時計草はお花
――まず、「時計草は太陽見上げ 時を刻む自分だけの時を」というフレーズを書かれていると思うんですが、時計草って雑草でしょうか…?笹川:時計草ってすごくきれいなお花なんですよ。時計みたいなの。うちの祖母はお花が好きなので、庭中のいたるところに四季折々の花が咲くんですけど。今年は咲いていなかったかな…。そこに時計草というお花があって、それは夏の花なんです。なぜか分からないんですけど、この曲を作ろうと思ったときに、時計草ってすごく出てきて。時計草って、自分で枯れるときも咲くときも決めているんです。
そこで、少年じゃなくても良いんですけど、当時の人たちも自分の時を刻めるんだよというところを、やっぱり打ち出したいということもあって。太陽を見て、自分でどうしたいか決める、自分に意志がきちんとあるということを出したくて。最初にそれにしたんです。あとは、時計草というお花が元々好きなんです。きれいなお花なんですよ。
――時計草ってカタカナですか?
笹川:時計草なんです。本当にあるんですよ!検索したら出ると思うんですけど。うちの田舎だけじゃないと思います(笑)
――検索したんですけど、カタカナが多くて(笑)
笹川:本当は時計じゃないのかな?(笑)私が勝手に時計みたいだから時計なのかなと思っていたけど。間違っていたらあれだけど、そこはそういうものだと思ってください(笑)
――ロマンチックですよね、時計草というお花が。
笹川:綺麗ですよね。私は名詞のきれいな言葉がすごく好きで。そこから歌詞を書くことが多いんです。今回は、すごく好きな夏の風物詩を全部ピックアップしたりして。その中から物語を紡いだりしましたね。
――ちなみにピックアップした言葉を教えてもらえますか?
笹川:結構ありますよ。まず、「時計草」もそうですし。「雲の峰」も夏なんですよね。要は、入道雲なんですけど。あとは、「日傘」も夏ですし。「合歓の花」も元々すごく好きなお花で、いつか歌詞に入れたいと思っていて。あとは、何気に好きなのが「草笛」なんですけど。草笛って季節的なものが夏なんですよね。だから、日本人なら誰しも想像ができるような、イメージが膨らみそうな景色を描いたつもりではいますね。
――「渾身を震わせて」という歌詞がありますが、それをあえて全身じゃなくて、渾身と書かれていたのが印象的でした。
笹川:実際に全身で羽を震わせているのが蝉だと思うんですけど。全身なんてものじゃなくて、魂全て、全部さらけ出して、命を削っているのかなと思ったし。そこに少年たちも重ねたいというか。これは、本当に誰でも良いんですけど、全身なんてものじゃなくて。
たぶん、何かをすり減らさないといけないときって、必ずあるのかなと思っていて。だから、全身だと弱いと思って、それで渾身だなと思ったんです。ただ、渾身だと、私の中ではどうしてもメロディーとの兼ね合いが、好きじゃなかったので全身という歌い方にはしているんですけどね。全身を越えた全身という意味で渾身にしていますね。
――この字だけで、また読み方が変わりますね。
笹川:変わると思うんですよね。全身は体だけという感じがして。渾身にすると中身も全てという感じがするので。そこはそうなんですよね。
夏の恋の思い出
――「合歓の花に重ね淡い想いも 線香花火の火花と燃える」とあると思うんですけど、ここはどういう意味がありますか?笹川:合歓の花が元々本当にすごく好きで。合歓の花もピンクでほわほわしている花がバーッとつくんです。私たちと同じ人間だから、戦争の少年たちもきっと恋もしただろうなと思うし、ちょうど年頃の男の子たちだから、恋をしないこともないだろうと思って。
私、恋をしていてほしかったなと思ったんですよね。恋心をどうしても出したくて。でも、彼らは叶えるまではいっていないかもしれなくて。だから、合歓の花を見て、そこに女性の影というか、好きな人の影を表現したかったんです。
――とても切なくも美しい思いですね。
笹川:はい。本当に淡いお花なんですよね。だから、触りたいとか、そこまでもいかないような。純粋にあの女の子が好きだなというくらいの恋心を、合歓の花と重ねたというのがあって。「線香花火の火花と燃える」というのはもう諦めじゃないんですけど、叶わない恋だと分かっているというところを表したくて。ただ、線香花火の火花と散ると、どうしても「散る」と言いたくなかったんです。終わっちゃう感じがしたので。「燃える」だったら、まだ命がすごく燃え盛っているという感じがあるかなと思って、散るではなく燃えるにしたんですよね。
――そうだったんですね!私も散るだと思っていました。
笹川:ね!私も火花と散るが当然なんだろうけど…。でも、散るは彼らや、生きているものに対して、あまり良いイメージの言葉じゃないなと思ったから。燃えたらいつか燃え尽きるんですけど。そこまで言わなくても。今は燃えている時を表したいなと思って、この言葉にしましたね。
――脱線しちゃうんですけど、笹川さんは、幼いころの夏の恋の思い出はありますか?
