“好き”という気持ちが素直に表現できない主人公
こちらの楽曲は僕や私という一人称をあえて使わず、男女どちらからの視点でも受け取りやすい詞になっているところが特徴だ。
栞
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途中でやめた本の中に挾んだままだった
空気を読むことに忙しくて 今まで忘れてたよ
句読点がない君の嘘はとても可愛かった
後ろ前逆の優しさは、すこしだけ本当だった
≪栞 歌詞より抜粋≫
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物語は、主人公が恋した相手と付き合い出した頃から始まっている。
実った恋を長続きさせたいと相手に嫌われないように考え過ぎてしまって、少し気疲れしている時に思い出した“好き”という純粋な気持ち。相手の何気ない言葉や行動が可愛く、何をしても2人一緒だと楽しい日々は続いた。
桜の舞う季節に別れは訪れる
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桜散る桜散る ひらひら舞う文字が綺麗
「今ならまだやり直せるよ」が風に舞う
嘘だよ ごめんね 新しい街にいっても元気でね
桜散る桜散る お別れの時間がきて
「ちょっといたい もっといたい ずっといたいのにな」
うつむいてるくらいがちょうどいい
地面に咲いてる
≪栞 歌詞より抜粋≫
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うまくいっていた2人の恋愛は桜が散るかのごとく、突然終わりを告げる。
お互い離れ離れになってしまうのでやむを得ないが、本当はまだ終わらせたくない。でも、素直に気持ちを表現できずもどかしい気持ちのまま、強がりにも似た最後のエールを贈る。
油断すると涙がこぼれ落ちでてしまいそうな顔を相手に見られたくないからうつむきがちになってしまう。
悲しみを乗り越えた先が小説の結末
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この気持ちもいつか 手軽に持ち運べる文庫になって
懐かしくなるから それまでは待って地面に水をやる
≪栞 歌詞より抜粋≫
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別れてから暫くの間は、悲しさで気持ちも沈んでいるが、いつかは2人で一緒に過ごした日々がいい思い出となって、また読み返したくなる1冊の小説のようになって欲しいという主人公の気持ちが読み取れる。
本来「栞」は本を読んだところまでの目印として挟んでおくものだが、こちらの楽曲のタイトルである『栞』は、2人の恋愛模様を描いた小説中で、主人公が大切にとどめておきたい気持ちのことを指しているのだ。
作詞・作曲を担当した尾崎世界観は小説家でもあるので、この曲の詞も恋愛小説のようになっっている。ただ、現実の恋愛は小説の中よりも複雑であり、いつも上手くいくわけではないから、ところどころあえて抽象的に描いている詞。
曲を聴いた人が個々各々で物語を描いて欲しいという尾崎世界観の願いも込められているのだ。
TEXT 蓮実 あこ