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「THE ANYMAL」が証明したSuchmosの絶対価値

キャッチーさでまずその地位を確立したSuchmos。しかし、2ndアルバムから彼らの音楽には別の空間が見えだした。そして「THE ANYMAL」で、彼らの舞台はライブハウスから社会の深層へと広がった。今回はそんな彼等のレビューを展開する。

陰影の構築が生む輝き

崇高な領域へ舵を切った「WATER」



浮遊感、割り切れない空気をつくったあとの、サビの「Everyone has the waters」は飛びながらも、品の良さ、襟を正したまとまりを感じさせる。
圧巻はYONCEのボーカルだ。平常から狂気へのスムーズな階段の昇り降りのワークを繰り返し、ラストは狂気を見下ろすかのような芸術的領域まで到達している。

オープニング曲でありながら、すべてを終結させたようなエンディングのピアノが、この曲をこめた意味となって心に落下する。

anotherな時間が動く「ROLL CALL」



サビ前、ドカドカとせまるドラムと厚ぼったいキーボード音で、曲の空気は倉庫で眠っていたワインの臭みを放つ。が、「ここは夢の渦の中」でリスナーの待っていたYONCEの声が鳴りひびき、”今”に軌道修正。

その後、絶妙に普通のカオをした訳ありなギター音がキーボードと溶け合い、今でも昔でもない、第3の時空にリスナーを置き去りにする。特別な技に頼らない、彼らの手作りのテクニックが光る作品だ。

”ここ”からSuchmosという果てを見た「In The Zoo」



荒れた何もない地にある、埃、土煙、その一つ一つの輝きが見える。
YONCEの、同じテンション、同じペースを守ったボーカル。そこにあるのは決して無駄な時間の流れではない。リスナーはあり得ないほど高い価値の何かを、タダ同然で譲り受けたことへの感謝にほくそ笑むのだ。

Suchmosの限りなく小さく成長していく姿ー彼らとの距離間の果てしなさーを思い知る絶品だ。

Suchmos "In The Zoo" (Official Music Video)


おしゃれという壁をすり抜ける普通感

YONCEの大人な軽さ「WHY」



日常、常識に視線を向けたまま後ろ歩きするようなゆるいリズム。冴えたキーボードもそれに引きずられ陰鬱な空気を吐き出す。微妙な音の背景に隠れていたYONCEのボーカルは、突然、それらを押しのけるわけでもなく、最初からなかったことのように前面に出現する。

特に日本語を歌う彼の声には、人生経験が正確な数値となって現れ、雄の側面が見える。Suchmosの無重力な色気にぞっとするアダルトオンリーな一品だ。

変化する空気感「ROMA」



機械的カッティング、鋭いエレクトリックサウンドと、隣人に気遣っているかのような控えめなアコースティックギター。

そしてそこに流れる歌詞は、人間臭ささに満ちている。その三者の露骨な取っ組み合いの 喧嘩が、どの音楽にもない、触れると肌が赤くなるようなはっきりとした冷たさを与える。

後半、YONCEの声は駄菓子屋の匂いのような温かさにシフトし、人間の根源に立ち返ったようなラストを迎える。フラットだった脳の活動を混乱させる作品だ。

やすらぎが奏でる明日への怖さ「BUBBLE」



必要最低限のギターがこの曲を柔らかい鎧となって包み込む。光ったり消えたりするかのピアノは、この地球のすべてを水平に保つかのような絶対的強さを持つ。

つまらない日本語でありながら、こういうことを言ってほしいんだと、誰もが渇望していた言葉。そしてなぜこんな風に言ってしまえるのかだ。それは人間の自然なアクションではないのだ。潮の満ち引きのような、ここまでいい加減な、いやここまで人間の生命まで支配するようなサイクルで、なぜYONCEは語れるのか。

この心地よさと、足元から這い上ってくる生きることへの憂鬱。官能の鍵を壊す、ただ深い作品だ。

「THE ANYMAL」で、Suchmosの音楽はあまりにも大きく羽を広げすぎた。しかしそれは彼らが自分の音楽を見失っていることではない。いや逆に巨大化したことによって、彼らは己の音楽が鉱物のごとく、砕け散ることを回避したのかもしれない。

TEXT 平田悦子

2013年1月結成。ROCK、JAZZ、HIP HOPなどブラックミュージックにインスパイアされたSuchmos。 メンバー全員神奈川育ち。Vo.YONCE は湘南・茅ヶ崎生まれ、レペゼン茅ヶ崎。都内ライブハウス、神奈川・湘南のイベントを中心に活動。バンド名の由来は、スキャットのパイオニア、ルイ・アームストロ···

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