笹川:高校時代の夏の恋の思い出があります。好きな人と花火大会に行く約束をしたんですよね。約束をして浴衣を着て待っているのに来なくて。それで、相手がすごく遅れてきたんですけど、花火を見に行ったのに、相手の機嫌がすごく悪くて。見ている途中で、一人でトコトコ歩いて帰って、追いかけたらゲタの歯が1枚折れるという…。それは、夏の良い思い出じゃないけどありますね(笑)
――絵に書いたような…。
笹川:でしょ!本当に。あれは18歳くらいだと思うんですけど。でも、中学校とかって夏休みに入ると好きな男の子に会えなくなるじゃないですか。学校明けに行くときに、久しぶりに会えるというあのワクワクと、ちょっと気恥ずかしさという、あれは良い思い出ですね。でもゲタの奴は、もう名前も覚えていない(笑)そんなもんです(笑)名前の最後が、アキだったか、ユキだったか、思い出せない。結局、小学校のときのほうが、ずっときれいな思い出で残りますよね~?(笑)だから、彼らは綺麗なときのままで終われているのかなというのはありますよね。
――そんなお話しがあったんですね(笑)原因は分からなかったんですか?
笹川:ちっとも分からない!そのあと家に帰って泣きました。終わりましたけどね…。案の定ですよ。
――「涙は砂埃のせいさ」というフレーズがありますが、涙と砂埃が結びついた所が気になりました。
笹川:ちょっと野球もかけたくて。野球はやっぱり埃まみれですよね。マウンドというか、夏の乾いた大地に一人で立っている、それでも負けずに一人で立っているというのを表したくて。夏は、やっぱりカサカサしているので。泣いているけど違うんだよ、みたいな。砂埃のせいなんだよ、と言っている、ちょっと無理している感じの男の子を出したくて。
――それから、続けて「夏風涙さらって 草笛の音きこえたような」というふうになるんですね。
笹川:はい。草笛という言葉が、すごく素敵だなと思って。草笛の音って、ブゥーって小さい子が鳴らしているのって、すごく平和な音色だなと思ったんです。平和な時代の思い出というのを重ね合わせたくて。でも、夏風に吹かれると一人、現実的には、やっぱり死ににいかなければならないというものがあったので。そこを表したくてこの4行を作ったんですよね。個人的には、ここのメロディーがすごく好きなんですけど。
――作曲に関してですが、ピアノの1音1音が綺麗に鳴り響くのが聴いていて心地良いです。メロディー自体も同時進行だったんですか?
笹川:そうなんですよね。曲の作り方として、最初からなぜかメロディーと歌詞が同時という作り方をしてしまったので。その作り方がほぼほぼなんですよね。作・演出の西田さんが蝉というワードを言ったときに、蝉って良いなと思って。なので、『蝉時雨』は決まっていたことなんですけど、あとは、この言葉たちを書き出していて、それをどう歌詞に入れて物語と歌詞・主題歌にするかというのを考えながら作った感じなんですよね。