逃避行の序章
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搖れる列車の窓からふたつの目が覗いた
見つめあったのは起点と終点の二人
目指す終着駅には何が見えているのか
溢れ返るターミナルに向かって君は走っていた
≪逃避行 歌詞より抜粋≫
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起点にいる君と終点にいる僕という設定。
“溢れ返るターミナル“は君がまだマジョリティ、つまり退屈な現実に居ることを指している。
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立ち止まった君をずっと待っているのに
絡み合った手を掴んではさ連れさってしまったんだ
≪逃避行 歌詞より抜粋≫
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少し立ち止まって迷いが生じた君の答えを僕は待っていたが、ついにその手を掴んで連れ去った。
面白い現実を手に入れるための序章だ。
プラスの意味のばっくれる
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君とばっくれたいのさ このままばっくれたいのさ
ばっくれたいのさ このまま正解不正解掻っ攫って
さぁ 飛び出して 誰も知らないまだ見ぬ街へ
ばっくれたいのさ このまま現在過去未来掻っ攫って
≪逃避行 歌詞より抜粋≫
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サビの“ばっくれたいのさ”。
フレデリックらしさ全開でこの言葉をリピートするのだが、マイナスな意味合いで使うイメージがある人が多いだろう。
そのステレオタイプの中で“ばっくれる”というワードを使うセンスこそ作詞作曲を務める三原康司(Ba)だ。
正解も不正解も現在過去未来━すべて関係ない。
ただ飛び出して誰も知らない、まだ見たことのない楽しい世界に君と行きたい、という強い気持ちが込められている。
マイノリティである不安や恐怖
一番の歌詞では自信たっぷりな僕が、二番の歌詞で少し変化する。----------------
辿る前例の中には誰が見えているのか
分かち合ったのは自分の安心のくせに
とても文学的にはなり切れない僕でも
思い当たる気持ちを裏切れますか
≪逃避行 歌詞より抜粋≫
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どんなことにでも開拓者がいて、最初はみんなマイノリティなのだ。例えば、地動説を提唱した天文学者・コペルニクス。今となっては、誰も信じて疑わない周知の事実だが、当時、この説を支持するだけで火あぶりの刑にされたぐらいだ(さすがにビビる)。
例えが大袈裟になってしまったが、要は、“人と違うことをすること”というのは多かれ少なかれ勇気がいることなのだ。
“辿る前例”とはその開拓者たちのことである。
あの人もこの人もマイノリティを選んで“逃避行”した故に成功しているじゃないか、と君に諭している。
しかし、僕自身も逃避行が少し怖くなってきていることがこの部分の歌詞からうかがえる。
この事実を分かち合ったのは、君を安心させるため、というよりかは、自分自身に言い聞かせる暗示のようなものである。
文学的にかっこよくなりきれない僕でも、不安や恐怖という逃避行に対する気持ちを裏切りたい、挑戦したい、という気持ちが歌われている。
始まった逃避行
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君とばっくれたいのさ このままばっくれたいのさ
ばっくれたいのさ このまま喜怒哀楽でさえ掻っ攫って
さぁ飛び出して 誰も知らないまだ見ぬ街へ
ばっくれたいのさ このまま まだ見ぬ街へ
≪逃避行 歌詞より抜粋≫
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今は、喜怒哀楽でさえ無くして、まだ見ぬ街へ行くことだけに集中する。
二人で逃避行して面白い現実を手に入れるのだ。
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指を折って君をずっと待っているから
君はどうだ 僕はきっと 君の知らない街にお招きするんだ
だからばっくれたいのさ 退屈をしらばっくれたいのさ
ばっくれたいのさ このまま正解不正解掻っ攫って
さぁ 抜け出して 誰も知らない秘密の先へ
ばっくれたいのさ このまま まだ見ぬ街へ
≪逃避行 歌詞より抜粋≫
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最後のサビだ。
勇気を出して先に足を踏み入れた。
退屈をしらばっくれて、正解不正解もない面白い現実へ。そして、誰も知らない秘密の先へ。君の見たことのない世界を見せてあげるよ、と言わんばかりに。
フレデリックにはストーリー仕立てになっている歌詞も多く、次はどんな展開が?とハラハラドキドキさせられることが多い。
『逃避行』もその代表格だろう。一つの映画を見せてもらっているような、壮大な作品の一つだと私は感じている。
また、“逃避行”と“ばっくれる”という二つのマイナスなイメージの言葉を掛け合わせてプラスに表現している作品だ。
到底真似できるような表現法ではないことに舌を巻く。
卑怯な逃げ方ではなく、一度きりの人生を楽しく、面白く過ごすために自分の興味が向く方へ、わくわくする方へ逃げることは必ずしも悪いことではない。
思わず体を揺らしてしまうリズムとそこに乗せられた言葉たちと、最高の逃げ方をしよう。
TEXT 坂倉花梨