「三分間」が持つ"三分間"以上の意味
秒針が180回時を刻めば、それは全世界の誰にも平等に三分間。これは絶対的なものだ。誰が何と言おうとそれは三分間であってそれ以上でも以下でもない。
しかし三分間に何を見出すか、となれば話は別だ。
東京事変の楽曲『能動的三分間』は、2009年リリースの彼らの6枚目のシングル。バンドの首謀者である椎名林檎のソロ10周年という節目を挟み、前作より約2年ほどのインターバルを置いて発表された楽曲である。
楽曲はBPM=120で進行し三分ちょうどで終わる。これだけでも面白いコンセプトではあるが、今回はその「三分間」が意味するものに着目する。
三分間と聞いて何を思い浮かべるかは人それぞれだろう。カップラーメン、クッキング、ウルトラマン、短いこと、お手軽にできることの代名詞的な使われ方が真っ先に思いつくかもしれない。
音楽の世界で言えば「三分間」とは、ポップスやロックンロールのヒットチューンにおける黄金律である。楽曲の再生時間が「3:12」になっていたりすると「おっ、名曲の予感」などと思ってしまうものなのだ。
代名詞としての「三分間」
能動的三分間
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You're all alone
You're fixing ramen
You pour hot water in
Where are your thoughts wandering as you wait there?
Come back to life and be high
≪能動的三分間 歌詞より抜粋≫
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さて、『能動的三分間』の導入部分だが、上記のようにある。即席麺にお湯を注いで待つ間どうする?というわけだ。つまり三分間。
「Come back to life and be high」の部分は、椎名林檎的和訳では「生還せよ、昇天せよ」となっているがその真意は最後まで読み進めるとわかるようになっている。
曲中で印象的に繰り返される「三分間でさようならはじめまして」の一節と、「骸骨を狙えシンセサイザー」や「脳天を浸せイコライザー」から、「三分間」が音楽を指していることがわかる。再生して三分間でさようなら、次の曲にはじめましてというわけだ。
さらに「Hit! 格付(ランキング)のイノチは短い」の部分は、近年のヒットランキングに顕著な音楽のインスタント化と前述の即席麺をかけている。
対になる「Rock! 音楽(ミュージック)のキキメは長い」の部分では、三分間の黄金律によって後世に名を残した音楽のことを指している。
「三分間」を軸にして「お手軽」と「名曲」の両方を表した実に見事な詞作である。
終わることのない「三分間」へ
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I'm your record, I keep spinning round
But now my groove is running down
Don't look back brother get it on
That first bite is but a moment away
When I'm gone, take your generator, shock!
Raise the dead on your turntable
≪能動的三分間 歌詞より抜粋≫
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楽曲の終盤には、このようにある。椎名林檎的和訳では、
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我々は使命を果たしたと思う
しかし始まったものは終わる
決して振り返ってはいけない
任務を全うせよ
幸せな一口目が待ち構えている
我々が死んだら電源を入れて
君の再生装置で蘇らせてくれ
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となっているが、素直に訳せば「我々」とはレコードのことである。
つまり「カップラーメンができるまでの間に聴いていた曲=三分間」が終わり、もうラーメンを食べられる。もしレコードが終わっても再生ボタンを押してまた聴いてくれ、といったところだ。
ここから冒頭の「生還せよ、昇天せよ」は、“もう一度再生してノッてくれ”といったレコードからのメッセージであることがわかる。
同時にこれは、東京事変というバンドそのものからのメッセージであるとも受け取れる。
「三分間のこの不倒の名曲を、我々が亡きあとも永遠に聴き続けよ」という全リスナーへの大胆不敵な忠告。その後の劇的な解散や、彼ら自身が実際にポップシーンに大きな爪痕を残すことを予期するかのようなものですらある。
空いた時間に好きな音楽を聴く、という行動は常に能動的である。
ここで「能動的」が意味するものは「再生ボタンを押す」ことに他ならない。三分間の使い方は選べるのだ。
ならば好きな名曲を選んで聴こう。再生ボタンひとつでいつでも蘇る、いわば永遠の三分間を。
TEXT むささびくん