シンプルで分かりやすい言葉ながらも、非常に繊細な描写で表現されているこの曲。心のアルバムのページをめくっていくような歌詞には、どんな感情が込められているのだろうか。
夏の花火は限られた時間の象徴
“このまま時間が止まれば良いのになぁ”と、一瞬でも考えたことの無い人は、おそらくいないだろう。
大切な誰かと共にいた浜辺だろうか。その情景は、今もはっきりと思い出せるほど記憶に刻まれている。しかし、それは夕焼けからあっという間に日が落ちていくような、ほんの短い時間だ。
波にさらわれた「何か」が一体何であるのか、この頃の自分は分かっていない。
記憶のアルバムの次のページを飾るのは、花火。その景色が目の前にあった当時は、その永遠を願っていた。
もちろん、そんな事が叶うわけがない。それでも、純粋に側に居たかった。同じ時間を可能な限り共有したかった。
そんな刹那の感情の代名詞が「夏」の「花火」なのだろう。
時の流れは止められない
なんとなく純粋に側にいることだけを望んでいた彼らも、ほんのわずかな間に少しずつ成長していることを感じさせる。
時間は止められないし、本来なら戻ることは出来ない。そんな中残された時間、自分が相手に何をしてあげられるかを必死に考える。
向き合いたくない現実と、何とか向き合おうとする二人の姿が目に浮かぶのだ。
映画の中で何度も時を遡り「もしも」という展開を繰り返す中で、少しずつ、少しだけ男らしくなっていく主人公・典道の姿を象徴するフレーズにも思える。
望まない形でも、未来はやってくる
そんな淡い思い出も、今ではもう記憶のアルバムの中。もしかしたらそれも失われてしまう時が来るのかもしれない。
記憶の上塗りの繰り返しで、どんどん薄れていく光。それでも、ふとしたことでそれは心に甦り、何度でも輝く。
今でこそ現実を受け入れ、未来を見つめることができる。しかし、あの頃の自分にも確かに未来はあった。手を伸ばせば届きそうなところにあったのに、あの頃はそうしようとしなかったのだ。
永遠に止まって欲しかった瞬間がある。しかし、過ぎ行く時を受け入れて手に入れた未来=今がある。
一夏のように、花火のように、短く淡い思い出。あなたが思い浮かべたそれはどんな記憶だろうか。
この曲を聴きながら、たまにゆっくり思い出してあげると良いだろう。そうすることで、それは心の片隅にずっと光輝くことができるかもしれない。
TEXT 島田たま子