フレデリックの新しい面も出た幅の広い音作り
──一方で、7曲目の「他所のピラニア」という曲ですが、この曲は“久々にこんな感じの曲を聴いたな”という感じもしました。ファーストミニアルバム『うちゅうにむちゅう』の一曲目の、「SPAM生活」という曲を聴いたときに、私は“PRIMUSみたいだな”という印象を受けていまして。隆児さんが奏でている不協和ぎりぎりのギターのカウンターメロディがとにかく、いい意味で気持ち悪くて(笑)。三原康司:そうですか?そう感じてくださったのは、メッチャうれしいですけどね(笑)
──いや、本当に気持ち悪いな~と思っていた感じが、本当に久々に、と(笑)。今回のアルバムを聴くとこの曲と、また6曲目の「スキライズム」という曲、繰り返しという部分が強いところは、割と以前のフレデリックを感じられるような雰囲気があったり。やっぱりイズムという部分で、自分たちで新しくなる部分と、元から崩さない部分というのがあるのかな、と思いました。
三原康司:そうですね、ずっと持ち続けているものだったり、スタイルみたいなものって、多分それぞれのイメージの中にあると思うんですよね。
やっぱりそのころのフレデリックを知っていた方もいたと思うし、今のフレデリックを知った方もいらっしゃると思うんですけど、その中でも本当にこう「他所のピラニア」みたいな曲もあれば、「スキライズム」みたいな曲もあり、まあ「LIGHT」のような曲もあって、本当に幅の広い、なかなかないアルバムになったと思うんです。
ある程度スタイルが固まってくると、同じ形っていうのをやってしまうと思うんですけど、僕らはそうならず、あえてそこに挑戦していきたいというか、もっと幅を広げていきたいと思うんです。
先程のイズムの話でいえば、すごくバンド自体の、音楽への視点の広さというか、楽しめ方みたいな部分が、すごく僕は膨大だなと思っているんで、そこの部分というのは、イズムの一つなのかなと思います。
──今言われたこの幅の広さって、本当にすごいなと思います。新しいことに挑戦しようとすると、元の形がどうしても崩れやすいというのが。たとえば「LIGHT」って、シンプルだけどすごくおしゃれな感じもあり、その意味では新しいフレデリックの形という感じでもあります。
三原康司:そうですね、曲としては結構洋楽チックな格好ですし。
──ちなみにまた「他所のピラニア」の気持ち悪い話をつついてしまうんですが(笑)、結構こういうアレンジは、(ギターの赤頭)隆児さんの影響も強いのでしょうか?ギターの影響が強いのかな、とも思いました。
三原康司:そういう部分もありますね。まあ曲によって結構、その都度その都度バンドメンバーのアイデアがあったりするので。
「他所のピラニア」は曲のテーマに合うように、最初から気持ち悪くしましょうというテーマはありました(笑)。だからデモのときよりも全然、もっともっとエグくという形でしたし。そこはでも言葉に沿って、という命題もあったりしたので、曲のイメージに寄せてもいます。
──でもよく考えると、この曲だけ「ピラニア」みたいなイメージがポッと出てくるというのも面白いですよね(笑)。また今は曲の作り方も、いろんなやり方で?
三原康司:そうですね。もともとは僕がデモを作って、メンバーに聴いてもらって、そこから自由にアレンジをしてもらって、また一緒に考えあって、最終的に楽曲として作り上げていくというのが多かったので。
──では、今はそれが割と洗練された形で、そういうものが強く出てくるという感じなのでしょうか?
三原康司:まあ作り方は最初のころと全然変わってないな、という感じですが。デモの形も変わってないなと思うんですけどね。
だから、レコーディングスタジオが変わったりとか、いろんなことがあったりはするんですけど、基本的に生まれるものと、メンバーにそれを聞かせるというやり方は、それは変わらずという感じだとは思っているんですが。
──デモで出てくるイメージというのは、何か一つのテーマに沿ってアイデアが出てくるのか、あるいは言葉が先に出てきて、それに対して派生していくものなのか、というのは、それはどちらなのでしょうか?
