儚く消える、春の雪
雪と言えば冬に降る印象が強いが、春にも雪を見ることができる。見ようによっては桜も雪に例えることができるからだ。
儚く消えてしまうイメージも共通しているから、重ねやすいのかもしれない。
その2つの名前を冠した映画「春の雪」は、大正時代の華族社会、伯爵家と侯爵家の男女の悲恋を描いた作品である。
伯爵家の令嬢:聡子(竹内結子)と侯爵家の子息:清顕(妻夫木聡)の、両想いながら上手くいかない2人を主軸にストーリーは展開する。
この映画の主題歌となったのが宇多田ヒカル14枚目のシングル『Be My Last』。ギターをメインにした楽曲で、彼女の楽曲で唯一キーボードを全く使用していない楽曲である。
2005年11月11日放送のミュージックステーションでは伴奏にチェロのみを起用したスペシャルVerが披露された。サウンドを構成する楽器を限定している分、彼女の歌声が映える楽曲で、繰り返し登場する「Be My Last」が強調された構成になっている。
Be My Last
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母さんどうして
育てたものまで
自分で壊さなきゃならない日がくるの?
バラバラになったコラージュ
捨てられないのは
何も繋げない手
君の手つないだ時だって...
Be my last... Be my last...
Be my last... Be my last...
どうか君が Be my last...
≪Be My Last 歌詞より抜粋≫
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日本語が大部分を占めながら、外国人歌手の歌を聴いているような気分になるこの楽曲。タイトルにもなっている「Be my last」や「With my hands」を強調している所も大きい。
「春の雪」の影響もあるようだが、全体的にシックでありながらしんみりとした仕上がりとなっている。
映画では聡子と清顕の2人がメインだが、楽曲では聡子の立場を念頭に置いて描かれている。宇多田ヒカル自身も、聡子について語っていて共感できる一面もあったようだ。
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間違った恋をしたけど
間違いではなかった
≪Be My Last 歌詞より抜粋≫
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聡子は、清顕と両想いでいながらこの関係を続ければ最後は破滅しかないと理解した時、自らの手でその愛を終わりにする。
今まで2人で気付き上げてきたものを壊してしまうわけだが、宇多田はそんな聡子の決心に至る気持ちを楽曲で汲み取っているのだ。
最後にして、と歌う『Be My Last』。始まって育まれていく時もあれば、育つ途中で壊れてしまう時もある愛。
これが、最後であってほしい。
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Be my last... Be my last...
どうか君が Be my last...
≪Be My Last 歌詞より抜粋≫
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請い願うように聴こえるのは、心を明るく照らしてくれるはずの愛が悲しい繰り返しでしかないという想いを感じるからなのだろう。
この楽曲を聴いていると「最後にして」と願う、聡子の姿が浮かぶ。壊れてしまう前に、関係を一方的に終わらせてしまった彼女。
他に方法はなかったのかと考えずにはいられない。
●Be My Last / 宇多田ヒカル
TEXT:空屋まひろ