子供の頃の不思議な経験
ある夏の日に少女は海に訪れた。海の側には空き家が一軒あり、そこに人が住んでいる気配はない。
歌詞に描かれているのは、海を舞台にした物語だ。
海の幽霊
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開け放たれた この部屋には誰もいない
潮風の匂い 滲みついた椅子がひとつ
あなたが迷わないように 空けておくよ
軋む戸を叩いて
なにから話せばいいのか わからなくなるかな
≪海の幽霊 歌詞より抜粋≫
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少女は海で、一人の少年に出逢う。海で泳いだり、砂浜で貝殻を拾ったり、空き家で日が暮れるのを忘れて話す時もあった。
冒頭のこの歌詞では、少女が大人になり再び海を訪れた時に、海で出逢った少年と過ごした日々を懐かしみながら思い出す回想シーンが描かれている。
翌年の夏からも毎年海に訪れたが、少年と再び出会うことはなかった。 “空き家にいたら、また会えるかな”と椅子に腰かけ、日が暮れるまで待ったこともあった。
しかし、再会の願いは叶うことなく、幾度もの夏が通り過ぎていったのだった。
少年と少女の関係性
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星が降る夜にあなたにあえた
あの夜を忘れはしない
大切なことは言葉にならない
夏の日に起きた全て
思いがけず光るのは 海の幽霊
≪海の幽霊 歌詞より抜粋≫
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少女が少年と初めて出逢ったのは、夏の夜だった。星を見に海辺に散歩に来た少女は、砂浜で一人佇む少年を見つけたのだ。少年の横に立ち、そっと覗き込んだ少年の顔は、静寂を伴う暗闇の中で月の光に照らされ、異様な美しさを放っていた。
最初は言葉少なく、どこか儚げな雰囲気の少年だったが、言葉を交わすごとに徐々に少女に心を許していってくれているかのようだった。
ひと夏少女が海辺に滞在している間、毎日少年に会いに行き、一日の大半を2人は一緒に過ごした。しかし、2 人の間に恋が生まれることはなかった。恋よりも友情よりも大切なものが芽生えたのだ。
それは “絆”だ。
例えもう会えなかったとしても、お互い忘れることのできない大切な存在になっていったのだった。
〝海の幽霊″とは何を指しているのか
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あなたがどこかで笑う 声が聞こえる
熱い頬の手触り
ねじれた道を進んだら その瞼が開く
≪海の幽霊 歌詞より抜粋≫
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一緒に過ごした中で何度も聞いた笑い声を忘れることができない。夏が来て、海に来ると鮮明に記憶が蘇る。
日に焼けた少年の頬は熱を帯びていた。少年に会えることが嬉しくて、駆けていった海岸までの道が今はただただ物悲しい。
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離れ離れてもときめくもの
叫ぼう今は幸せと
≪海の幽霊 歌詞より抜粋≫
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会えない悲しさに打ちひしがれていても前に進むことはできない。
“いつかまた会えるかもしれない”といった期待はすれど、心のどこかでもう会うことができないことも何となく理解してしまっている自分もいる。
いつまでも少年との思い出に未練を残していても、前に進むことはできない。だから少女は少年のことを“海の幽霊”として、あの夏の出来事は幽霊と共に過ごした幻だったと思うことにしたのだ。
こうでも思わないと、会えなくて辛い気持ちを断ち切ることができそうにないから。
思いに区切りをつけ、成長した少女は、今年の夏もまた海に訪れる。そして、どこにいるのかも分からない少年に心の中で、自分が今幸せに生きていることを伝え、彼も幸せに生きられていることを願うのだった。
TEXT 蓮実 あこ