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「Saravah Saravah!」高橋幸宏が残した未踏の音源

世界と日常的に勝負できる日本製音楽の創始者「YMO」。その中で殺人的ドラムテクニックを誇る高橋幸宏が、新録版『Saravah Saravah!』をリリースした。高橋の今の声と雑味のないクリアな音は、壮大な未知数と小粋な香りに満ちていた。

フォークソング 和製ミュージックのテクノへの進化

伝統とライトな機能性が交錯する「SARAVAH!」


シャンソン色の強いメロディでありながら、高橋幸宏の40歳ほど若返った少年風のボーカルが、古い香水臭さを取り去り、ライトなポップ感と、同時に、この先どのカテゴリーの音楽にも変化していきそうな予測不能なユーティリティー性を吹き込んでいる。

ボーカルの消えたエンディングは、奥ゆかしくかつ鋭角的なリズムを刻み、冴えた新鮮味となって迫ってくる。

故人への思い その先にある輝き「LA ROSA」

ただ美しいだけのメロディを、生理現象のように注ぎ込んでくる加藤和彦のアーティストとしてのイノセンスにはぞっとするものがある。

中盤の坂本龍一の重くダークなキーボードは、古さより、今のその先の風景を脳に投影させていく。

ラストの大村憲司のさりげないハイテクなギターワークには言葉がない。

いろんなことを考えて悲しくなるが、高橋幸宏の疲れ気味のしんどいボーカルが逆にこの曲について何も考えさせない半端ない垢抜け感をもたらす。

フォークからテクノへの貴重な足跡が見える「SUNSET」


前衛的香りのする高性能なイントロ。リズムはYMOが確立した乱拍子の片鱗がのぞく。
普通のフォークソングのメロディーにエレクトリックサウンド、ヘビメタ風のギターが響くが、これらはフレーズの一つ一つに見え隠れする不安定さ、メランコリックさにうまく溶け込んでいる。

テクノは最初からテクノだったのではなく、貧乏学生の甘ったれたフォークソングが二足歩行をし、スーツをまとい、ついに宇宙服に着替え、スペースに旅立つ・・・といった進化によって誕生したことが分かってくる。聴くたびにスッとする違和感を覚える絶品である。

外来種が日本製になる入り口的作品「BACK STREET MIDNIGHT QUEEN」



歌謡曲に美しく長い肢を生やしたような作品。アンニュイできらびやかな昔の香りがするが、音楽的構築は今のシーンを騒がすどの作品より複雑だ。ソフトより人間技の微調整の緻密さがかっこいい。和製外来ミュージックが、お茶の間のショーから、巨大市場のプレゼンテーションと化していく(しかも誰もそのバトルに気づかない)、ある種、黄金時代元年のテイストを持ったいい感じのナンバーである。


自由にブレた坂本龍一 1つの答えのみ放った高中正義

天才坂本龍一の多重性が光る「ERASTIC DUMMY」

曲のタイトルにも表れているように、芸術家・坂本龍一のくずれた姿が見える。坂本龍一単独のワークでは、ここまでの無邪気さは作品に反映されなかったはずだ。高橋幸宏への底知れぬ愛情と、そして高橋幸宏で存分に遊ぼうとする意図が見える。

サビのメロディーはキャッチ―というより、記憶に残る普通の力強さがある。この普通さが坂本龍一の天才たる所以である。リスナーの学習意欲を呼び起こす音楽の確立が、消えそうで消えない、むしろその種はこの先百年は残っていきそうな「テクノ」というカテゴリーを生みだしたのだ。
時空を自由に支配できるかのような心地よい作品だ。

レジェンド高中正義の無駄遣いが憎い「PESENT」

渋谷公園通りのおしゃべり的歌詞と、綺麗なお姉さん風のコーラスのおしゃれなソングの中盤、突然高中正義の絶対王者たるギタープレイが走ってくる。このあり得ないアレンジ。

いっそすべて高中正義のギターインストゥルメンタルをしてしまったほうが、当時としてはナウく、かっこよかったはずだ。
それをあえて、究極の無駄遣い的に彼を起用することで、時代の先端で永久に留まる余裕、その危ない場所でうまく踊り続ける覚悟を知らしめた作品にしたのだ。高橋幸宏の読みの鋭さに唸る。


「YMO」という無機質なバンドの中で、唯一華とエロスが感じられた高橋幸宏。彼は決して歴史上の偉人ではなく、今を生き、旬のアーティストとしてこのミュージックシーンの中で、一段一段成熟していくのだ。

TEXT 平田悦子

■YUKIHIRO TAKAHASHI / 高橋幸宏 1952年生まれ。加藤和彦率いるサディスティック・ミカ・バンドに参加の後、1978年ソロデビューアルバム『サラヴァ!』発表。 同年、細野晴臣、坂本龍一と共にイエロー・マジック・オーケストラ(YMO)結成。国内外に社会現象的なテクノポップ・ブームを巻き起こ···

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