AYUの道のりは平坦じゃなかった
浜崎あゆみは、はじめからスターであったわけではない。デビューが大々的に取り上げられたわけでもなければ、大きなタイアップに恵まれたわけでもない。
歌手としてデビューするまで、ブレイクに至るまでの道のりも平坦ではなかった。スマッシュヒットを重ねながら、時代の歌姫へとのぼりつめた努力の人だ。
浜崎あゆみが持つ恵まれた容姿と、彼女にしかない透明感のある歌声、そして等身大の歌詞は、若者の共感と憧れを得るには充分だった。
いつでも憧れの存在
「女の子が憧れる女性」という存在は、いつの時代も支持される。奇抜ともいえるセルフプロデュースも、街じゅうの女の子が真似すればマジョリティになる。彼女が楽曲をリリースするたび、時代は新たな歌姫「浜崎あゆみ」の誕生を感じていた。
実体験を元に歌詞を綴る
浜崎あゆみは常々「歌詞は実際に体験したことしか書かない」と公言している。丁寧な言葉で綴られた歌詞は、まるで誰かに宛てた手紙のようにも感じられる。
そして、浜崎あゆみがこれほどまでに若者に支持された理由、最大の魅力こそ「歌詞」にある。
女の子たちは皆あゆの歌詞に共感し、あゆの言葉が彼女たちの心に寄り添った。
オトナには書けない、揺れ動く繊細な心をあゆは綴る。
“普通の女の子としての感性を持っていること”。それが、当時の浜崎あゆみの強みだったのだと思う。
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ねえ ほんとは 永遠なんてないこと
私はいつから 気付いていたんだろう
ねえ それでも ふたりで過ごした日々は
ウソじゃなかったこと 誰より誇れる
生きてきた 時間の 長さは少しだけ違うけれども
≪LOVE ~Destiny~ 歌詞より抜粋≫
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当時のあゆと同じくらいの年頃になると、女性は皆どうしてか、年上の男性という存在に憧れるものだ。
想いが募れば募るほど、彼と同じ目線で同じ世界を見ることが出来ればよかったのに、と…同じだけの時間を一緒に歩みたかったと、生きてきた時間の違いをもどかしく思うこともある。
2019年夏。浜崎あゆみは、これまで明言はしてこなかった“ある人”への想いを語った。彼女が綴ってきたラブソングに、いつも少しだけ残る“謎”の答え合わせのようだった。
謎が解けた楽曲たちは新たな色を持ち、そしてより一層切なさを増した。
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ねえ どうして こんなにも苦しいのに
あなたじゃなきゃだめで そばにいたいんだろう
ねえ それでも ほんのささやかな事を
幸せに思える 自分になれた
≪LOVE ~Destiny~ 歌詞より抜粋≫
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失った恋を、どうすれば忘れることができるのか。ともに過ごした時間が大切なものであればあるほど、どうしようも出来なくて苦しいものだ。
あゆは、失った恋を忘れることなく、大切に抱きしめて生きていけばいいのだと教えてくれた。この恋があったから今の自分がいる、そう誇れるようになればいいのだと。
本当に愛していたからこそ、うらむ言葉などひとつもない。
『LOVE~Destiny~』が纏う切なくも優しい世界観は、彼女の愛そのものなのだろう。
浜崎あゆみと「濱﨑歩」
『LOVE~Destiny~』は、MVも印象的だ。無数のフラッシュを焚かれ、シャッターを切られながらファンの波をすり抜けていく「浜崎あゆみ」と、まだ表情に幼さが残る女の子「濱﨑歩」。この対比は、楽曲が持つ切なさに非常にマッチしている。
今まさにトップスターへと駆けのぼろうとしている浜崎あゆみのなかに、確かに存在する「濱﨑歩」。泣くのも、笑うのも、恋をするのも、優しい言葉を綴るのも…シンプルなワンピースに薄化粧が似合う、普通の二十歳の女の子「濱﨑歩」なのだ。
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ただ出会えたことで ただ愛したことで
想い合えたことで これからも...
真実と現実の全てから目を反さずに生きて行く証にすればいい
ただ出会えたことを ただ愛したことを
2度と会えなくても La La La La... 忘れない
≪LOVE ~Destiny~ 歌詞より抜粋≫
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画像引用元 (Amazon)
歌姫・浜崎あゆみにたどり着くまでには、到底語り切れないほどの悲しみも歓びもあっただろう。ときには濱﨑歩を置いてけぼりにして、がむしゃらに走った時間もあったかもしれない。
彼女はこれからも、浜崎あゆみとして歌い続けていくだろう。優しく、愛にあふれた素朴な女性「濱﨑歩」を誰にも見せることなく。
浜崎あゆみの喜びや孤独は、ひとつの時代を築き上げた者にしか分からない。我々には想像することしかできない。浜崎あゆみを分かってやれるのは、濱﨑歩だけなのだろう。
いっときの栄華は去ったと言う人もいる。それがどうした、世の常だ。歌姫・浜崎あゆみが愛されたこと、愛され続けていることは、誰もが知る真実なのだから。
TEXT シンアキコ