女のコ口説くのに男の声にエフェクトかかっていたらおかしいというあくまでシンプルな理屈に基づく自然なやり方であると推理する。
音楽的構築の穴、詰めの甘さといった欠如どころか、逆に余裕とラグジュアリー感あふれる作品群となった。
「FULL MOON」
登坂広臣の声がこんなにも凄いとは思わなかった。声がいいというより、声の魅せ方がうまいのだ。
サビ前は己の声に自ら光と影を作り出し、明確に時には不確かな輝きを放ちながらリスナーを誘い込む。
そして高音パートでは、滑走路を駆け抜け、今まさに離陸しようとするかのような無限に広がる伸びを見せ、かつその伸びをしつこく貼りつかせず、最高のタイミングで消滅させることで、リスナーの欲望を煽る。
ボイストレーニングだけではない、人生のトレーニング―女性に与え受け取った甘美、苦み、痛みが果実となり、熟し、満ちた状態で今その時を迎え、夜に注がれている。
「WASTED LOVE」
まず、ストレートな歌詞がいい。社会問題や生きづらさをつづった歌詞が主流の今、「ふと目があった時、物語が始まっていた」には、求め続けていた「これ」という新鮮味がある。
曲全体のテイストはダンスミュージック。しかしこの曲は女のコを躍らせるためのものではない。
ドラマや映画のBGMで踊りだす子がいないことは頭ではわかっていても、それを音楽の枠の中で示されると素直にびっくりしてしまう。
あくまでストーリー展開のためだけにあるアレンジ。そのため“想い”というより心臓の高鳴りといった、切迫したテンションの高さが感じられる。
平成初期の懐かしくも新感覚な香りと今を泳ぐ登坂のあらゆるアプリケーションがちらつくボーカル。この交錯がたまらなくエロい。
「EGO」
無機質なレゲエのドラムのあとに続く鋭角的なエレクリックサウンド。
これはレゲエなのか、クラブミュージックなのか困惑していると、本体となる泥臭いレゲエのリズムが刻まれる。
これに乗る、「たとえバラの棘も抱きしめられるから」の切なさには熱いときめきを感じる。
スニーカーと革靴でステップを踏むかの違和感をあえて押し出しながらも、策に溺れる感がないのは、登坂広臣のボーカリストとしての懐の深さだろう。
リズムの揺れ、はみだしをフラットに抑え込むことで、フルスピードで駆け抜けていく恋はぶれることなく鮮明に捉えられ、レゲエのリズムの上に綺麗な形のまま置くことができるのだ。
音楽的意外性を耳で感じ、脳内は芳醇な登坂の男の色気で満たされている。
「One Last Time」
登坂広臣のスーツのしわ1つないストイックなボーカルと、BENIのリラックスモードのボーカル。
男女のコラボとなると、男性アーティストの“オレの腕の中で彼女を転がしてる感”―重いプロデュース感が発生しがちだが、この作品はそれが全くない。
2人のボーカルそれぞれに、自分のやり方でやるという強いインディペンデンスがあるため、逆に2人が対等な質感のまま、無駄なく、ムラなく溶け合っているのがかっこいい。
あらゆることに妥協するにはまだ早い、凛とした大人のグルーブ感が心地いいナンバーである。
「HEART of GOLD」
金髪にチョコレート腹筋。おそらく麻布十番あたりでしか見つけることができない登坂広臣が、うちの町内のクリーンデーで笑顔で排水溝の掃除をしているような、夢のような世界が広がる。
そこに実際の夢のような、“絶望的なあり得なさ”が全くないのは、普段通りの彼のボーカルのせいだろう。
彼が、義務的にその唱法を道徳的モードにギアチェンジすることなく、甘くほろ苦い、女を堕とすためのボーカルに徹しているため、「俺もそんな存在になりたいのさ」は、彼が普通に発した言葉になるのだ。
つまりこの曲の良さは、何も感動を生まないことだ。「HEART of GOLD」を聴くと、仕事もっと頑張ろうとか、朝の整列乗車での席取りの失敗が忘れられるというとそうではない。
やっぱり登坂は登坂であり、この「HEART of GOLD」を歌っている時だけ、彼の体臭が突如醤油せんべい臭くなることはないのだ。
そこに登坂の冷たさを感じることはない。むしろ彼の人間性、温かみを覚える。やっぱり登坂広臣はプロの雄だと思う。
「OUTRO ~ECLIPSE DE LUNE~」
この曲がなかったら、このアルバムに不快とまではいかない重力を感じていただろう。
ラストナンバーたる作品としての形は確かに不完全でありながら、2分18秒はアディショナルタイムとしてはやや長めだ。
この半端ない中途半端なエピローグがあることで、このアルバムの格はふわっと浮いた状態となっている。
視点を変えたプロデュース戦略に、ただ唸るしかない。
登坂広臣から放たれる揺るぎない、絶対的プライドが感じ取れる「FULL MOON」
「FULL MOON」は分かりやすく言うと“エンタメアルバム”だ。戦略、策謀を緻密に張り巡らせておきながら、作品にはその欠片すら反映させないで、あえて華やかな楽しい部分だけを見せることに徹底している。
音の面白さ、歌詞の深読みなど、要素の1つ1つをリスナーにぶつけてくる今の音楽トレンドと比較すると、かけ離れている感は正直否めない。
ただ言うまでもないが、それは劣後的意味ではない。
むしろ今の音楽とは全く別の立ち位置に佇立しているのだという、揺るぎない、絶対的プライドと言ったほうがいい。
登坂広臣から放たれたその底知れぬ深さと重み。それはありふれた美意識となって、今夜も女のコの髪にやさしく降り注ぐのだ。
TEXT:平田 悦子
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