拡がりをみせるストリングスサウンドと甘酸っぱい歌詞
UNISON SQUARE GARDENが2018年にリリースしたアルバム『MODE MOOD MODE』には、UNISON SQUARE GARDENがこれまで培ってきたマルチな音楽性がふんだんに詰め込まれている。その収録曲である『オーケストラを観にいこう』は、徐々に拡がっていくストリングスのサウンドと、甘酸っぱい歌詞が特徴だ。
多くの人を魅了するUNISON SQUARE GARDENの力
UNISON SQUARE GARDENは、言わずもがなJ-ROCK界を牽引するロックバンドであるが、その魅力は実に多岐に渡るものである。『天国と地獄』のように、骨太なロックバンドのサウンドをゴリ押しするような楽曲もあれば、『シュガーソングとビターステップ』のように、ロックとポップの融合を色鮮やかに実現させた楽曲もある。
2018年にUNISON SQUARE GARDENがリリースしたアルバム「MODE MOOD MODE」は全曲を通して、そんなUNISON SQUARE GARDENのマルチな音楽の幅を感じることができる作品だ。
『MODE MOOD MODE』に収録されている『オーケストラを観にいこう』という楽曲は、UNISON SQUARE GARDENの楽曲としては、目新しく感じる。斎藤宏介(Vo.&Gt.)の爽やかで芯のある歌声に乗せて奏でられるのは、聴いているこちらが気恥ずかしくなるほど甘酸っぱい恋心だ。
しかし、この『オーケストラを観にいこう』という楽曲。ラブソングには欠かせない『ある言葉』が用いられていない。
その『ある言葉』とは一体何なのか?UNISON SQUARE GARDENの『オーケストラを観にいこう』という言葉が意味するところとは?歌詞を中心にさらに考察してゆく。
言えない気持ちを込めて、伝える言葉は…
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30度を超えた日曜 浮かび始めた汗はそのままにして
走る 間に合いそうかな
缶コーヒーを開けるみたいに少しの行動力で片が付けば
何も難しくないのに けど それじゃ 張り合いがないのかな
髪を切ったのも気づくし好きな番組だって知ってるよ
ただ大事な事がまだ一つだけわかってない 依然信号待ち
≪オーケストラを観にいこう 歌詞より抜粋≫
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“夏休みに入った、最初の日曜に二人で会う約束をし、いつもなら鬱陶しいと思ってしまう汗も気にならないほど胸がいっぱいで、もしかしたら先に着いているかもしれない君のもとへ走る––––––”
そんな様子が、鮮やかに目に浮かんでしまう。
ただ一つだけ言えない言葉が、二人を繋いでくれるのか、それとも遠ざけてしまうのか。その可能性の中で揺れ動いている感情は、きっと恋をしたことがある人なら誰もが実感を持って頷けるはずだ。
今すぐに走り出してしまいたいけれど、そうはいかない初心な恋心が精一杯紡いだ言葉が「オーケストラを観にいこう」という、誘いの言葉なのだ。
「言えない」から「歌わない」? ユニゾンらしい表現を知る
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何気なく差し出され何気なく取ったチューイングガムのフレーバー
どうしてかな 書いてある果物とは違う甘い香りだけが横切った
偶然の可能性とか もしや嫌われてしまうだとか
無駄が過ぎる想像も目の前で鳴る旋律で無理やり解をつける
タクトみたいに揺れ動く 感情の迷いに合わせて
ああ 頭の中言葉たちが大合唱で どうやって選ぼう?
右も左もわからないまま君の事を想いながら
ああ 物語は進むのです oh yeah ノンストップでクレッシェンドで
≪オーケストラを観にいこう 歌詞より抜粋≫
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オーケストラの演奏は、基本的には第1楽章から続いて、時に重く暗い場面になったり、時に明るくひらけた場面になったりしながら、ドラマチックな展開をしていくものだ。
恋心をそれに重ね合わせ、相手の一挙手一投足に惑わされながらも、期待を膨らませていく様子を描いている。
「好きな人」や「愛してる」などの言葉が、一度たりとも登場しない『オーケストラを観にいこう』というこの曲。愛を直接紡ぐ言葉は一つもないが、誰が聴いてもこの曲はラブソングだという印象を受けるだろう。
UNISON SQUARE GARDENは、「好き」と言えないもどかしさを、実際に「好き」と歌わないことで表現している。
精一杯の「オーケストラを観にいこう」
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オーケストラを観にいこうよ まだちゃんと声にできないけど
ああ 気持ちは膨れるばかりさ そんな今日は、一体第何楽章?
オーケストラを観にいこうよ まだちゃんと声にできないから
ああ この心の高鳴りに嘘なんかありっこないけど
吐息も聞こえる10センチ ねえ僕の気持ちに気づいてるの?
ああ 焦れば消えちゃいそうです oh yeah 今回も少々だけ
帰り道も君を想うのです oh yeah 一瞬の連続が最高の楽譜になるように
≪オーケストラを観にいこう 歌詞より抜粋≫
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ロックバンドであるUNISON SQUARE GARDENであれば、「オーケストラを観にいこう」ではなく、「ライブを観にいこう」と言う方が身近で、実際に想像がしやすい。
しかし、それでも「オーケストラを観にいこう」という誘い文句を選んだことには、やはり理由がある。
例えば、いつもだったら食事に行く時はもっぱら定食屋だけれど、好きな人と食事に行くとなったら、普段は行かないような小綺麗なフレンチレストランを予約したり、本当はヒーローものの映画が好きなのだけれど、デートの時は普段観ないような洋画を選んだり、そんな『背伸び』は、どんな恋にも付きものだろう。
Tシャツを汗まみれにして拳を突き上げるロックバンドのライブももちろんいいのだけれど、いつもより身なりを整えて、好きな人の隣に座る。開演前の独特の沈黙は、バンドのライブでは決して味わえないものだ。
「オーケストラを観にいこう」という誘い文句は、それが直接に告白の言葉になるような決定的な力を持つものではないが、一歩一歩少しずつ近付いていく恋のきっかけになる。
そして、この曲は、『ええカッコしいの格好良くない恋心』を絶妙に、かつ鮮明に描いている。聴いているこちらが、気恥ずかしくなったり、むず痒く感じたり、まるで少女漫画を読んでいるかのような気持ちにさせられてしまうだろう。
UNISON SQUARE GARDENのマルチな音楽性が詰め込まれたアルバム『MODE MOOD MODE』。その中の1ページからは、それまでのUNISON SQUARE GARDENの楽曲のどれにも似ていない、甘い香りが横切るのだ。
TEXT DĀ
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