『フカンショウ』の歌詞を読んだときには痛快爽快でした
──パノラマパナマタウンの魅力の一つに、心へ突き刺さる、とても共感を覚える歌詞があります。岩渕さんはいつも言葉を多く詰め込みながら、想いをぶつけてきますよね。岩渕:個人的にHIP HOPが好きなので。
──歌詞を通して自分の想いを伝える術を得たことは、岩渕さんの中でも大きなことだったのでしょうか?
岩渕:それはありました。今は、自分が抱えている疑問や憤りを歌っていることが多いですけど、今回のミニアルバム『PANORAMADDICTION』には一貫したテーマがありました。
──それは…。
岩渕:自分は、小中高大学と割と流される人生を送ってきていて。正直、「自分で何かをやろう」「自分で努力をしてこれをつかもう」と考えことがそんなになかったんですよ。だけど、バンド活動は自分の意志で「やりたい」と思って選んだ唯一の道だったし、今でも「バンド活動をしたくて」続けています。今のようにバンドという選択肢を選んでいなかったら、きっと今頃の自分は、世の中に流されるままに過ごしてたんだろうなと思いますし。
今の時代っていろんな情報があふれていれば、それをどう選ぶかで、自分の明確な意志がなくても生きていける時代だなと思うし、自分もそうなっていたかも知れない。でも、バンドという自分を表現してゆく手段を見出したときに、いろんな疑問や考え方が生まれてきた。それを僕は歌にしているし、この『PANORAMADDICTION』という作品でも、そういう想いを歌にして届けたいなと思っていました。
──干渉してくる人たちに対して「ほっといてくれ!」と歌う『フカンショウ』からは、そんな岩渕さんの強い意志が見えてきました。
岩渕:普通に生きてても、やれ「塾に行け」とか「この企業に入れ」と言われるのに、ましてバンドをやってると、その風当たりはもっと強くなる。パノラマパナマタウンの音楽性に対しても、「もっとちゃんとメロディを歌えばいいのに」とか「なんでこんな変なことをやってるの?」と言われてしまう。ときには、その言葉に流されそうになる弱い自分も出てくるんだけど、そういう自分とは決別したかったんです。何を言われようが「ほっといてくれ!」という意識だったし、とにかく自分たちのやりたい音楽を続けたい気持ちがとても強かった。だからこそ、メジャーデビューするこのタイミングで、自分が胸に抱えていた気持ちをここへぶつけてやりました。
田野:何かに括られたり、自分たちは「こうだ」と決めつけられるのはすごく嫌なことだと思っていて。自分たちは好きなようにやりたいからこそ、「ほっといてくれよ」と思う。だから、フカンショウ』の歌詞を読んだときには痛快爽快でした。
──みなさん、大学を卒業し就職するのではなく、バンド活動で食べてゆく道を選んだように、あえてリスキーだけど、人生を賭けるに相応しい夢のある職業を選んだ人たちですからね。
田野:遠い親戚の人たちからは「なんで大学を卒業してまでバンドを」と言われたりもすれば、その人自身には関係ないことなのにそう言ってる話を耳にすると、腹も立って……。まして、「自分でやりたいと思う人生を後悔なく送りたいからこの道を選んだ」わけだから、そんなことを言われる筋合いはないなとも自分では思っています。
田村:人からあれこれ言われるのは嫌ですからね。それを言われるのが好きな人なんていないと思うんで。
──岩渕さんが歌詞に投影した想いは、メンバー全員で共有していること?
