気分を盛り上げてくれるようなロックナンバーにもかかわらず、その歌詞は妙に意味深なものに感じさせてしまう。
今回はその一因を担う例の説に触れつつ、彼の真意を読み解きたい。
彼が愛したものは
----------------妙に馴染みのあるキーワードが多いが、何処と無く懐古的で虚無感のあるイメージを抱かせる。
潮溜まりで野垂れ死ぬんだ 勇ましい背伸びの果てのメンソール
ワゴンで二足半額のコンバース トワイライト匂い出すメロディー
≪TEENAGE RIOT 歌詞より抜粋≫
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描いているのは、自分自身だろうか。遠い昔の自分ようにも思えるし、少し前の、つまり自分を客観視した描写のようにも思える。
----------------行き当たりばったりで過ぎていく日常。
今サイコロ振るように日々を生きて ニタニタ笑う意味はあるか
誰も興味がないそのGコードを 君はひどく愛していたんだ
≪TEENAGE RIOT 歌詞より抜粋≫
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具体的で明確な夢や目標があるわけではなさそうだが、Gコードと表現されるたった1つの「何か」が、彼にとってはとんでもなく大切なものなのだ。
あの時感じていた焦燥、自信の持てる今
----------------コードはGからDになった。しかし、きっと前述と同様のものを指している。
真面目でもないのに賢しい顔で ニヒリスト気取ってグルーミー
誰 も聴いちゃいないそのDコードを それでもただ信じていたんだ
≪TEENAGE RIOT 歌詞より抜粋≫
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----------------スタートで出遅れてしまったと自覚したときの焦燥感。
よーいどんで鳴る銃の音を いつの間にか聞き逃していた
地獄の奥底にタッチして走り出せ 今すぐに
誰より独りでいるなら 誰より誰かに届く歌を
歌えるさ 間の抜けた だけど確かな バースデイソング
≪TEENAGE RIOT 歌詞より抜粋≫
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若き日の自分を思い出すと想像しやすいのではないだろうか。
“何かしなくちゃ”、“早くやらなきゃ”と思う前に走り出してしまえ!と自分を奮い立たせている。
ここで、“たとえ孤独でもきっと誰かに歌を、想いを届けられる”という確かな自信が生まれた。
今まで語ってきた愛するもの、信じていたものはこれだったのかな?と思わせるフレーズだ。
こう結論付けてしまうと、かなりストレートで分かりやすい描写に思えてしまう。
これにより彼が語りたい真意は何なのだろうか。
どこにも行けない説の真相は?
----------------一時期、ファンの間で「米津玄師どこにも行けない説」というものが話題になった。
持て余して放り出した叫び声は 取るに足らない言葉ばかりが並ぶ蚤の市にまた並んで行く
茶化されて汚されて恥辱の果て辿り着いた場所はどこだ
何度だって歌ってしまうよ どこにも行けないんだと だからこそあなたに会いたいんだと今
≪TEENAGE RIOT 歌詞より抜粋≫
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米津の楽曲の多くに「どこにも行けない」という趣旨の歌詞が多く登場する、ということに気がついたファン達が発信したものである。実際、確かに多い。
上記で引用した歌詞の前半部分は、苦しみながらもがきながら生き抜く若者のようであり、全ての人間に当てはまるようであり、彼の創作活動を含めた人生を表しているようにも感じられる。
今や大人気の米津が生み出した楽曲は、瞬く間に世間に持ち上げられ、評価され、消費されていく。
もし彼が苦悩し、行き先を迷っている時さえもそれは変わらないだろう。
ボカロPとして活躍していた頃に比べ、そのスピードや規模は段違いとなった。
説に対する彼なりの答え
そんな中で取り上げられたこの説。
懸命に創作活動に励む彼は、こうした形で話題になることを喜べるのだろうか。
彼が楽曲を通して伝えようとしていることは、おそらく我々が想像し得ない深いところにあるのではないかと度々思う。
SNS等で発信される文や楽曲の歌詞に使う言葉の選び方を見ていると、そう感じるのだ。
米津の描く世界観は、本当に魅力溢れる独創的なものだからこそ、私は今回の解釈に関してはあまり自信がない。
しかし、この楽曲の持つ若さ故の勢いとエネルギーに乗せて、彼なりにこの説についての答えを与えてくれたのかなぁと思うのだ。
独創的な楽曲の奥深さ
茶化されても、汚されても、自身の意図しない伝わりかたをしていても、彼はきっと楽曲を作り続ける。
その歌を誰かに会わせるためだ。人に想いを伝えるためだ。
同じような事ばかり繰り返していたって、良いじゃないか。
人生において、寸分違わぬ全く同じ事の繰り返しなんて無いはず。
毎回毎回、時間や季節、言葉、感情、過程、結果が同じになる出来事なんてそうそう無い。だからこそ「今」は尊いのだ。
彼が今後も繰り返し生み出すであろう数々の楽曲を、私はこれからも楽しみにしていきたい。
TEXT 島田たま子