世界で一番幸せな5人組
午後6時半の開演時刻を過ぎた会場から、ライブを待ちきれないファンから登場をあおる拍手がわき起こった。徐々に大きくなっていくクラップ。その気持ちに応えるように新曲『悲壮美』のミュージックビデオを撮影した砂丘に立つ5人の姿が会場のスクリーンに浮かんだ。待ちに待った瞬間を大歓声と拍手が包んだ。
映像はインディーズ時代のライブハウスシーンから始まり、1992年のデビュー当時の鋭い眼光。メジャーデビューからわずか3年で東京ドームに立ち、5万6千人を集めたモンスターバンドの成長を追いかけていく。空中にドラムをセットし、真矢が縦横無尽に360度、回転しながらドラムをたたいた1996年12月の横浜スタジアムでは4万人が熱狂。
中でもステージセットが公演3日前に強風でなぎ倒された99年5月にお台場で開いた結成10年目の光景は、あの日を思い出したかのような、深いため息が聞こえた。数々の映像には、バンドにとって欠かすことができない存在である『月』が寄り添った。
満月は新月へと移行し、寄せられるエネルギーと共にまた膨らんでいく。再び満ちたとき、アリーナにレーザーで作られたピラミッドが出現。会場にどよめきが起きた。
声をかき消したのは、一気に加速したドラムと爆発音と共に始まった『Déjàvu』だ。空気を切り裂くような激しいRYUICHIの歌声に、幕開けから会場は大揺れに。
「日本武道館、お前たちの声を聴かせてくれ!いくぞ!!」。RYUICHIの呼びかけで、曲に合わせて拳と、「ウォー!」という声が上がる。ステージの後ろにも客を入れ、360度囲まれた舞台から、「あなたさえ あなたまで」と大合唱が起こる。届けられた思いを抱きかかえ、共に羽ばたいていくように。SUGIZOのギターが会場を包んだ。
一気に縮まった距離。愛おしむようにRYUICHIが「みんな会いたかったよ。LUNA SEAは30周年を迎えました。このメンバーで走ってこれたのは、応援してくれるみんなのおかげなんで、感謝というかみんなと壊れてしまいたいです」とあいさつ。
燃え上がった思いをさらに盛らせるような『JESES』では、舞台の床と2階席の一部分にセットされたLEDパネルに火柱の映像が映し出された。勢いは止まらない。ひずむベースが印象的な『JESUS』では、JとRYUICHIと会場で「JESUS、Don’t you love me!」と激しく連呼。思いを交換し合った。
額に噴き出した汗をぬぐったRYUICHIは「みんな熱いな。武道館こんなに暑かったっけ。オレたちもこの2日間楽しみにしてたからね。世界で一番幸せな5人組だと思います」と感謝した。
結成記念日の5月29日に発売されたシングル『宇宙の詩 ~Higher and Higher~』では、会場の床とステージの上に設置された巨大なミラーボールが、星のように輝き歌詞の通り、「星降る静寂の宇宙(そら)」に変えた。
ギターのINORANがアコースティックギターを、SUGIZOがバイオリンを手にし、アコースティックバージョンで届けられた『Providence』では床の映像が、SUGIZOらが音を奏でるたびに波紋のように広がって行った。調べに合わせタクトを振る会場に、RYUICHIの美しいファルセットが響いた。
ステージの背後、8カ所から炎が噴き上がった『GENESIS OF MIND ~夢の彼方へ~』では、客席に形成されたレーザーのピラミッドを前に絶唱するRYUICHIの声、トリプルネックギターを持った重厚感あるSUGIZOのギター、一音一音を大切に編み上げるINORANのギターが、会場と見えない世界とを繋いでいるかのようだった。
中盤には日本笛や、鼓を持った和楽器奏者4人とコラボレーションしたドラムソロで真矢が聴衆をわかせた。神奈川県秦野市で育った幼少期は、能楽師をしていた親の影響で、和太鼓をこなしており、水を得た魚のように力強いドラム音をとどろかせた。
「30年間の思いを込めてぶっ飛ばしていこうぜ!」。Jのベースがうなるソロパートで熱気に包まれた会場に、RYUICHIらが戻ってくる。「暑かったからシャツを着替えちゃったよ」と話すRYUICHIを筆頭に、INORANは真っ白なTシャツ、SUGIZOは両腕のタトゥーがあらわになったノースリーブの衣装にチェンジ。セクシーな姿で観客を釘付けにした。
魂をすくい上げるように響くSUGIZOのギターで始まる『I for You』では、天を貫くようなRYUICHIの声が会場を包む。歌い終えると360度、全ての方向に笑顔で体を向け、観客を優しく見つめていた。
オレたちと一緒に未来へ行けるか!
アンコールでは、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』テレビシリーズのオープニングテーマとして書き下ろした『悲壮美』を演奏。進化し続けるバンドが生み出した新しい世界で、聴き手を圧倒した。
RYUICHIの「30年前に僕が初めてアポイントを取ったのはJでした」と始まったメンバー紹介では、「30年間、忘れられなかったことがある」と口を開いたJが「そのときRYUが、ドーナツを持ってきたけど、いまだに何で2個だったのか…」と“ドーナツ事件”について語ると、「そこ?!」とRYUICHIに突っ込まれる場面も。
RYUICHIも首をかしげて「LUNACYは4人組だって思っていたから、オレは4つ持って行ったんだけどな。おかしいな。もしかして真ちゃん真相を知っているんじゃなの?」と真矢に話しを向けると、「確かに僕が受け取ったときは4つでした。もう30年経ったからいいと思うんですけど、僕が隠れて2つ食べました」と告白。
RYUICHIは驚きながらも「ありがとう真ちゃん。逆に真ちゃんの苦しい胸の内を分かってあげられなくてごめんね」と話すと、会場から大きな笑いと拍手が起こっていた。
30年越しの謎が解明され、光りに囲まれた中で演奏された『Hold You Down』。続く『TONIGHT』では軽快なINORANのカッティングギターに客席が揺れた。「オレたちと一緒に未来へ行けるか!」。あおるINORANの声に、応える1万5000人のファン。
RYUICHIが「お前ら全員でかかってこい!!!」と挑発し始まった『WISH』ではイントロで銀テープが噴き出した。ステージを囲むように設けられた花道に、INORANとSUGIZOが飛び出していく。
「ラララ」と合唱する終盤は、ファンとともに声を張り上げ、一つになった。
演奏を終え、戦友のギターにキスをしたINORANは「30年経ってもここに立たせてくれてありがとう。今日から新しい歴史が始まる。かっこいい未来へ一緒に行こうぜ!」と絶叫。
Jは「30年おめでとうございます。これはオレたちの30年でもあり、みんなの30年でもある」と観客を称えていた。
【ライブレポート】LUNA SEA「5つの星が創造する宇宙」 30周年武道館2日目
TEXT 西村綾乃
Photo 橋下塁、KEIKO TANABE