いだ
脱ぎ捨てられた服がほら まるで抜け殻にみえたんだ
――――
これらの歌詞から分かるように、この楽曲の舞台は部屋の中なのだ。部屋の中を海だとし、床は海の底、布団は砂として部屋を一瞬で海の中に変えてしまう。部屋が海の中ならば、その部屋の主は神という表現も出来るだろう。
ある種では応援歌、ネプトゥーヌス
つまりこの楽曲で歌われている"海の神"とは聴いてる貴方の事なのだ。神でさえも不完全。しかし誰かの、何かの神になる機会は誰にでも平等にあるというメッセージにも聞こえてくる。この弱くても未来に期待をする事を止められない曲は、ある種では応援歌だ。痛みに傷付く夜、この曲に身を委ねてみてはどうだろうか。
きっと心が軽くなるはずだ。