『L&R』は、同年にリリースされたASKAのソロシングル『あなたが泣くことはない』のカップリング曲だ。
歌詞からは、長らく連れ添った相棒・CHAGEへの、そしてCHAGE&ASKAへのまっすぐな想いが感じられるのだ。
CHAGEとASKA
----------------気の置けない友人同士が、互いをからかい合う。
人のこと笑えるか オマエだって同じだ
つま先で転がった未来を見てただろ
≪L&R 歌詞より抜粋≫
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そんな光景が浮かぶような歌い出しだ。
ASKAにとっての「オマエ」はいつだってCHAGEであり、CHAGEにとっての「オマエ」はASKA。
ほかの誰でもない。代わりはいない。それがデュオの宿命。
ずっとそうして30年、ともに歩んできたのだろう。
----------------CHAGE&ASKAはあくまで「CHAGE」と「ASKA」だった。
素直に混ざらなかった "LとR"で守った
何のために守った…
守らなきゃ混ざり合う
≪L&R 歌詞より抜粋≫
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溶け合うほどの美しいハーモニーを紡ぎながらも、根底には「個」と「個」がある。
「&」であることを選び、貫いてきた二人のミュージシャン。それがCHAGE&ASKAだ。
現に、これまで何百という楽曲をともに歌ってきた彼らだが、CHAGE&ASKAとして発表した作品において二人の共作はごくわずかだ。
高校時代から友人関係であった二人。
1978年のポプコン(ヤマハポピュラーソングコンテスト)ではCHAGEがグランプリを、ASKAが最優秀歌唱賞を獲得した。
それをきっかけとして、ディレクターから「2人で組んでみないか」と誘われた日から、それとも「チャゲ&飛鳥」を名乗った日から、あるいはデビューした日から…
「CHAGE&ASKA」はいつのときでも、あくまでも「CHAGE」と「ASKA」だった。
CHAGEが欠けても、ASKAが欠けてもCHAGE&ASKAにはならない。代わりのきかない天才が二人揃ってしまったことを、今では悔しいとさえ思う。
----------------無期限活動休止を決めたのは、二人がともに50歳を迎えた年だった。
"時間は過ぎて行く"って 少し違う気がする
"時間は消えて行く" ここから先は
≪L&R 歌詞より抜粋≫
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アーティストとして、男として、なによりも人間としての“これから”を真剣に考え始めた時期だったのだろう。
「時間は消えていく」…人生に限りはある。
だからこそ、それぞれのやりたい方向へと進んでいくことを決めたのだと思う。CHAGE&ASKAというホームを残して。
互いの才能を認め合ったライバル
----------------かつてCHAGEは、自分たちを「月と太陽」と例えたことがあった。「月」はCHAGEのことを指す。ファンならば分かるメッセージだ。
かかわりのない月が 半分で浮かんでる
思い切り矢を引いた 冬の弓張り月だ
≪L&R 歌詞より抜粋≫
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かかわりのない月とは「CHAGE&ASKAのCHAGE」ではない、ソロアーティスト「CHAGE」のことだろう。
思いきり矢を引いた弓張り月…CHAGEの才能を、活躍を認め、負けてはいられないというASKAのライバル心を感じるフレーズだ。
----------------不仲だとか、格差だとか、うるさい外野の言葉など関係ない。オレはオマエを分かるし、オマエはオレを分かる。オレたちを見ていれば、いずれまわりも黙る。
見通しは悪くはない 風は吹いている
オレがわかる オマエをわかる
ちっぽけな言葉の刺は 歩けば落ちる
≪L&R 歌詞より抜粋≫
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二人はシンプルに分かり合える関係だった。
長い時間をともにした相棒、さらに長い時間を過ごした友人。当時のCHAGE&ASKAの間に、ややこしい言葉など不要だったのだろう。
LとR。いつかまた並んだら…
----------------LとR。言うまでもなく二人の立ち位置(LeftとRight)を指している。
オマエはLを行く オレはRを行く
いつかまた並んだら Love & Rollさ
≪L&R 歌詞より抜粋≫
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二人はずっと、210cmのスペースを守ってステージに立ち続けてきた。
手を伸ばしてもぶつからないが、三歩足を踏み出せばお互いの肩に触れることができる。
それが、CHAGE&ASKAが守ってきた210㎝。
近からず遠からず、絶妙な距離を保ち、歩き続けてきた二人。
この2009年を機に、CHAGEはCHAGEの道を、ASKAはASKAの道をゆくと決めた。いつかまた「&」として並ぶ日のことを、心の奥底にしまって。
“LOVE&ROLL”、ラブソングとロックンロールをかけ合わせた造語であろう。
演歌フォークと呼ばれた独特のスタイルから始まったチャゲアスが、これまで歩んできた道、作り上げた音楽、誰にも真似できない二人だけのハーモニー。
それらすべてが、どんなジャンルにも属さない“LOVE&ROLL”だ。
“いつかまた”が来る日を信じていた。心がざわつくようなニュースに落ち着かない日があっても、それでも二人なら、いつかまた、と。
夢見たステージは叶わなくなってしまったが、CHAGE&ASKAが残した音楽はいつまでも色褪せない。
築いた記録も、歴史も、消えてなくなりはしない。記憶のなかで、ずっとずっと大切に、愛し続けていきたいと思う。
ただひとつ願うとするならば…。
今の二人を隔てる210㎝が「遠く遠く何処までも遠く流れる河」でないことを、いつかどこかで地続きであることを、心静かに願っている。
TEXT シンアキコ