ピュアな男の子の心を描く
人肌恋しい季節だ。
夏に真っ黒に日焼けした少年は、シーブリーズを家に残し、クローゼットから取り出した上着を羽織りながら、今日も玄関を出て行く。
かじかんだ手をポケットに入れて、背を丸めながらダラダラと歩く。本当は可愛い女の子と手をつないで歩きたい気持ちを抱きながら…。
スキマスイッチの『ふれて未来を』は、そんな男の子の抱くピュアな恋心を描いた歌だ。
ふれて未来を
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流されはしないからなんて 始めから飛ばし気味?
気にしなきゃ怖いものなんて むこうから それていく
手にした後にスルリ逃げぬよう 常に監視してたい気分だよ
なくさないように胸に誓う でも、大事なのは そう君と
揺れていたいよ これを忘れてはいけないのだ!
ふれてみたいよ それは まだ早い? その前にやることがヤマ積み
≪ふれて未来を 歌詞より抜粋≫
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「彼女、別の男と一緒にいるのを見たよ」などと周りからからかわれているのだろうか。無神経な人はどこにでもいるものだ。
でも、彼は気にしない。彼女のことしか見えていない。流されもしない。むしろ外野の意見など耳に入らないほど飛ばし気味で、周りが心配になるほどだ。
常に監視して束縛したいという欲求を抑える彼。「ふれてみたい」と下心とも取れる言葉が出たと思えば、「やることが山積み」と学生らしい一面も覗く。
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テンポよく リズムは歩くように一つ一つをかみしめながら
君と僕の家を行ったり来たり、 そう
幸せかい? と聞くのはあまりにも野暮なことだとわかっているけど
確かめたときは怒らないで ねえ、君とは どんなときも
笑いあってたいよ これもおろそかにしては ノーだ
話してたいよ 同じ時間を過ごすならなおさら そうだ
≪ふれて未来を 歌詞より抜粋≫
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一つ一つ順序を大事にかみしめて、ようやくお互いの家を行き来できるまでになった。
「幸せかい?」と野暮な質問をするのは、彼女を幸せにしたくて必死だから。
一緒に過ごしている時間は、自分の欲とか感情を押し付けるのではなく、ふたり一緒に笑っていたいし、楽しんでいたいといつも彼は思っている。
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全てに期待をかけるのはさすがに重いけど
「2人に未来を」 これくらいがちょうどいい
まだ見ぬ君を さて、 探しに行こう!
≪ふれて未来を 歌詞より抜粋≫
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「愛してるよ」「ずっと君を守るよ」なんて言葉が重いのは分かっている。
「2人に未来を」と彼にとっての精一杯の言葉を彼女に投げかけ、「まだ見ぬ君を探しに行く」。彼の知らない彼女の一面を見て、さらに好きになっているにちがいない。
青春の甘酸っぱさ
ピュアな男の子の心をリアルに表現した歌詞であるが、最初にボーカル大橋卓哉が書きあげたときは歌詞は母音だけの状態だったそうだ。
これをスキマスイッチでは「卓弥語」と呼び、日本語でも英語でもなくて、とりあえず母音だけを重視したような言葉を使って歌詞を書く。
大橋の考えるメロディーラインを大事にしながら卓弥語にピアノ常田真太郎が作詞する。まさに息のあったコンビプレイだ。
テンポが良く、伸びのある大橋の作曲能力とボーカル。登場人物の心情を的確に表現した常田の文学的作詞センス。両者が相まって、男の子の青春の甘酸っぱさがこんなにもイキイキと表現されたのであった。
●『ふれて未来を』/ MV
TEXT:田中利知