テーマ曲を手がけた数だけみてば、倉木麻衣など、上で挙げた歌手たちのほうが多いのだが、小松未歩の曲は、当時アニメを見ていた人の印象に強烈に残っている。
中でも「謎」は、のちに別な歌手がカバーして、ふたたびコナンのテーマ曲になったほど、「コナン」にぴったりだったのである。
小松未歩とはどんな歌手なのか。実は、彼女はテレビやライブを含め、公式に人前に現れたことが一度もない。
当時のビーイング系の歌手がそういう売り出し方だったこともあるが、彼女自身が「謎」のヴェールに包まれてしまったのである。
公式ホームページには、私物写真やブログなど充実しているが、そのホームページも、2009年の更新を境に停止しており、現在の彼女は謎。
その前の2008年のブログでは、バウムクーヘンの食べ比べをしたと書いてあり、言動も若干謎な感じがする。
そんな謎づくしの彼女は、どんな歌詞を書いていたのだろう。今回は、「願い事ひとつだけ」の歌詞を取り上げようと思う。
小松未歩の「願い事ひとつだけ」
どうして二人は
出会ったの?
こんなに淋しい夕陽を
見るなんて
気の利いた言葉
探しても
離れた心を
つなぐ言葉なくて
「願い事ひとつだけ」で描かれるのは、繊細な情景。別れる一歩手前のカップルの、彼女側の立場で展開されていく。
もう心が離れてしまっている彼に向かって、少しだけでも綺麗に見えるように、できるだけの笑顔を向ける。
「願い事ひとつだけ叶えてくれるなら 傷つけあった愛が始まらないように」。終わりを予感した彼女の、儚い願いの言葉だ。
だが、「願い事ひとつだけ」は、別な見方もできる。そう、この曲は、コナンのテーマソングだったのだ。
コナンのストーリーになぞらえた歌詞の捉え方も、もちろんある。
アニメ「名探偵コナン」の世界観が見事に融合した最高の主題歌
自由に夢を追いかけてるあなたの噂を
聞くことさえ無理ね
江戸川コナンは、工藤新一の仮の姿。幼馴染の蘭にとっては、新一は行方をくらましていることになる。
この曲は、新一に会えない蘭の淋しさを歌った曲でもあるのだ。「こんなに淋しい夕陽を見るなんて」は、新一に会えずにひとりで夕陽を見ている蘭の心情を歌っている。
「あなたの噂を聞くことさえ無理ね」。アニメのなかで新一はときどき、蘭の前に現れるのだが、それでも、不在の時は新一の噂さえ聞こえてこない。蘭のせつなさが曲全体に表現されている。
アニメ主題歌をどう歌えばいいかは、歌手にとっては悩ましい問題だ。
アニメのストーリーになぞらえた歌詞にするのか、それとも世界観を匂わす程度にするのか。
アニメのストーリーと主題歌の世界観がぴったりと合ったとき、それは幸せなコラボレーションになる。
小松未歩の歌は、「コナン」という作品にバッチリハマっていた最高の例だったと言える。
TEXT:遠居ひとみ