気に入っているシーン
──KUROさんご自身が、ちょっと"ドヤ"っとできるような表現をしたシーンってありますか?
KURO:それこそさっきのバイト先の社員旅行のシーンで、ビンゴをやってるんですけど、"酔った勢いでみんなこの大きな空間に自分の声も響かせたいようなニュアンスが含まれている"っていう表現はよく出たなって思いますね(笑)。
そういえば僕も同じような雰囲気に対してそういう風に思ってたと思って。
──KUROさんご自身は作中のITTOさんと同じように客観的に空間を見ているタイプか、まさにその大衆の中にいるタイプかでいうとどちらですか?
KURO:両方やってました(笑)。若いときは僕も叫んでたし(笑)。この描写はできてよかったなって思います。
──シーンは飛ぶんですが、KUROさんの表現で気になったところがありまして。
オパさんのお葬式の後、ITTOさんが現実をまだ受け入れられずにいるとき"現実はいつだって乾いているのだ"という表現があって、その少し先のシーンで「オパちゃん、会いたいよ」と言った後に"乾いた世界に水の膜が降りた"という表現がありますよね。愚問かもしれないんですがこれって、涙の事ですか…?
KURO:はい、涙っていう言葉を使わずに涙を表現したかったのと、世の中って今日誰かが死んだとしても明日も動いていくじゃないですか。
でも誰かにとってはそうじゃないのに、現実って淡々としている、淡白で乾燥しているっていうことも言いたかったんです。
──"乾いた世界に水の膜が降りた"という表現は、それこそメロディーがあるわけじゃないので文字数の縛りもないわけじゃないですか。この表現をされたのってKUROさんの中でどう言った感覚があったのでしょうか?
KURO:この箇所はすごく考えたとか計算したというわけではなくスッと出てきたんですよね。
僕は小説家が本職ではないので、歌詞を書くように小説を書いていた部分があったのかもしれないです。
読みやすくてリズム感のあるものにしたかったんですよ。なので"乾いた世界に水の膜が降りた"っていうのは音楽的に出てきた部分なんだと思います。
──確かに、私は普段活字は全く読まないんですけど、『マン・イン・ザ・ミラー 「僕」はマイケル・ジャクソンに殺された』は2回も読めちゃいました(笑)。
KURO:嬉しいですね(照)。結構ぶつぶつと口に出して書いていた箇所もあって、読みやすいかな?とか口に出しやすいかな?とか考えました。
音楽をやってきた人間が小説を書くときに、難しい言葉を使った言い回しとか、小説的な表現をするノウハウが僕にはなかったので、それよりは音楽を武器にしてパンチラインが入ってくるような読み物にというのは意識しましたね。
──他、お気に入りのシーンや表現があれば聞かせていただけますか?
KURO:"彼らの光は夜空ではなく、深海で輝く。"と本編の最後の方に書いたんですけど、この世界にはスポットライトの外側にも光っている人間がいて、みんながそれぞれスターなんだっていう風に受け取ってもらえたらと思っています。
──悩みがちですよね、そういうことって。
KURO:そうなんですよね、今ってSNSやネットが普及しているから他人の生活が見れて、隣の芝が青く見える事っていっぱいあると思うんですけど。
見えているものだけが全てじゃないし、自分だって主役だという風に意識を向けられたらすごく豊かに楽しく生きていけるんじゃないかと思います。
ITTOくんだってこの世界に名前が残るのかといったら商標的に残らないと思うんです。今回初めて小説という形になりましたけど。
──これだけ深海で輝いている人のことを知らずにいるのもなんだか苦しいですね…。
KURO:そうやって思うと出会った人との付き合い方も変わりますよね!
この人はすごい人だから付き合おうっていうのではなくて、みんなそれぞれその道のステージに立っている人だと考えたらリスペクトを持って人と付き合えると思うし。
──そうやって人生って豊かになっていくんですね!
KURO:本当にその通りだと思います!