浪越:普段から、互いに気になっていることを話していれば、自分たちでも常々思っていることを歌詞にもしているように共感はしています。
岩渕:もともと『フカンショウ』は、「なんでそんなことを言ってくるんだろう?」という疑問があったのと、そういう言葉を払いのけてでも自分らのやりたいことをやるという意志を示すために書いた歌だったんですけど。それだけでは多くの人には伝わらないなと思い、そこへ自分の弱さをさらけ出す言葉を書き加え、今の『フカンショウ』を完成させました。
『フカンショウ』は、人のことを俯瞰してあれこれ言ってくる人のことをさらに俯瞰して書いた歌なんですよ。たとえば、YouTubeにアップしている映像だけを観て「このバンドはどうこう」と言ってきたり。自分のことを何も知らないくせに、「お前はバンドじゃなくて企業に就職しろ」と言ってきたり。そういう人たちに向けて最初は憤りをぶつけ書いてたんですけど。ただ、不満や憤りをぶつけていくだけじゃ、自分を俯瞰していろいろ言ってくる人と同じになってしまうと思ったし、自分の弱さもさらけ出し、それを伝えてこそ受け取る人への強いメッセージとして歌が響くと思い、自分の弱さもいろいろさらけ出した歌詞も書き加えました。
──なるほど。
岩渕:なんで人は他人のことが気になるかって、それは自分にしっかりとした軸がないからだと思うんです。自分に明確な意志がないから、それを持っている人たちに対してあれこれ言ってしまう。でも言われたほうは、そこで言い返したいことがありながらも、あえて言葉をかみ殺していたりもする。そういう人たちのためにも、「ほっといてくれ!」と叫ぼうと思ったし、自分の弱さもさらけ出してこそ、初めてその歌がメッセージを持つとも思ったんです。そういう過程を経て、この『フカンショウ』を書き上げていました。
みんなも心に秘めた想いを吐き出して欲しい
──『街のあかり』を聞いてると、どこかノスタルジーな気分に浸ってしまいます。岩渕:『街のあかり』は、自分の地元である福岡県北九州市のことを振り返りながら書いた歌。今でこそシャッター街になってしまった地元だけど、昔はもっと栄えてて活気があり、人通りも多かったんです。今でも帰省しシャッター通りとなった街を観るたびに、昔の風景を思い出してしまう。しかも、「あの時はあーだった」と思い返すことが美しい想い出にもなるし、その想い出に浸ることが居心地良かったりもする。
その背景を知らない人から見たら、今はただの寂れたシャッター街だけど、僕には今もその風景は美しく見えるんですよね。『街のあかり』はちょっと悲しい歌にも聞こえるけど、実はとても前向きなというか、「それでも僕はこのシャッター街が好きなんだ」という歌なんです。
──アニメ「十二大戦」のオープニングテーマとしても流れていた『ラプチャー』は、音の空間美を活かした格好言い楽曲に仕上がっていません?
田野:普段は音を詰め込みたがる自分たちですが、いかに音数を抜きながら格好いい音源にしていくか、それを追求したのが『ラプチャー』なんです。音を抜くからには、どう活かした音で印象を作りあげてゆくか。このバンドは意表を突くことも好きだから、そういう要素も組み込んだドラマチックな楽曲として『ラプチャー』を作りました。
──『マジカルケミカル』の歌詞に込めた想いも、ぜひ聞かせてください。
岩渕:『マジカルケミカル』も、『フカンショウ』と同じように自分の弱さと向き合ったときに生まれた歌詞です。自分の弱さを伝えたいとき、まずは自分をさらけ出さないことには相手だって気持ちをさらけ出してはくれない意識がすごくありました。
僕は、形だけのコミュニケーションは取りたくない気持ちを強く持っています。そのためにも、まずは自分自身の心をさらけ出さなきゃいけない。自分が今、心に抱えているものとしっかり向き合いたいし、それに対して本音で話しあえる友達が欲しい。楽曲を通しても、もっともっと本音を言いたい想いが今はとても強くなっている。自分もこうやって歌を通して吐き出すから、みんなも心に秘めた想いを吐き出して欲しい。そんな想いを書いた歌です。
福岡、広島、大阪、神戸と、それぞれ出身の異なる4人が、神戸大学の軽音楽部で集まり、結成された4ピースオルタナティヴロックバンド。 2014年冬に結成の後、2015年には、ロッキング・オンが主催する「RO69JACK」でグランプリを獲得し、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」へ初出演。「バンドで食って···