最後のドームツアー「namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~」
2017年9月20日、1年後の9月16日に安室奈美恵が芸能活動を引退するというニュースはまたたく間に日本中を駆け巡った。1992年9月のデビューから25周年を迎え、いまなおアーティストとしてのピークを更新する安室奈美恵の突然の引退は、衝撃とともに受け止められた。【写真】笑顔でステージを走る安室奈美恵
引退発表を受けてリリースされたキャリアを総括するベストアルバム『Finally』のメガヒットに続いて、2018年2月からはじまった最後のドームツアー『namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~』では国内ソロアーティストとして史上最多の75万人を動員。そして2018年6月3日の東京ドームでツアーファイナルを迎えた。
“アムラー”が社会現象となった90年代。日本を代表する歌手となった後、ヒップホップやR&Bを導入しさらなる進化を遂げた2000年代。ひとりの女性、またアーティストとして同性からの支持を得つつ、ツアー動員やチャートの記録を更新し続けた2010年以降。
デビュー時に10代だった安室奈美恵の歩みは、各年代の新しいファン層の拡大とともに、日本の音楽シーンの歩みとそのまま重なり合っている。この日、東京ドームに集まったファンの姿はそのことを雄弁に物語っていた。20代後半から40代をメインに年配の方や男性も多く見られる。
高倍率をくぐりぬけて運よくチケットを手に入れたファンは、アムラーファッションや安室風のヘアスタイル、ツアーグッズなどを身に付け、ファイナルに向けた思いを全身で表現していた。
歌とダンスの融合したステージ
現時点ではラストステージとなっているこの日。満場の手拍子が鳴り響く中、客電が落ちるとあたりが歓声に包まれる。ステージ中央のビジョンにデビュー時からの映像が次々と映し出される。聖火台に火が灯されると、スポットライトを浴びて安室奈美恵が登場。流れてきたのはNHKリオ五輪・パラリンピックのテーマソング『Hero』のイントロ。そこにクリムゾンレッドのドレスを身にまとった安室が登場する。荘厳なオープニングだ。
ライブのスタートを告げる瞬間。そう、こんなふうにいつも走ってきた。ヒーローは安室自身。高鳴る鼓動に合わせて曲のBPMが上がる。
漆黒のビジョンに降り注ぐ流星。いつの間にかステージ上の安室の左右に現れた旗手が手にしたフラッグを振る『Hide & Seek』。その中心にいる安室はリスペクトするジャネット・ジャクソンのようにキャップを目深にかぶって行進する。重低音と電子音のクラッシュ。階段状のステージで息のあったダンスのコンビネーションを見せる。
見る間に黒のビーズビスチェに早着替えした安室。クイーンのオーラを放ちながら、歌とダンスが融合した『Do Me More』へ。妖しい魅力を漂わせ、ダンサーを従えてレーザーに照らされたステージ前方に向かう。
余裕すらうかがえる自信に満ちたパフォーマンスはEDM調の『Mint』でさらに加速。ダンサンブルで刺激的な曲を立て続けに披露する姿はとても引退を宣言したアーティストに見えない。
『Baby Don’t Cry』から『GIRL TALK』
ここで最初のインタリュード。聴きなれたイントロに目をやるとガーリーなピンクのワンピースを着た安室がステージ左手に現れる。ワンショルダーのデザインに黒のブーツとツインテールという装い。超絶かわいいのにまったくあざとさを感じさせないセンスには脱帽するしかない。多くの代表曲を生んだNao’ymtの筆によるミディアム・ポップナンバー『Baby Don’t Cry』。
間奏では手を振り上げて会場にクラップを促す。満ち足りた時間が流れるが、曲の余韻に浸っている間もなく、続く『GIRL TALK』のイントロが流れた瞬間に歓声が起きた。
高層ビルにキッチュなリップとカラフルなイメージが画面を舞う。楽しくて、格好良くて、おしゃれ。女の子なら誰もが憧れる要素が凝縮された夢のようなひととき。
安室奈美恵のDJ的なセンスが存分に発揮されたコンセプチュアルなシングル『60s 70s 80s』からの『NEW LOOK』と『WHAT A FEELING』。ソウルクラシックを現代的に解釈した『NEW LOOK』と80sブームを先取りした『WHAT A FEELING』。
新作を聴けば最新のトレンドがわかるという絶対的な信頼感が安室にはあるのだ。
安室奈美恵をスターにした90年代のナンバー
ラブリーなシルバーのミニワンピで踊る『Showtime』。ドラマ『母になる』の主題歌にもなった『Just You and I』では“君を抱きしめられないなら 私の両手に意味はない”と歌う。1人の女性としての凛としたたたずまいがまぶしい。
ハードなグルーヴのダンスチューン『Break It』、エレクトロ色を前面に出した『Say the word』とドームの広さを感じさせないアレンジが際立つ2曲を演奏。会場があたたまったところでビジョンに映し出されたのは夜の街。フェイヴォリットに挙げる人も多い『Love Story』。避けて通れない出会いと別れ。誰もが経験する心情を安室が歌うだけでなぜこんなに胸に響くのだろう。一人ひとりの思いが歌詞とシンクロして自然と客席もシンガロングする。
ライブ中盤では、安室奈美恵を一躍スターにした90年代のナンバーを披露。発表当時19歳だった『SWEET 19 BLUES』。
安室奈美恵というアーティストとともに歌も成長し、隠れていたソウルフルな魅力が開花していた。
