楽曲解説 後半
──そして、Charaさんとのコラボ曲が2曲収録されてます。木村カエラ:最初にとにかく『ミモザ』っていうタイトルの曲が書きたいですってお願いして。歌詞はまだ決まってなかったんだけど、私の中でのCharaさんのイメージがミモザだったのね。それを伝えてやり取りしてる中で、いろんな曲をガンガン送ってきてくれて。
そのうちの1曲が『曖昧me』。やったことのない感じだし、めっちゃ可愛いし、やりたいなと思って。しかも、この時、私が悪い夢の中にいて、抜け出せなかったんですよ。
──それは現実的に?
木村カエラ:現実的に。でも、Charaさんに救われて。Charaさんに、嫌なことがあったって言ったら、家においでよ~っていうメールが来て。で、『すっごい嫌なことがあって、スランプ中なんです。Charaさんの曲の歌詞を書かなきゃいけないのに』って言ったら、吐き出せる状況を作ってくれて。それでバーッとできたし、すごく勉強になった。
──勉強になったというのは?
木村カエラ:Charaさんは音の中で生きてるから、歌詞も、聴こえる音を拾ったりするんですよね。意味とか関係なく、すべてが音の中なんだな、めっちゃおもしろいって思って。今まではどっかで辻褄が合ってないといけないのかなって思ってたんだけど、Charaさんのやり方がめちゃくちゃ面白いなって思ったし、また新しい歌詞の生み出し方っていうのも学べたなって思います。
──もう一方のミドルバラード「ミモザ」はCharaさんらしい雰囲気ですよね。ミモザ=Charaさんのことを書いてますか?
木村カエラ:ううん。本当は女性の強さやかよわさ、美しさを表現できればいいなと思ってたんだけど、この歌を聴いた瞬間に、また<私が死ぬまで>っていう言葉がバンって一瞬で出てきて。『もうダメだ、これは止められない』と思って、上から順番に一気に書いてますね。
──<あなたを愛してる>と歌ってます。
木村カエラ:今までの私だったら、最後に〈愛してる〉を2回繰り返すことなんてできなかったんですよ。ていうか、今もできないと思ってたんだけど(笑)、Charaさんに『愛してるは2回言ったほうがいい』って言われて。本当は最後英語で締めようとしてたんだけど、Charaさんが『Charaは愛してるのほうがいいと思うよ。普段言えないことを歌うんだから』って。
で、この<愛してる>が最後、笑っちゃって全然歌えなくて。そしたらCharaさんがブースの中に入ってきて、ここにその人がいるみたいに歌うんだよって。Charaさん、壁のギリギリまで顔を近づけて、『この距離で歌うの。それをイメージしてマイクのところで愛してるって言ったらめっちゃいいから!』って言われてやったら、一発でOK出て。本当にCharaさんすごいね! って思いました。
──(笑)愛の伝道師ですからね。Chara曲に挟まれた「clione」はAAAMYYの作曲です。
木村カエラ:Charaさんが『AAAMYYY、カエラと合うと思うよ』って言ってくれて。私、今まで女性の曲はあんまりやってこなかったから、女性の人とやるっていうのがこの『いちご』っていうアルバムではすごくいい気がしていて。だから、AAAMYYYちゃんにもお願いして作ってもらいました。
──受け取ってどう感じました? 不思議な浮遊感のあるエレクトロになってます。
木村カエラ:どうやって作ってんの?って感じだけど、すごく才能があるよね。しかも、デモよりも歌を入れてみると、すごく曲が化けるんですよ。それを見据えて曲を作ってるんだとしたら、この子も化け物だなって。ただ、歌詞は一番難しかったですね。
AAAMYYYちゃんは英語をしゃべれるから、英語用の歌詞なんだよね。だから、日本語が全然合わなくてすごい苦労したんですけど…。深海魚っぽい深海の生き物をテーマに、とにかく〈生きてるだけで切ない〉ってことが言いたかった。心が冷たくなってる時に、朝の光とか誰かのやさしい光が心を溶かすっていう部分をクリオネの世界で表現した。ただそれだけっていう感じかな。
──このあと、會田茂一(アイゴン)、A×S×E、渡邊忍(しのっぴ)というおなじみのメンバーによる楽曲が続きます。まず、アイゴンによる「ストレスポンジー」は?
