ドラマのコミカルなシーンを浮き彫りにしたような、テンポの良いポップなメロディが魅力的だ。
シンプルで分かりやすい歌詞と見せかけて、要所要所に聴き手を"?”とさせる印象的なキーワードが多々登場するこの楽曲。彼らが伝えようとした『ノーダウト』に込められた真意を探っていきたい。
騙す人、騙される人
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まるで魔法のように簡単に広まってく噂話
偏見を前にピュアも正義もあったもんじゃない
仕方ない どうしようもない
そう言ってわがまま放題大人たち
どうぞご自由に 嫌ってくれて別にかまわない
≪ノーダウト 歌詞より抜粋≫
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ストレートな言葉で意味を伝えてくれる歌詞は、彼らの楽曲の魅力の一つだ。
人の噂ほど恐ろしいものはない。インターネットが発達している現代では、それは音速をも越えるスピードで世界中へ広まっていく。
人はいつも、世間の噂話やメディアのゴシップ等に振り回されがちだ。それ故に、特定の誰かに悪い印象を持ったり、批判的な態度をとることもあるだろう。
しかし、大半はそれで終わりだ。“どうでもいい”、“仕方がない”、“自分には関係ない”という最もらしいネガティブな理由をつけて有耶無耶にする。
自ら噂話に首を突っ込んで勝手な推察をした挙げ句、マイナスな評価をつけ、スッと去っていく。耳の痛い方も多いのではないだろうか。
噂話に振り回される人々
----------------「ウォーアイニー」は、「I love you」の中国語。この偽物を撒き散らす。つまり、それほど好きでもない相手に好意があるふりをして良い顔をしている時のことだろうか。
STOP! 偽のウォーアイニー
まき散らして暴走してるあなたたち
使って華麗に浴びるわ9桁のビルシャワー
怪しい おかしい
それ以外なにも感じられない私
時代の声に 責め立てられる筋合いはない
≪ノーダウト 歌詞より抜粋≫
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そして浴びる「9桁のビルシャワー」。9桁といえば一億。その紙幣がシャワーの如く降り注ぐ。
まさに、一仕事終えた『コンフィデンスマンJP』の主人公3人組を描いた情景そのものだろう。
つまり、日頃人々が噂話に振り回される様すら、彼らの策略の一部なのかもしれない。虚偽の情報に翻弄されまんまと信じ込めば、彼らの計画通り。
すべて終わってからそれを責めたところで、「勝手に信じたのはお前達だ」と札束を抱え高笑いするダー子が目に浮かぶ。
正義と悪とは何か
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早くデマカセに気づいて 騙してたわけに気づいて
誰に何度裏切られても 目を覚まして 笑って
one more time
≪ノーダウト 歌詞より抜粋≫
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悪を悪で制裁する、「勧悪懲悪」とでも言うべきだろうか。主人公が詐欺師というまさかの犯罪者にも関わらず、妙に快活なストーリー。
正義と悪がごちゃごちゃに入り交じって、誰が正しいのか良く分からなくなるような複雑性。このドラマの最大の魅力だ。
そのように思わせる最大の理由として、彼らは無実の一般人には手を出さない。反社会的活動など、悪意を持って弱者を虐げ富を築き上げた人間達を、主なターゲットにしている。
それが彼らなりの正義なのか優しさなのかは分からない。しかし、上記のフレーズはそんな彼らの「善」の一面を描いているように思える。
さて、「ノーダウト」の真意は
----------------神様さえも味方につけてしまうような、誰にも疑いを持たれない完璧な嘘。『ノーダウト』とはつまり「疑いがない」という意味だ。
Let me show 神様も ハマるほどの大嘘を oh
誰も ハリボテと 知るよしもない 完璧な
Lie and lie lie and lieそして少しの愛で
Let me show 欲張りの その向こうを
≪ノーダウト 歌詞より抜粋≫
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それほどまでに、自分達の虚構は素晴らしいパーフェクトな完成度であると自画自賛しているのだろうか。
ドラマを踏まえた概念を捨てれば、おそらく現代社会への真偽を問う提案や、人を守るためにつくような優しい嘘、それを持って越えられる未来等も読み取ることができる。
しかし、あの3人組が豪華なスウィートルームではしゃぐ様を思い浮かべると、とてもそんな美しい解釈ができない。ストレートなはずの言葉の一つひとつを疑いたくなるのだ。
いや、もしかしたらそれすらもコンフィデンスマン達の、もしくはヒゲダンの策略なのだろうか。思考の沼に嵌ってしまった私にはもう分からない。
一体どちらが正しいのか、是非もう一度じっくり聴いて判断していただきたい。
TEXT 島田たま子
Official髭男dism (オフィシャルヒゲダンディズム) 山陰発4人組ピアノPOPバンド。2012年6月7日結成、島根大学と松江高専の卒業生で結成されており、愛称は《ヒゲダン》。このバンド名には髭の似合う歳になっても、誰もがワクワクするような音楽をこのメンバーでずっと続けて行きたいという意思が···