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【コラム】「ダンシング・ヒーロー」には、その後の物語があった!!

2017年、大阪府立登美丘高等学校ダンス部による"バブリーダンス"の使用曲として再注目され、32年越しのリバイバルヒットとなった荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー (Eat You Up)」(1985)。この曲はイギリスの歌手、アンジー・ゴールドの「Eat You Up」をカバーしたものである。

2018年11月5日

Column

quenjiro


この記事の目次
  1. ・荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」
  2. ・原曲Angie Gold「Eat You Up」との比較
  3. ・憧れのシンデレラボーイがいつしか憎しみの対象に
80年代の歌謡シーンでは、海外の曲を日本語でカバーするのが随分と流行した。

日本語に書き改められたそれらの歌詞は、原曲の意と大きく違うことが常であったが、「Eat You Up」>「ダンシング・ヒーロー」もまたその例に漏れない。

そしてその違いから、さまざまな事情や思惑、そして新たな物語さえ見えてくるのが面白い。

まずはカバーの方、「ダンシング・ヒーロー」の歌詞を見てみよう。

この曲の歌詞はあいまいで、案外解釈が難しいかもしれない。いきなり冒頭から読解を始めなくてはならないのだ。

荻野目洋子「ダンシング・ヒーロー」



「愛してるよ…」なんて
誘ってもくれない


この一文は、二通りに読むことができる。

1.「愛してるよ…」なんて(言っておきながら)誘ってもくれない
2.「愛してるよ…」なんて(いう言葉で誘ってほしいのに)誘ってもくれない

正解は(2)だろう。サビにおいて<今夜だけでもシンデレラ・ボーイ>にと彼に期待を寄せるのは、「愛してるよ」なんて言うこともない普段の姿から(シンデレラのように)変貌して自分を誘ってほしいからだ。

原曲Angie Gold「Eat You Up」との比較

ところで「ダンシング・ヒーロー」の歌詞の中で、もっとも原曲に寄せている箇所がこの冒頭部分だ。

というより、表面的に似ているのはこの部分のみだと言ってよい。「Eat You Up」の冒頭を見てみよう。

You told me once that you loved me
You said that I was the only one


あなたは私を愛してるなんて言ってたわね
お前だけだ、なんて言ってたわよね


御覧の通り似てはいるものの、ニュアンスは大きく違う。「Eat You Up」の彼は、すでに愛の言葉を口にしている。

注目したいのは「愛していると言われたことがない/愛していると言ってたわね」という背反の関係が成立している点だ。

そして両曲の歌詞の違いはここを起点にどんどん広がっていく。再び「ダンシング・ヒーロー」に戻ってみよう。二番の冒頭からサビ手前までだ。

「君が好きだ…」なんて
抱きしめても くれない
不思議色の 月光(ムーンライト) 素敵な夜よ
瞳に飛ばすの 誘惑のレーザー
ふたりだけのパラダイス
飛んでみたいのよ…


妄想的な言葉をやたらに弄する様子に、今宵をどうにかして<素敵な夜>に仕立て上げたいという執念が滲む。そしてその本音をついにサビで打ち明ける。

今夜だけでも シンデレラ・ボーイ
Do you wanna dance tonight
ロマンティックを さらって
Do you wanna hold me tight


少女らしい妄想で高められていたのは、<Do you wanna hold me tight>といった、より肉体的な交歓への願望だった。

この暴発寸前の思春期の少女の心のさまを描写したのが、「ダンシング・ヒーロー」の歌詞だ。

さて、「Eat You Up」と「ダンシング・ヒーロー」との歌詞の大きな違い、それは描写される恋愛の時期の違いである。

「ダンシング・ヒーロー」が恋の最初期であるのに対し、「Eat You Up」は恋の終盤も終盤、最後の精算といった内容だ。

憧れのシンデレラボーイがいつしか憎しみの対象に

You told me once that you loved me
You said that I was the only one
(中略)
Messin' with me wasn't wise, boy
Cos I've been around for too long
And now you're gonna pay for those lies, boy
I'm gonna put you back down
(We're used to be)

I'm gonna eat you up, spit you out
And run you right into the ground
I'm gonna wind you up, turn you on
And burn all your bridges right down


あなたは私を愛してるなんて言ってたわね
お前だけだ、なんて言ってたわよね
(中略)
愚かなやり方だったわね、ボーイ
あんなに長い間近くにいたのに
数々の嘘の代償を払ってもらうために、ボーイ
あなたを連れ戻すわよ
(前はそうだったじゃない)


あなたを食べ尽くして、吐き出してやる
あなたがへたばるまで
責め立てて、刺激して
あなたとの関係を終わらせてやる


<あなたを食べ尽くして、吐き出してやる>という恨み節としても品のない言い草が、この歌詞の気分を如実に表している。少なくとも17歳の日本人少女がそのまま歌えるような歌詞ではない。

であるならば、「Eat You Up」の主人公の時計の針を、当時の荻野目洋子の年齢まで戻してみてはどうか。「愛してるよ」なんてまだ言われたこともない年頃までに。

「ダンシング・ヒーロー」のアイディアはこうした発想で生まれたのかもしれない。冒頭部分の背反表現にその痕跡を感じる。

さらにそう思えば、「Eat You Up」で繰り返される<ボーイ>の響きは、「ダンシング・ヒーロー」における<シンデレラボーイ>と結び付く。

憎きボーイもかつては憧れのシンデレラボーイだったのだ。

TEXT:quenjiro

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