ツアーの見せ場のひとつでもある『TRY ME ~私を信じて~』、『太陽のSEASON』。イエローのミニワンピをまとい当時と変わらないスタイルでキレのあるダンスを披露すると、会場の熱気は否が応にも高まる。アップテンポな『You're my sunshine』では客席と息の合ったかけあいも見られた。
運命に導かれるように歩んだ25年
25年のキャリアを総括する今回のツアー。傑作アルバム『Uncontrolled』からの『Get Myself Back』を歌い上げ、『a walk in the park』では1997年、2012年のライブ映像を左右のビジョンに並べる。ダンスや振り付け、髪をかき上げる仕草も過去の映像とシンクロする演出で会場を盛り上げる。コーラスが流れた瞬間、地鳴りのような拍手が鳴り響いた『Don't wanna cry』。年月を経て中低音域のボーカルに磨きがかかり、よりソウルフルでパワーを感じる歌い回しになった。“逢いたい人がいる I’ll be there・・・”、会場を指さしながら歌うと一体感のある空間が広がった。
壮大な『NEVER END』で悠久の時のながれに身をまかせた後、ウェディングドレスで登場した『CAN YOU CELEBRATE?』。
運命に導かれるように歩んできた25年。出会いと別れ、その中で築いてきたファンとの絆。どんなときも前向きに進む彼女の姿を自分と重ねあわせながら、多くの人が勇気をもらってきた。歌い終えると感極まったようにお辞儀をする。
「飛び込む勇気を届けるから一人じゃないよ」
いよいよライブも終盤にさしかかった。安室奈美恵というシンガーを鮮烈に印象づけた『Body Feels EXIT』ではピンヒールブーツでキレのあるダンスを披露。ラップからはじまる『Chase the Chance』。会場にマイクを向けてコーラスを促すと、ダンサーを従えてステージ前方に駆け出し、最後はシャウトしてフィニッシュ。苦楽をともにした同志とも言えるダンサーチーム。レディースに続いてDJのミックスに乗せてメンズのクルーを紹介。見知ったクルーが登場すると会場からも声援が送られる。
燃え盛るステージ上で歌う『Fighter』。現在のモードを取り入れて自身のスタイルとして提示すること。4つ打ちのEDMで 90年代から一気に現代へ引き戻すと、『In Two』でも最新形のダンスミュージックを聴かせる。いまの自分はこれだという強烈なメッセージ。最後まで現在進行形の安室奈美恵を見せてくれた。
本編最後は『Do It For Love』。サビでは手をふりあげて会場に呼びかける。
「騒げ、東京!!」“THANK YOU 25 I LOVE FAN!”というメッセージボードの上で最後の力を振り絞って叫ぶと、“Do it for love(愛のために生きよう)”と力強く歌いステージを降りた。
とびっきりの笑顔と愛
アンコールでは、最初にアニメ『ワンピース』の主人公である麦わらのルフィと仲間たちのメッセージを紹介。ルフィの呼びかけに満面の笑みを浮かべながら再登場し、主題歌『Hope』を歌う。ツアー最後の衣装はツアーTシャツにミニスカ、そしてヘアバンドというファンと共通のスタイル。上空からのバルーンのプレゼントにアリーナ席が沸きかえる。ピアノ伴奏からツアータイトルにもなった『Finally』。すべての人々への思いが込められたバラードだ。
走り続けてきた日々についに終止符が打たれる。ファンへのプレゼントのようにバラの花が次々と咲いて感謝の思いを込めた言葉が浮かび上がる。
ファイナル最後の1曲『How do you feel now?』。最後は涙じゃなく笑顔で終わりたいという希望が込められたポップなナンバーは16年ぶりの小室哲哉プロデュース。“あなたはどう思う?”と問いかけるその答えはきっと一人ひとりの未来にあるはず。
ダンサーたちを送り出し1人残った安室。25年間支えてくれたファンにお別れを言うため涙をこらえながら語りかける。引退すること、ファン、スタッフへの感謝。あらためて「25年間、ありがとうございました」と感謝を伝え、「最後は笑顔で」、「みんな、元気でね!バイバーイ!!」。ありったけの愛を込めてファイナルツアーのステージを後にした。
安室奈美恵が私たちに残してくれたものは、ひとりの女性、アーティスト、人間としての生き方。
そして、とびっきりの笑顔と愛。
『Don’t wanna cry』で歌われるように、どこへでも道は続いている。だから、また会えるその日まで泣いたりはしない。それが安室が教えてくれたことだから。
Text:石河コウヘイ
告知
この日終幕となった『namie amuro Final Tour 2018 ~Finally~』。ファイナルの6月3日東京ドーム追加公演と、2017年9月の沖縄ライブに加えて、名古屋、福岡、札幌、大阪、そして5月の東京という5公演から1カ所を加えた豪華3枚組のライブDVD・Blu-rayが2018年8月29日に発売される。ファンにとっては永久保存版であり、安室奈美恵の25年をたどるベスト・ライブをぜひご覧ください。
安室奈美恵さんが6月3日に行った
— 歌詞・音楽メディアUtaTen (@utaten) 2018年6月8日
最終公演の模様をレポートでお届け!
たくさんの感謝が
満ち溢れていた
25年のラストを飾るステージ。
最後まで、愛と希望と笑顔をくれた
彼女の様子をぜひご覧ください!#安室奈美恵#安室ちゃん #ありがとうhttps://t.co/AyVzFXV32e pic.twitter.com/zpny7WUdpu