三原康司:今回のアルバムに関しては、テーマのほうが先というのが多かったです。で、テーマを決めたときに、自分でいろんな形で歌ってみて、そこに合う言葉だったり、自分がずっと常日頃からメモを取っているものを、それが結構破片ではあるけど、その中から同じキーワードだったり、つながってくるものがあれば、寄せてその曲に入れたりとかという格好で作っているんです。
──なるほど。では結構偶発的なものも多かったりするのでしょうか?それは曲によってだとは思いますが。
三原康司:ですね。まあそのまま一気に出てきたりすることもあります。
「失敗しても、それにより積み重なったものがある」
──ではここで一つ、”ピックアップフレーズ”をおうかがいしたいのですが。なかなかこれ全部を作られている中でこれを選ぶ、というのは、作詞/作曲者としては選び辛いというところもあるかもしれませんが…三原康司:う~ん、難しいな…では、4曲目の「対価」という曲で。
──これもまた二面性のある曲ですよね。
三原康司:そうですね。この中の「間違った分だけ 僕らは強くなる」という最初のフレーズをピックアップしたいと思います。すごくこの曲自体が、僕はずっと作りたかった曲だったんです。
自分たちがバンドシーンでやっていく中で、すごく大事にしている正義があって、そこを掲げたときに、でもやっぱりその裏側には違う正義がある、ということをすごく身近に感じたんです。今は時代的にもですが、いろんな欲を満たすために、どんどんそれを消化していこうとする人たちが増えてきたな、と思っています。
僕らは曲を作ってそれをライブでする度に、目の前のお客さんが喜んでくれ、何かそれを返してくれる。その度にもっと、もうちょっとだけでも、自分たちの返せるものがあるんだ、というのが積み重なってきたからこそ、昨年のアリーナ公演まで行けたと思っています。
何かその関係とか、ほんの小さなものでも、積み重なれば強くなるということをすごく感じたときに、同時にこの中には、何かの犠牲もあったということを、すごく感じています。
そんな中で、では次に自分たちが何を活かせるか?ということをすごく考えて、そのときに僕は歌にしないと、と思ったんです。
だからこれを聴いた誰かにとって“ああ、失敗したんじゃないか””この先どうしようか”と後悔した瞬間があったとしても、それでも自分の中にはちゃんと積み重なってきているものがあるから、何かそれを忘れないでほしいという気持ちとか、みんなからもらったものや失ったもののために、もう一歩踏み出していけるものという、一つ大事にしていけるものが膨らんでいけば、より面白い音楽シーンや、自分の生活になっていくものが築ける、ということを思ったので、この曲をピックアップしました。
──それはやっぱり、どんどん成長していきたいみたいなところが、やっぱり曲を作ったりというところでも反映されているのかもしれませんね。一つ気になったフレーズとして、8曲目に「TOGENKYO」という曲、そして「飄々とエモーション」という曲にも“桃源郷”というキーワードがあります。この”桃源郷”というイメージに向けて成長していこうという思いも、バンドにはあるのかなと。
三原康司:そうですね。当初テーマとして『みんなのTOGENKYO』というライブツアーを回っていたくらいだったんですけど。“桃源郷”って、何かすごく理想としている自分の楽園みたいな部分があるけど、たどり着けない場所だということもあります。
“ユートピア”という似た言葉があって、これはどこかにある楽園らしいんですけど、僕らの思い描いているものは、何度ライブを続けていっても“まだこうしたいよね”“ここに向かっているよね”という最初の話に戻っちゃうんですけど(笑)。
何かそれをこうワクワクするもの、そこへ向かっていく描写、自分たちのストーリーとして描くことがすごく大事なものなんじゃないかということに気づけたんです。
だからこの桃源郷という言葉に対してのイメージは、ミニアルバム『TOGENKYO』を出したころからすごく強い思いで描き続けてきたものなので、大事なワンワードですね。
──では、そういった意向を、また今度は『フレデリズム3』に向けて…(笑)
三原康司:いやいや、まだ名前はわからないですよ(笑)
──今回が2017年から2018年の集大成ということなので、次の目標は?というところが見えてきていると思うのですが、次はこうしたい、今年はこうしたい、2年後こうしたい、という何か目標みたいなものはありますか?
三原康司:僕から言えるのは、先頭に健司が立って、そういった目指すべきものや目標というものを心の中に持っていて、彼なりの考えもあったり、バンドなりの考えもあるということ。
そんな中で自分が曲を作る側の目標としては、今回のアルバムで言葉のイメージというのがすごく変わっていけるようなアルバムができたので、そのイメージをより膨らませて、もっと目の前で面白いことをしていこうということをためしていきたい、ということです。まあまずはツアー、本当に目の前のツアーを大事にしていくことが、まずは一番の目標だなと思います。
──では、このあとにどうなるか、楽しみなところでもありますね。
三原康司:そうですね。でも面白いことは考えています、いろいろ(笑)。ライブの規模もどんどん大きくなってくる度に、バンドとしてはやっぱり、ステージが大きくなればやりたいことも増えてくる、やれることも変わってくる。
だから次にもっと大きい会場になったときには、より楽しんでいただける自信はあります!
TEXT 桂伸也
PHOTO 大西基
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