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「Vogue」以前のマドンナについて
マドンナは、1983年にリリースされたアルバム『バーニング・アップ』から、立て続けにスマッシュ・ヒットを飛ばしてミュージックシーンに頭角を現しました。期待の新人の一人でしかなかったマドンナを、一気にスターダムへと押し上げたのは、1984年にリリースされた『ライク・ア・ヴァージン』です。
聖母を意味する「マドンナ」と言う名前で、十字架をジャラジャラとぶら下げたファションを身にまとい、
“ライク・ア・ヴァージン(まるで処女みたいに)"と挑発的に歌って踊る、不謹慎なキャラを打ち出したマドンナは、80年代に到来したMTVブームに乗ってセンセーションを巻き起こします。
マドンナ旋風は全米だけに留まらず、世界中でそのファッションを真似たワナビーズと呼ばれる熱狂的なファンが溢れる空前の社会現象となりました。
1980年代後半に入っても、その人気は衰える事なく、マドンナは80年代を代表するポップ・スターの地位を不動のものにしました。
「Vogue」に込められたマドンナの夢と野心
『ライク・ア・ヴァージン』で成功を納め、その後にリリースした『トゥルー・ブルー』でも、チャート的にはヒットを記録したマドンナですが、音楽的にもルックス的にも、『ライク・ア・ヴァージン』ほどのインパクトは失われ、方向性を模索し始めます。
1990年に発表された『Vogue』は、迷走するマドンナの、その後の方向性を決定付けた一曲です。
ユーロビートに揺れた80年代が去り、90年代の幕開けと共にハウスミュージックに乗って登場した新生マドンナは、この曲にどんな思いを込めたのでしょうか。
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Look around, everywhere you turn
It's heartache
It's everywhere that you go
You try everything you can to escape
≪Vogue 歌詞より抜粋≫
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<和訳>
見渡せば、そこらじゅう心の傷だらけ
それは、あなたの行く先々に現れる
逃れるためには、なんでもやらなきゃだめよ
『Vogue』の歌詞の中に出てくる「You」は、ずばりマドンナ自身です。
マドンナは、幼い頃に母を亡くし、父との確執から19歳の時に現金35ドルを握りしめ、ダンサーを目指してニューヨークへと渡りました。
ダンスのレッスンを受けながらのバイト生活は極貧で、お金のためにヌードモデルもやりました。
この当時のマドンナは、辛い目にばかり会い、傷ついていたはずです。
しかし、子供の頃から鉄の意志を持っていたマドンナは負けませんでした。
「You try everything you can to escape」とは、このどん底から抜け出すためには諦めずに手を尽くせ、という意味です。
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I know a place Where you can get away
It's called a dance floor,
≪Vogue 歌詞より抜粋≫
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<和訳>
あなたが逃げ込める場所を知っているわよ
そこはダンスフロア
下積み時代のマドンナが唯一現実逃避出来た場所、それはダンスフロアでした。
ナイトクラブで無心に踊り、ポーズを決めて、注目を浴びると、マドンナはいつだって自信を取り戻す事が出来たのです。
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Come on, vogue
Let your body go with the flow
You know you can do it
≪Vogue 歌詞より抜粋≫
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<和訳>
こっちに来て、ヴォーグ(流行)
その流れに身を任せて
あなたには出来るはずよ
「Vogue」とは「流行」を意味するフランス語です。
MTVという流行に乗って、自ら新たな流行を生み出したマドンナは、成功するためにはその時代の流行に乗る事がいかに大切かを、昔から理解していたのです。
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If the music's pumpin', - it Will give you
new life
you're a superstar
Yes, That's what you are
You know it
≪Vogue 歌詞より抜粋≫
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<和訳>
音楽でテンションが上がれば、新しい人生が開ける
あなたはスーパースター、
そう、あなたにはそれがわかってる
マドンナはダンサーを目指していましたが、次第にポップスターになることが成功への近道だと考えるようになります。
マドンナは、エンターテイメントの世界こそが自分の生きる道であり、音楽こそが自分をスーパースターへと導いてくれると確信していたのです。
それ以外の人生は、考えられませんでした。凡人には、自分の未来をここまで信じる事は出来ません。
やはり、スーパースターは生まれながらに非凡であるという事です。
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Magical, life's a ball, so get up
on the dance floor
≪Vogue 歌詞より抜粋≫
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<和訳>
魔法をかけてあげる、人生は一つの舞踏会
さあ、ダンスフロアに立つのよ
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Greta Garbo and Monroe
Dietrich and DiMaggio
Marlon Brando,
Jimmy Dean on the cover
of a magazine
≪Vogue 歌詞より抜粋≫
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<和訳>
グレタ・ガルボとモンロー
ディートリヒとジョー・ディマジオ
マーロン・ブランド、ジミー・ディーン
雑誌の表紙を飾るスターたち
マドンナは下積み時代、安アパートの狭い部屋で、ハリウッドの歴史を彩るアイコンたちを招き、舞踏会を開く空想をしていたのではないでしょうか。
華麗なドレスを着て雑誌の表紙を飾り、彼らと肩を並べる自分の姿を夢見ると同時に、“絶対に成功してやる"と心に誓っていたに違いありません。
『Vogue』がリリースされた時、夢見た通りのスーパースターになっていたマドンナ。
しかし、それはマドンナにとってのゴールではありませんでした。マドンナの野望は、誰も手が届かない場所に行く事、時代を超越し、自分自身がアメリカ史の一部になる事だったのです。
そう、マリリン・モンローやジェームズ・ディーンのように。
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They had style, they had grace
≪Vogue 歌詞より抜粋≫
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<和訳>
彼らはスタイルを持っているわ、彼らは美そのもの
マドンナは、『Vogue』の歌詞に過去の自分自身を投影し、自分の原点を再確認して新たなステージへと進みました。
90年代初頭にミュージックシーンを席巻したハウスミュージックと、ゲイカルチャーから生まれたヴォーギングをコラボさせ、メインストリームとオルタナティブが交差する、マドンナ独特のスタイルを生み出した『Vogue』。
ここから、マドンナは究極のエンターテイナーへの第一歩を踏み出しました。
マドンナがクイーン・オブ・ポップであり続ける理由
今年61歳を迎えるマドンナが、今も他の追随を許さないクイーン・オブ・ポップとして君臨し続けているのはなぜでしょうか。それは、マドンナがどんなに富と名声を得ても上品ぶらなかったからです。
自分が上品な女ではない事を良くわかっていたマドンナは、成功後もブレる事なく、公私ともに「ビッチ路線」を突き進みました。
スナック菓子とチューイングガムが似合う永遠の不良娘に、人々はリスペクトを払わずにはいられないのです。
TEXT 岡倉綾子