今の自分が感じてる想いを全部出し切ることが、今の自分が歌えること
――何事も数値化される世の中だけど、でも、自分の個性は数値化されるものではないですからね。岩渕:そうなんです。これもたとえ話になりますけど、その人が取ったテストの点数が何十点だから、それ以上の点数を取った人よりもその人は劣っているのかと言うと、けっしてそんなことはない。でも、世の中では「こんだけの点数を取っている人に比べたら、君は劣ってるんだ」と言われてしまうじゃないですか。僕自身、今までにもそういう経験はいろいろあったし。就職して働いているまわりの友達なんか、もっといろんなことを言われてる。それこそ数字という結果だけを判断基準に「お前の変わりなどいくらでもいるんだよ」と言われたり。でも、そういう言葉に敏感になり過ぎたらいけないなと思って。
人が決めた基準や尺度で、自分が持っている可能性を狭めてる人って、世の中にはいっぱいいるんだろうなと思う。だからこそ僕は、「人生や生き方ってそういうものじゃないだろ」という想いを持ってしまうんだと思います。
――とくに表現者の場合、数字に縛られもしなければ、数字では計ることの出来ない個性と言いますか、「俺はこうだから」という意志をどれだけ投影してゆくかが大切になることですもんね。
岩渕:それはあります。人の中にある「心の叫び」って、絶対に数値化出来ないものじゃないですか。それこそ、テストの点数をぜんぜん取れない人にだって、そこだけでは判断出来ない才能はあること。そういう数字にはたとえられないものを、僕は音楽を通して表現していきたい。『$UJI』の歌詞に「測らせてたまるか 煮えたぎる衝動を」と書いたのも、「自分の人生を。自分らの楽曲を聞いてくれる人たちの人生も数字なんかで測らせてたまるか」と思ってのことなんです。
――まさに『$UJI』という楽曲は、聴いた人それぞれへ一つの気づきを与える楽曲ですね。
岩渕:そうなってくれたらなと思います。僕自身、「数字のことなど一切気にしてないです」と歌うのは嘘になるなと思ってる。数字のことばかり気にしてる社会や人生、そうやって生きてる人ってなんか違うなと思いながらも、やっぱし、どこかで数字のことも気にする自分を否定は出来ないように、自分の意識や考えの中にも矛盾を感じているのが今の僕なんです。そこに葛藤を覚えているからこそ、『$UJI』を通し、その矛盾も含め、今の自分が感じてる想いを全部出し切ることが、今の自分が歌えることかなとも思ったんですね。だからこの歌には、「数字を気にしちゃうけど気にしたくないんです」という想いも出ていれば、それが、今の自分にとってのリアルだからこそ歌詞にもそう投影していきました。
――『$UJI』は、環境の変化によって生まれた意識や考え方という面もあるのでしょうか?
岩渕:そうですね。メジャーへと進み、そこでアルバムを出してからいろいろ思ったこともあれば、その意識が反映された面もあると思います。
奇麗事や嘘を歌ってもしょうがないし、楽しくないのに「楽しい」とは歌えないし、自分が本当に怒っていることにしか怒れない。けっして「さらけ出してやる」という気持ちではないんだけど、「さらけ出さずにいれない」。
――想太さん自身、身近な物事を題材に楽曲を作ることが多いのでしょうか?
岩渕:僕は、そうですね。自分が思ってないことは書けない性格。ミニアルバム『PANORAMADDICTION』の中にも、いろんな表情を詰め込んだんですけど。中でもとくに『フカンショウ』という楽曲が、いろんな人たちの心に刺さりました。『フカンショウ』は、自分の中にある一番どろどろとした想いを吐き出した曲であり、自分の気持ちを嘘無く歌った楽曲。自分の中でも、一番パーソナルな想いを詰め込んだ曲だったにも関わらず、その『フカンショウ』が一番強く支持を受けました。そのときに思ったのが、「どろどろとした感情も含め、自分の本音を出し切らないことには、人の心にも届かない」ということ。しかも、それを表現していくことが自分の持ち味であり、パノラマパナマタウンの魅力になるとわかったからこそ、余計に今は、自分が見えたものや感じた想いなどをリアルに楽曲へ投影するようになった。そうやって生まれた1曲が『$UJI』ですからね。
――確かに人は、奇麗事よりもリアルな心の叫びのほうに共鳴や共感を覚えますからね。
岩渕:今って、みんな嘘に敏感な時代じゃないですか。楽しくないのに楽しいと言ったり、本当はそんなに怒ってないのに「怒ってる」と歌ったり、そういう見え透いた書き込みや歌詞が多いなと思って。だからこそ自分は、本気でリアルな気持ちを歌いたいなと思ってる。何より、この『$UJI』に共感した人たちが、いっぱいライブに集まり、みんなで♪すうじー!!♪と叫びながら盛り上がってくれたら最高じゃないですか。そのうえで、僕らのライブを通し、「自分って誰かの定規に合わせて生きてたんだ」とか「つまんない 生き方をしてきたのかも知れないな」と思ってもらえたら嬉しいし、そういう気持ちさえライブを通して発散してくれたらもっと嬉しいなと思ってる。
――想太さん自身は、これからも自分の感情をさらけ出しながら歌い続けていくんでしょうね。
岩渕:いまさら奇麗事や嘘を歌ってもしょうがないし、楽しくないのに「楽しい」とは歌えないし、自分が本当に怒っていることにしか怒れない。けっして「さらけ出してやる」という気持ちではないんだけど、「さらけ出さずにいれない」というか。パノラマパナマタウンは、そういうことを歌うバンドでありたいなと思っています。
福岡、広島、大阪、神戸と、それぞれ出身の異なる4人が、神戸大学の軽音楽部で集まり、結成された4ピースオルタナティヴロックバンド。 2014年冬に結成の後、2015年には、ロッキング・オンが主催する「RO69JACK」でグランプリを獲得し、「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」へ初出演。「バンドで食って···