スピッツの歌詞の魅力
草野マサムネの書く歌詞の魅力は、初期の大ヒット曲『ロビンソン』や『スパイダー』に見られるように、センスのいい言葉選びとその組み合わせによって生み出される、どこか摩訶不思議な世界観です。
さらに、歌詞と全く無関係な曲のタイトルが謎を呼び「ちょっと不思議なバンド」というスピッツの個性が確立されました。
曖昧な歌詞の中にある真実
不思議なバンド、スピッツの言葉遊びのような歌詞の曲が、一部の音楽ファンだけではなく『空も飛べるはず』のように、学校の教科書にも載るほど全国的に受け入れられたのは何故でしょうか。それは、一見、何も考えずに繋げられたような言葉が、実は、草野マサムネの天性のセンスによって、意味を持つべく絶妙に並べられているからです。
しかも、草野マサムネは歌詞の中で自分の主義主張を述べるのではなく、リスナーに想像する余地を与えています。リスナーはメロウなメロディにのせて、意味不明な言葉の繋がりを自分なりに解釈し、各々の真実をそこに見出した時、ハッとして感動します。
『空も飛べるはず』には、10人が聴けば10人の、1000人が聴けば1000人の真実があるのです。こうして、スピッツは国民的なバンドとなりました。
草野マサムネの宇宙の縮図『スピカ』
『スピカ』は、1999年にリリースされたアルバム『花鳥風月』に収められた一曲です。
シングルのB面集だったこのアルバムには、地味ながら秀逸な作品が数多く収められていますが、中でも『スピカ』は草野マサムネの作詞の才能がひときわ光る作品です。
その歌詞の中から、特に草野マサムネらしさが現れている部分を見て行きましょう。
スピカ
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この坂道もそろそろピークで
バカらしい嘘も消え去りそうです
やがて来る 大好きな季節を思い描いてたら
≪スピカ 歌詞より抜粋≫
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「坂道」は現状を現し、今はしんどい状況にいるけど、そろそろそれにも終わりが見えてきて、その先には楽しい事が待っている。春の夜空に輝く星・スピカに導かれ夏へと向かう、ワクワクするような歌詞で曲はスタートします。
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はぐれ猿でも調子がいいなら
変わらず明日も笑えそうです
ふり向けば 優しさに飢えた 優しげな時代で
≪スピカ 歌詞より抜粋≫
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「優しさに飢えた 優しげな時代」と同じ言葉を逆説的に繰り返し、言葉の合間からリアルな現実が見え隠れするところや、「はぐれ猿=変わり者」という世の中の少数派の存在を決して忘れないところが、草野マサムネの歌詞の大きな特徴です。
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粉のように飛び出す せつないときめきです
今だけは逃げないで 君を見つめてよう
≪スピカ 歌詞より抜粋≫
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夢のはじまり まだ少し甘い味です
割れものは手に持って 運べばいいでしょう
≪スピカ 歌詞より抜粋≫
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恋する気持ちが表現されている部分です。
恋心は、袋から突然飛び散る粉のように抑えられない。生まれたてのこの恋を大切に育てよう、恋とは甘い夢であると同時に、脆く壊れやすいものだと歌っています。
この後、草野マサムネの視点は人間たちがそうやって日々さまざまな思いで暮らしている地上から離れ、グーンと空へと上がって行きます。
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古い星の光 僕たちを照らします
世界中 何も無かった それ以外は
≪スピカ 歌詞より抜粋≫
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夜空に輝く星の光は、遠い昔に放たれた光です。例えば、地球から1光年離れた星の光は、地球に届くまでに1年かかります。100光年なら100年、ちなみにスピカは260光年離れているので、260年前に放たれた光を私たちは見ているのです。
無限の宇宙の中のちっぽけな地球で、同じ星の光を見ている人々がいがみ合い、憎しみ合う事はなんて愚かな事だろうと、草野マサムネは、この曲の中でサラリと世界平和をも願っています。そして曲はクライマックスへ。
終わらない幸せを
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幸せは途切れながらも 続くのです
続くのです
≪スピカ 歌詞より抜粋≫
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このフレーズは、この曲のハイライトと言えます。人は“がんばって幸せになろう”と言われたら、ちょっと荷が重くて“そんなの無理だ”と諦めてしまいそうになるものです。
しかし「幸せは途切れながらも続く」と言われると“そうか、今はどん底だけど、この先はきっと上手くいく。これでいいんだ”と、心がスッと軽くなるはず。
そして「続くのです」と2度自分に言い聞かせて前を向く。『スピカ』は、全ての人に向けた応援ソングです。“がんばれ”と言わずにみんなの心を超ポジティブにする、魔法のような曲なのです。
TEXT 岡倉綾子