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朝帰り女子を歌う、「残ってる」の吉澤嘉代子は物語る力がすごい!

先日、メジャーデビュー後4作目となるアルバム、『女優姉妹』をリリースした、吉澤嘉代子。収録曲のなかには、ドラマ主題歌になった「月曜日戦争」や、テレビ朝日「関ジャム」でセッションが披露された「残ってる」などがあり、だんだんと注目度が高くなっているのがわかる。


吉澤嘉代子「残ってる」

「残ってる」を聴いたことがある方ならわかると思うが、これは朝帰りの曲。でもこの曲、吉澤嘉代子自身の体験を元にしたわけでは必ずしもないってこと、知っていただろうか?

【動画】「残ってる」のMVを見てからコラムを読みたい

誰からも共感されるような女の子の物語

吉澤が友達と話している時、「この前、駅にいかにも朝帰りっぽい女の子がいた」というのを聞いて、その子の曲を書こうと思ったんだそう。秋寒駅前のコンコース、街ゆく人が厚着をしだすなかで、ただひとり昨日の夏服のままの女の子が思い浮かんだという。

最近のシンガーソングライターのイメージだと、自身の体験で曲を書く方も多い。

けれど、吉澤のやり方は、影響を受けているとされるユーミンこと松任谷由実に近いものがあるのかもしれない。そのへんにいそうな、でも誰からも共感されるような、そんな女の子の物語を曲にしている。


夜の燃えるような情事を経て…

――――
駐輪場で鍵を探すとき
かき氷いろのネイルがはげていた
造花の向日葵は私みたい
もう夏は寒々しい
――――
情景がすごく浮かんでくる部分。赤だろうか、それとも水色や黄色をしたかき氷いろのネイル。ネイルが剥げ、夜の燃えるような情事を経て、気が抜けてしまったのだろう。着飾っているけど、くたびれた私は、夏に取り残された女の子。

吉澤がつくりたい音楽は、主人公がいて、物語がある。いわゆるフィクション。それを聞く人が疑似体験をして自己を投影する、小説のような機能をもった音楽をつくりたいとインタビューで語っている。この駐輪場のくだりは、小説の情景描写にあるような詳細さで、聴く人を物語の世界に入り込ませる。幼い頃に読んだ、数々の物語に救われてきたという吉澤。同じようにして、自身も聴く人に寄り添いたいという思いがあるのだ。


フィクションのなかにノンフィクション

――――
まだ あなたが残ってる からだの奥に残ってる
ここもここもどこかしこも あなただらけ
でも忙しい朝が 連れて行っちゃうの
いかないで いかないで いかないで いかないで
私まだ 昨日を生きていたい
――――

ただ、この曲が全部作り物かというと、それも疑わしい。吉澤は、先ほどのインタビューで、“感情の部分はいつでも本物じゃないと曲が輝かないと思っている”と言っている。つまり、この曲で描かれた女の子の思い、それこそが吉澤の原体験なのではないだろうか。朝帰りをした経験のある方なら、「残ってる」感じや、なんとなく昨日に引きずられる感覚、身に覚えがあると思う。フィクションのなかに、ノンフィクションを封じ込める吉澤嘉代子。その並外れたストーリーテリングには、目を見張るものがある。


彼女独自の世界観は、唯一無二

余談だが、私のなかでどうしても、この曲はアダルトなイメージがある。それは、歌詞が純愛というよりも、どちらかというと身体の関係を思い出させてしまうから。Youtubeのコメント欄にも、不倫をしていたり、肉体関係だけを持った人が、この曲に共感しているコメントがいくつかある。清純な椎名林檎とも言われる吉澤だが、似ていたのは「地獄タクシー」の頃の歌い方ぐらいで、彼女独自の世界観は、唯一無二だ。

物語を描いて歌う人、吉澤嘉代子。今後の活躍がますます楽しみな歌手である。

【動画】地獄タクシーの唯一無二の世界観

TEXT:毛布

1990年、埼玉県川口市生まれ。鋳物工場育ち。 ヤマハ主催「Music Revolution」でのグランプリ・オーディエンス賞のダブル受賞をきっかけに2014年メジャーデビュー。 バカリズム作ドラマ「架空OL日記」の主題歌「月曜日戦争」を書き下ろす。2ndシングル「残ってる」がロングヒットする中、018年1···

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