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スプリングスティーンが 「約束の地」で失くした夢、手にした希望

Bruce Springsteen、5年振りの新作『Western Stars(ウェスタン・スターズ)』から、アルバムを代表する一曲『Tucson Train(ツーソン・トレイン)』が示唆する、今後の活動の展望を探求してみた。
TOP画像引用元 (Amazon)


■Bruce Springsteen - Tucson Train (Official Video)


Bruce Springsteenは、今や、Elvis Presley直系のオールドスタイルのロックンローラーの系譜の恐らく最後に位置する1人だ。

彼の歌は、曲の中の主人公の言動を通して、小説や映画の原作にもなりそうな物語が見事に、歌詞世界の中に込められていて、歌のテーマや、結論を聴き手に委ねるスタイルを取ることが多い。

この『Tucson Train(ツーソン・トレイン)』も そうだ。

人生の何度めかの転機を超えた先

シンプルなドラムのイントロに導かれて、何度目かの人生の転機を迎えた、主人公が語り始める。

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I got so down and out in Frisco
Tired of the pills and the rain
I picked up, headed for sunshine
I left a good thing behind
Seemed all of our love was in vain
≪Tucson Train 歌詞より抜粋≫
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【日本語訳】
酷く落ち込んで、フリスコの外に出た
服薬と雨に うんざりして
陽光に向かって頭を出した

いい思い出は 全部置いてきた
俺たちの愛は全部しくじってばかりのように思えた



冒頭の2段落までに、まるで主人公の独白を訊いているかのように、見事に主人公の現状を伝えている。

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I come here lookin' for a new life
One I wouldn't have to explain
To that voice that keeps me awake at night
When a little peace would make everything right
If I could just turn off my brain
Now my baby's coming in on the Tucson train
≪Tucson Train 歌詞より抜粋≫
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【日本語訳】
新しい生活の立て直しに 来た
俺を寝かせてくれない心の声に
言い訳する必要はないのさ
考えるのをやめにできれば、
ささやかな 幸せが 全てを肯定するだろう
ツーソン・トレインで あの娘がやってくる


このヴァースでも、一筋縄でいかなかった主人公の過去が語られ、サビに繋がる。

聴き手とマンツーマンで対峙しているような、新たに長大な物語がスタートしそうな映画や小説のイントロダクションのようだ。

この曲はアルバム『Western Stars(ウェスタン・スターズ)』の全13曲中の3曲目だ。

アルバム全曲を通して、初めて見えてくるサブ・ストーリーや、これまでのブルースが書いた曲の登場人物たちとの関連も、見逃せないところだ。

ブルース自身の鬱病からの回復


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Now I carry my operator's license
And spend my day just runnin' this crane
≪Tucson Train 歌詞より抜粋≫
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【日本語訳】
やっと 自分の動かし方が
分かった気がする
この クレーンに乗ったまま
余生を過ごすことにしよう


ブルースは、2016年に出版した自伝『BORN TO RUN』の中で、自身の鬱病を初めて赤裸々に告白し、ツアーやレコーディングの合間に、セラピーにも通い、治療を受けていたことが話題になった。

それを踏まえて、「やっと 自分の動かし方が分かった」と、クレーンの比喩を交えて、自分自身のメンタル面での懸念を、遂に克服したことを、告白しているように聴こえる。

バンドとのレコーディング、世界ツアーへの展望

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Hard work‘ll clear your mind and body
The hard sun will burn out the pain
If they're lookin' for me, tell ‘em buddy
≪Tucson Train 歌詞より抜粋≫
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【日本語訳】
好きなことに打ち込んで
何もかも リセットしよう
キツい陽射しが 憂鬱も 焼き尽くしてくれるさ
連中が 呼びに来たら、 よぉ! って
引き留めて置いてくれよ


そしてブルースは、この曲の公開と共に、ヨーロッパのメディアでのインタビューで、珍しく、2019年の秋から 旧知の Eストリート・バンドとレコーディングに入り、アルバムが完成したら、バンドと一緒のワールドツアーに出ることを明言した。

それを踏まえて、この箇所を聴き直してみると「hard work」は、Eストリート・バンドとの新しいツアーのことで「they」は、バンドのメンバーたちのこと。

さらに、「ツーソントレイン」に乗ってやってくるのは、これから出会うであろう、ライヴの観客たちの比喩のようにとれる。

かつてブルースは、まるでレコーディングスタジオに寝泊まりするように実際に出す曲の数十倍もの膨大な量、バンドと共にレコーディングを重ねた。

ライヴも一旦始めると、自身のアドレナリンの暴走を止められず、毎晩のように、若い頃は4時間、最近でも3時間弱の、一本が長いライヴ・ツアーを重ねてきた。

アルバムの出来についても、ブルースは自身の意にそぐわない点が少しでもあれば、容赦なくお蔵入りにさせた。

まさに腕の良いロックの職人である彼が、今作で久々にEストリートバンド以外のメンバーを起用し、自身の意図した新しいサウンドを完成させた。

長く苦労した仕事(レコーディング)を終え、愉しみ(バンドでのライヴ・ツアー)を前に、ブルースが喜びを爆発させる寸前の感覚が、見事に伝わってくる。

ブルースのライヴが観られる日まで

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I'm waitin' down at the station
Just prayin' to the five-fifteen
I'll wait all God's creation
Just to show her a man can change
≪Tucson Train 歌詞より抜粋≫
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【日本語訳】
ひとまず 最寄りの 駅で
5分か15分ばかり 神頼み
彼女が1人の男を変えられるって
証明する、粋な計らいが訪れるのを待つことにする


ただ、かつての『ボーン・イン・ザ USA』の爆発的なヒットからスタートした、自身を取り巻く名声との付き合い方も、ブルースも今や、心得たようで、以前より明らかに肩の力が抜けて、リラックスしている様子が伝わってくる。

これまでのワールドツアーで何度となく観せてきたように、まるで観客全員の人生の行方を決定的に良い方向に変えてしまう、まさにマジカルな音楽的な創造力の爆発を、確信犯的に創り出すことに、ブルースが最高のコンディションで専念したら、、、と想像するだけで、ライブ会場での開演直前のような震えがくる。

正式なアナウンスがあるまで、このソロアルバムを堪能しながら今度こそ、1988年9月以来のEストリート・バンドとのブルースの来日公演の実現を、下町の片隅から熱狂的に祈っていたい。


TEXT BlindboyT

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