ITTOのモデルになったBluetree
──この小説全編を通してITTOさんのリアルな人生だから、映画やドラマのようにハッピエンドでもバッドエンドでもなく繰り返し波がある感じが私は好きです。同時に、ITTOさんのモデルになった方がこれからも元気に頑張ってほしいなと願うばかりです…。KURO:そうですね、あれだけステージですごい人なのにすごく謙虚で、こんなに自分を殺すか!?って思ったんですよ。
それである日「ITTOくんは結婚したほうがいいよ。誰かいい人いないの?」って聞いたら「気になる子がいて…」ってその子とのLINEを見せてくれて。
本人は「からかってるだけなんだと思う」って言ってたけど、明らかに誰が見ても両想いの関係だったんで「告白しなさい!」って言ったらその翌日に告白したんですよ(笑)!
──翌日ですか(笑)!
KURO:翌日(笑)!それで付き合ってすぐ結婚になったんです。
僕は割といい加減に言ったところもあったんですけど、2人の結婚の証人にまでなりました(笑)。
──すごい…(笑)。
KURO:ハッピーエンドで良かったですよ(笑)。
そうだ、作中のオパちゃんとコングくん、どっちに魅かれます?
──魅かれるですか…私はオパちゃんみたいな人間でありたいなと思うけど、魅かれるという意味で言うとコングさんかもしれないです。
KURO:なるほど。これ結構周りの人に聞いているんです。
アーティストとして美しいのって魅力的だけど破滅的じゃないですか、でも2人とも愛情は一緒で、どちらも正解だからその2人の間でITTOくんは成長していくんですけど。
読者の方はどっちだろうなって気になっています。
──KUROさんはいかがですか?
KURO:僕自身も結構苦悩しながら書いたんです。僕も音楽をやっていて、芸を研ぎ澄ましたいって思う反面、ちゃんと生活をしていかなきゃいけないからやりたいことをするためにもお金は必要になるし…って。
なので小説の中では答えを出していないんです。
──だからこそ、今まさに夢を追っている人や、これから世間に出て行く中学生なんかにも読んで欲しいですね。夏休みの読書感想文とかに向いてるかもしれない(笑)。
KURO:本当にそうなんです!中学生のバイブルになって欲しいなとも思っていて。
自分が中学の頃にもしこの本に出会っていたら、もっとダンスに一生懸命になっていたんじゃないかとか、好きなことにもっと一生懸命になれていたのかなって思うんです。
だから中学校の図書館とかに置いてもらえたりしたら嬉しいですね!
──エモい…。今回小説家として初めての作品でしたが、書き終わってみて執筆意欲みたいなものは増しました?
KURO:ありますあります!すぐに次に取り掛かりたいなと思っていて、少しずつですけど動き始めているところです。
──楽しみに待っています!それでは最後になりますが、インタビューを読んでくださった読者の方にメッセージをお願いします。
KURO:マイケルを知らない世代も生まれてきている中で、あの頃のマイケルの熱量とか、空気を感じることができるものになったと思います。
是非マイケルの時代を覗いてもらって、そこから音楽を聴いてもらったり作品を観てもらったりとマイケルの素晴らしさを知ってもらえたら嬉しいです!
──最後にもう一つ良いですか!?KUROさんがマイケルの曲の中でも"歌詞が好きな曲"ってなんですか?
KURO:いっぱいありますけど、『It's the Falling in Love』っていう曲もキュンキュンするような良い歌詞なんです。
この曲は小説中のダンスパーティーのシーンで、タチアナがITTOくんの手を引っ張って戻った時に流れている曲なんです。
2人の恋が始まった時にちょうど『It's the Falling in Love』が流れているという。
──曲を知っていればそういう部分でも楽しめるんですね!マイケルを勉強してからまた読みたいと思います!ではインタビューは以上です、ありがとうございました!
KURO:ありがとうございました!
Text 愛香
Photo 片山拓