木村カエラ:夢を見たんですよ。街を歩いている人が背中に黒いストレスの妖気を抱えて、赤い目になってゾンビのようにうろついてて。そこで私がスポンジでみんなのストレスを吸収していくんですね。そんな夢を見たっていう話をアイゴンさんにしたら、この曲を作ってくれた(笑)。アルバムの最後の方に作った曲だから思い切りふざけてますね。5人組のスポンジマンのグッズも作りたいです!
──(笑)A×S×Eさんの「戦闘的ファンタジー」は意外にも四つ打ち曲になってます。
木村カエラ:A×S×Eさんに無茶振りして、打ち込みの曲を作ってもらいました。サビにglobeやtrfが入ってきて、AメロやDメロにきゃりーぱみゅぱみゅちゃんとかももクロが入ってくる。平成を代表するような曲になってて、めっちゃカッコいい。
歌詞は『セレンディピティ』に続く、運の強さを持ってる人シリーズで、モチーフはシンデレラ。持ってる人は自分と未来と思考と行動、つまり変えられるものしか見てない。変えられないものは他人と過去と感情だ、と。それを歌詞にしてますね。
──「ハイドとシーク」はデビューからの盟友しのっぴです。
木村カエラ:アルバムの一番最後、15周年記念の野音ライブが終わった後にできました。私は変わってるものが好きで、その人しか作れないものに触れるのが好きなんですよね。この曲はテンポがどんどん変わっていって、最終的にはバンドのみんなでわーっとかき鳴らすようなアレンジになってる。歌は符割りが難しったけど、ライブで盛り上がりそうだなと思っていて。
──(笑)最後に作詞作曲を手がけた「いちご」が収録されてます。カエラさんが作曲はするのは「Scratch」(2007年)以来ですよね。
木村カエラ:そうかもしれない。でも、「Scratch」は、私が最初にメロディを考えてそれに、toeの美濃さんにコードをつけてもらったから。この曲みたいに自分で全部1からやったのは初めてだったかも。
──どんな曲を作りたいと思ってました?
木村カエラ:とにかくアルバムのタイトルの曲は自分でって決めてたので、15年間で見てきたこと、考えてきたこと、感じたことを感謝の気持ちを込めて書ければいいかなって思ってましたね。
嬉しいことも悲しいこともあるけど、それがその先につながるから、1つ1つをちゃんと受け取って、感じて、認めることで次につながっていく感じかな。それが、15年でやってきたことのような気がしてて。だから、嘘ついちゃいけないっていうか。
──この曲でも優しく、美しく生きていきたいと歌ってますね。
木村カエラ:この時も死ぬことを考えてたから、すごくせつない感じになってますね。だから、これは、元木村カエラが書いてる。『ストレスポンジー』や『戦闘的ファンタジー』、『ミモザ』は新木村カエラが書いてるけど、『クリオネ』も元木村カエラですよね。そういうふうに、死んでしまう! みたいなモードは元木村カエラが書いてる。
──元木村カエラがここで1つの終わりを告げてます。
木村カエラ:そう。でも、すごくいいし、すごく好きです。メロディはポップだったから、『Magic Music』みたいにしようと思ってたんだけど、死んでしまうっていうモードに入ってるから、私の息やアコギをスライドする指の音まで生々しく聴こえる——生きてるっていうこと、そこにいるってことがわかる音にしたかったの。だから、激しいエレキじゃなくて、3人でやるシンプルなものにしたいって言って。で、クリックもなしで、、一発録りで録って。
──あはははは。15周年を迎えた元木村カエラ=いちごを最後に退かず食べて締めくくってます。アルバムが完成してどんな未来が見えましたか?
木村カエラ:このままでいいって感じたかな。ひとつずつ歳をとっていくことだったり、自分が自然と変化していく気持ちに逆らうのはやめようっていうことを受け入れられて、すごく清々しいし、フラットな感じになった。今は、それがとても心地がいいし、これからカッコいいおばさんになって、カッコいいおばあちゃんになっていけたらいいなと思います。
──秋からはライブハウスツアーも決まってます。
木村カエラ:野音でやったような感じではないけれども、ベスト的な内容にはなると思います。セットリストで15年を振り返られるようなものになるといいなって思ってて。『いちご』のアルバムの曲もやりつつ。感謝の気持ちを込めたライヴにしたいなと思ってますね。もうカッコつけずにやるので、ぜひ遊びにきてください!
Text 永堀アツオ
Photo 太田好治 / 立脇卓