北海道の大自然の優しさが夢を後押ししてくれる楽曲
NHK連続テレビ小説の記念すべき100作目として制作された『なつぞら』。本作は、戦災孤児として父の戦友の家に引き取られた奥原なつが、北海道・十勝の大自然で育てられた感性を発揮し、アニメーターとして羽ばたく姿を描く作品だ。
本作を彩るために書き下ろされた主題歌が、スピッツが歌う「優しいあの子」である。その歌詞には厳しい寒さの大地を感じさせる「氷を散らす風」や、広大な大地から見上げた「丸い大空」など、舞台である北海道をイメージさせるワードが散りばめられている。
大自然に育てられ夢を叶える物語は楽曲にどう落とし込まれたのか。歌詞を追って考察していこう。
主人公・なつは、アニメーションという知らなかった世界に出会う
戦争孤児として、父の戦友・柴田剛音の実家に引き取られたなつ。兄と別れて単身、知らぬ土地で生活することになった彼女の心境は辛いものだった。しかし、新たな環境にもめげずに挑戦を続けていった彼女は、小学校の映画祭でアニメーションという新たな世界に出会う。その様子は、本楽曲にもしっかりと落とし込まれた。
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重い扉を押し開けたら 暗い道が続いてて
めげずに歩いたその先に 知らなかった世界
氷を散らす風すら 味方にもできるんだなあ
≪優しいあの子 歌詞より抜粋≫
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アニメの世界では、あらゆるものを表現の味方として扱うことができる。そう、大自然での生活の中では、敵にも感じる「氷を散らす風」すらも。そして、なつはアニメーターとして人々に世界を表現して伝えていく夢をもつこととなる。
しかし夢への道は険しいもので……。
アニメーターに夢を抱いたなつ。しかし、自分にはそんな力は無いと思い、何度も夢を諦めそうになる。
それでも夢を捨てなかった彼女はアニメーターになるために動き出すが、柴田家では牧場を継がせるようと長男との結婚を検討されたり、理解を得て東京に出てからも兄を理由にアニメ制作会社の入社試験に落ちたり、幾度となく夢を砕かれる。
だが、そんな苦難も乗り越えて、ついにアニメ制作の現場へたどり着く。この様子を本楽曲では、北海道と絡めてアイヌ語を用いて表現している。
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口にする度に泣けるほど 憧れて砕かれて
消えかけた火を胸に抱き たどり着いたコタン
≪優しいあの子 歌詞より抜粋≫
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「コタン」とは、集落を指すアイヌ語だ。アニメ業界は非常に狭い世の中で、別会社に所属する人も含めて、全体的に村社会を形成している。そのことを考えると「コタン」というのは非常に収まりのよい表現ではないだろうか。
「優しいあの子」とは?
本楽曲のタイトルでもある「優しいあの子」。そのワードは何を示すのだろうか。本作品の内容に沿って考えていくと、ある答えが導き出された。
それはアニメを見る視聴者だ。自分が感じた世界の良さを、後世に伝えていきたい。そんな思いが、楽曲とドラマの2つを重ねると見えてくる。
連続テレビ小説『なつぞら』は、7月で2クールの折り返し地点を迎える。これからさらなる盛り上がりを見せるであろうドラマ本編と共に、本作を彩る楽曲を聴いて、より作品を楽しもう。