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「bless You!」で魅せる田島貴男(ORIGINAL LOVE)の限りない身軽さ

アスリートにとっての天才とは非凡を意味するが、ミュージシャンにとって天才であることはごく普通のことだと私は思う。 そんな凡庸な天才、田島貴男。新作「bless You!」にはそんな彼のフラットな狂気がつまっていた。
TOP画像引用元 (Amazon)


人生経験の重力を排除した音作り

ちょっと言わせろ感がいい「アクロバットたちよ」



歌詞の内容は、ブラック企業への苛立ちと、そこに生きる有能な人間たちへの励ましが仄見える。

が、重苦しさ、掠れ切った空気はみじんもない。

正反対の色合いを持つAメロ、Bメロをあえて並べることで、続くCメロが軽い輝きを見せるためだ。

ただシャレオツなまま終わらない。

少し間を開けてスピード感あるDメロが現れ、"打開への裏道"という微かな力感が加わる。

ここに田島貴男の旨味が滲み出るのだ。

聴き応えを全く感じさせないのに、渋く成熟したテイストが残る作品である。

おっさんの主張が青く変化した「ゼロセット」

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ここはビギナーもベテランも
同じラインに並ぶトラック
≪ゼロセット 歌詞より抜粋≫
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若いもんにはまだまだ負けないという、ど根性を露骨なまでに明確に書ける、田島貴男の真の若さにぞっとする。

おじんのあがきがここまで青く新鮮なものに変身できるのは、この曲の速さである。

追いつけないくらいの、捕まえられないくらいの超スピードではなく、適当なほどほどの速さが、この作品を"やっぱり渋谷な音"にしているのだ。

田島貴男というアーティストがわかる一品である。

コンピューターへの感謝と哀悼「AIジョーのブルース」



AIに支配されることの焦燥感ではなく、AIに対するねぎらいと哀れみがシンプルに投げつけられている。

複雑、不協和なリズムの入りから、某国営放送の教育番組風なメロディーへの自然な移動。

"この世界はこれからどうなってくんじゃ"という愚痴が放つ、臭み、痛みをそのまま音楽に反映させず、"伝え方"のノウハウのみをバラバラに解体し、再構築することで、新品というヴィンテージがここに誕生するのだ。

背筋が凍るようなほほえみにあふれる傑作である。

今ある問題への2通りの攻め方

絶望からの防御 希望との闘い「空気ー抵抗」



「いじめ」「差別」「権力」に対してここまで真っ直ぐなうたはないだろう。

今までオプションとして、さりげなくも強い力で君臨していた「なんちゃって文化」の排除の先に見える、近すぎる自由へのゴール。

そこにはほぼ全くといっていいほど救いはなく、生きるべき選択肢は多様化した責任となって目の前に張り巡らされる。

冷静でありながら、叫びにも聴こえる渡辺香津美のギター。
不確かな希望との果てしない戦いを予感させる。

学ぶより、感じろ! メッセージが守備的武器と化した作品だ。

匿名化されたメッセージ「逆行」



なぜ彼は逆行するのか。
こんなに何もかも失っても彼は逆行し続ける。

それについての理由はこれだとも、わからないとも言っていない。

確固たる何かを見せないことで、この曲はかっこいいフォルムを創る。

この曲の象徴的"オカリナプレイ"であるが、オカリナの音がこの作品にどのような意味を持つか、ギターではなくオカリナを選択したことが音楽シーンにどのような影響を与えるか、考えたくなる。

しかし田島貴男の"たのしくうたっている"という行為は、結論が無駄に立ち上がろうとする状況を、"どうでもいい超崇高な場所"にまで蹴散らしてしまうのだ。

こんなかっこいい作品は今まで聴いたことがない。


昔の作品に比べ、社会の不条理に真っ向から挑む歌詞が目立った「bless You!」。

甘美なテーマが全くと言っていいほど姿を消したこの状態を、守りに入ったと見るのは間違いだ。

ここまで完璧に今と戦っているということは、彼の精力には底知れぬ伸びしろがあるのだ。

田島貴男は、しばらくは現役のままだ。


TEXT 平田悦子

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