音楽が人に与えるもの
アニメ「鋼の錬金術師」のオープニングとして起用され、サビの「リライトして」の部分には、一度聴いたら忘れられない中毒性がある。
そんな『リライト』の歌詞には、ミュージシャンの苦悩や葛藤が描かれている。
リライト
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軋んだ想いを吐き出したいのは存在の証明が他にないから
掴んだはずの僕の未来は「尊厳」と「自由」で矛盾してるよ
歪んだ残像を消し去りたいのは自分の限界をそこに見るから
自意識過剰な僕の窓には去年のカレンダー 日付けがないよ
≪リライト 歌詞より抜粋≫
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音楽関係の仕事がしたいという人は、音楽が好きだからという理由がある人が多い。
しかし、ミュージシャンとなれば理由はそれだけではなくなってくる。音楽を届ける者として、自分が日頃から感じている想いを人に伝えたいといった、自己表現の1つとして音楽の道を志した人も少なくはないだろう。
いざ、ミュージシャンの夢を叶えた後に待っていることは、楽しさだけではない。夢は叶えるまでもが大変だが、叶えた後の方が遥かに大変だということが、この歌詞から読み取れる。
いつも自由に音楽を生み出せるかといったらそうではなく、生み出す過程での葛藤や苦悩もあるのだ。一見華やかに見えるミュージシャンの隠れた努力があるからこそ、世に送り出された音楽を聴いた私たちは、心を動かされるのだ。
「リライトして」と叫ぶ理由とは
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起死回生
リライトして
意味のない想像も君を成す原動力
全身全霊をくれよ
芽生えてた感情切って泣いて
所詮 ただ凡庸知って泣いて
腐った心を
薄汚い嘘を
消して リライトして
くだらない超幻想
忘られぬ存在感を
≪リライト 歌詞より抜粋≫
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リライト(rewrite)を和訳すると、文章を目的に合わせて書き直す、書き換えるといった意味合いになる。
テーマを掲げ、自分の想いを乗せたストーリーを創り上げ、一通り完成しても、納得のいかない箇所があれば書き直しを行う作詞。歌詞に合わせた曲を作り、レコーディングを行い、録り直し、楽器の音を重ね合わせていく作曲。
かなり大まかな流れの説明にはなってしまったが、1つの音楽を作り上げる為、このような工程の中で、特に書き直しや録り直しに着目し、その時の心情を中心に描かれた歌詞になっているのだ。
「リライトして」の叫びには、思うように音楽制作が進まない苛立ちを含みつつ、自分の中からアイデアを呼び起こし、妥協せずに最高の一曲を生み出したいという意欲も感じられる。
やっとの思いで完成した楽曲でも、時間を置いて聴いてみると“ここはこうした方がもっと良くなるんじゃないか”という箇所も出てくる。加えて、自己満足だけに終わらず、多くの人が聴くということを、常に頭におきながら創り上げる必要もあるから、音楽制作というものは一筋縄ではいかない。
作詞・作曲活動の中で、最初に浮かんだものを消して、より良いものに上書きするといった意味合いを含め、タイトルを「リライト」にしたのだろう。
TEXT 蓮実 あこ
1996年結成。後藤正文(vo.g)、喜多建介(g.vo)、山田貴洋(b.vo)、伊地知 潔(dr)による4人組ロックバンド。 03年メジャーデビュー。同年より新宿LOFTにてNANO-MUGEN FES.を立ち上げ、2004年からは海外アーティストも加わり会場も日本武道館、横浜アリーナと規模を拡大。 2016年にはバンド結成20···