ソロ・デビューから3年目、新たな一歩
現役高校生として、声優のみならず、StylipSやPyxisといった声優ユニットの一員としても活動していた伊藤美来が、満を持して1STシングル『泡とベルべーヌ』でソロ・デビューを果たしたのは、2016年10月12日、自身の20歳の誕生日のことでした。2017年には、待望のデビュー・アルバム『水彩 〜aquaveil〜』をリリース。
声優としても、アーティストとしても成長を続ける彼女は、3月に大学を卒業するというターニング・ポイントを迎えています。
学生と仕事の両立から初めて解き放たれた今、更なる飛躍が期待される中で、発表されたセカンド・アルバム『PopSkip』は、サウンドにも歌詞にも、伊藤美来という存在の「今」がしっかりと込められたものとなりました。
シティポップ風オープニングナンバー「PEARL」
これまで、様々なタイプの曲に挑戦してきた伊藤美来ですが、本作の1曲目『PEARL』を聴いて、ハッとさせられた方も多いのでは。
上品なシティポップ風のサウンドの心地良さと、落ち着いた歌唱で紡がれる歌詞は、今年で23歳になる彼女の大人びた横顔が浮かんでくるようです。
----------------私とあなたとの関係性は、過去形で描かれています。
人波の果て 消えてく花火
儚さを皆 見上げながら
夏の終わりに手を振る
揺れて 水面の遊歩道
Pearl の想い出が煌めく
自分だけの自分に また
気づける気がして
私は私でいたい
心の奥 閉じ込めてた 本当の言葉
あなたが大好きだった
だから大丈夫 もう大丈夫
≪PEARL 歌詞より抜粋≫
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はっきりと明言されているわけではありませんが、恐らく終わってしまった大切な想いを振り返りながら、「もう大丈夫」と気丈に語る主人公を、伊藤美来はやや客観的に、物語るように歌っていますね。
だからこそ、聴く人それぞれの物語として、投影できるような楽曲になっていると感じます。
華やかで楽しい「恋はMovie」
跳ねたリズムとまさに「POP」なブラス・サウンドが華やかで楽しい『恋はMovie』は、アルバムの先行シングルであり、伊藤美来のキュートな魅力全開の楽曲となっています。
----------------自分の恋を映画監督のようにプロデュースする、というコンセプトの歌詞も可愛らしく面白い。
恋はMovie (Want your love)
歌いだしそうな ときめき弾けて(Smile Smile Smile Smile)
演技なんていらない
溢れだしたSmile
あなたに見せたい Show time!
≪恋はMovie 歌詞より抜粋≫
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恋をしたときの、ミュージカルのように気持ちがアップダウンする自分を楽しんでいるような姿に、少しだけ大人の余裕を感じさせるところが心憎いですね。
恋に向かって突っ走る!「閃きハートビート」
同じく先行シングルとなった『閃きハートビート』は、『恋はMovie』と同じくキラキラしたガールズ・ポップの名曲となっており、fhánaの佐藤純一氏が全面的にプロデュースしています。
興味深いのは、『恋はMovie』とは違い、『閃きハートビート』は、不器用なくらいに恋に向かって一生懸命突っ走る主人公の姿が描かれています。
----------------TVアニメ『上野さんは不器用』のオープニング・テーマということもあり、アニメの主人公と伊藤美来のキャラクターが、それぞれ反映されたものとなっています。
(恋の予感)
胸騒ぎこんなはずじゃないの 予想できない
ああ!私のハートを騒がすの何?
(この閃き)
恋はいつも私を走らせるけれど
だれかこの想い いつか君のもと届けて!
≪閃きハートビート 歌詞より抜粋≫
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同じように「恋」が主題の楽曲でも、曲によって恋に対するアプローチの違いが鮮明になっているのが、特に伊藤美来と同世代の女性リスナーにとっては、共感できるポイントが色々と見付かるのではないでしょうか。
----------------「諦める方法は知らない」という、主人公の何ともいじらしい想いが込められた部分が、私(筆者)個人的には気に入っています。
泣いたりへこんだり
上手くいかないこともあるけど
なぜなの?(不思議だね)
諦める方法は知らない
恋はいつも私を悩ませる(今日も)
ああ だけどわかったの
私は私のまま振り返らず行こう!
≪閃きハートビート 歌詞より抜粋≫
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あくまで男性目線での話、です(笑)。
“大人の伊藤美来”が魅せる「土曜のルール」
本作には、今までになかった様々な「大人の伊藤美来」が浮かび上がる楽曲が多く収録されていますが、そのテイストが特にはっきりと提示されているのが、『土曜のルール』です。
----------------『土曜のルール』は、何処か90年代テイストが香る、洒落た味わいのJ-POPで、アルバムの中でも、特に「大人」な伊藤美来の姿を引き出している楽曲です。
どこか危険な香りがするの 本気と覚悟決めたばかり
「今日だけ」なんてない 私いつも甘い
「少しだけ」それで It's over
どこか隠して Try 奥にしまい Bye bye
いたずらに見つめて来ないで
Please don't touch my heart
揺れて揺れる この胸騒ぎ 大したことないはずなのに
ダメと言われたら何故かしら? ルールとは鍵をかけた部屋みたい
≪土曜のルール 歌詞より抜粋≫
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これも私個人的には、一番気に入っている曲でもあります。
声優としての伊藤美来しか知らない方がこの曲を聴けば、きっと驚くのではないでしょうか。
歌詞を読み込んでいくと、一貫したストーリーがあり、単なるラヴソングというわけではなく、複雑な距離感や心の機微が、思わせぶりな雰囲気と共に描かれています。
こういった楽曲を歌い切ったことで、アーティストとしての新たな成長をも感じさせますね。
この曲で歌われている「ルール」が何なのかは、曲の最後に明かされますので、実際に聴いてみて頂きたいところです。
小さな孤独感を歌う「灯り」
アルバム終盤に収録されたミディアム・バラードの『灯り』も、今までにない伊藤美来の一面が垣間見える楽曲となっています。
----------------誰にでも、ふとした時に訪れる小さな孤独感を、優しい眼差しで切なく歌い上げています。
ひとりぼっちみたいな 騒がしい 街中で
ひとりぼっちみたいに 迷い込んだ路地裏へ
日暮れが近づけば あかりが灯り出す
誰かがそこに居て 私はここに居るんだ
いつも通りに時間は 過ぎていくのだけれど
いつも通りに沈む 夕暮れが綺麗だから
寄り道して帰ろう あかりが灯り出す
誰かの笑う声 私も微笑んでるわ
≪灯り 歌詞より抜粋≫
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元気で前向きな伊藤美来も良いですが、立ち止まって自分を見つめ直しているような等身大の姿に、共感を覚えるリスナーも多くいるはず。
私が居場所になる――「all yours」
アルバムのラストを飾るのは、伊藤美来自身が作詞を手掛けた『all yours』です。
文学が好きで、大学では日本語を学んでいたという彼女の言葉選びは、決して気取った言い回しではなく、シンプルながらもまとまりのある、伊藤美来という女性の強さと優しさが伝わるものとなっています。
----------------「君のとなりに詩を置く」というフレーズが、なかなか洒落ていますね。
夢を渡るの 離れていても
信じて私が ほら居場所になる
君のとなりに詩を置くから
耳を傾けて すべて美しい
見て It's all yours
≪all yours 歌詞より抜粋≫
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この曲を聴いている人にとっては、自分の支えになってくれている人を思い描いて、感謝の気持ちを述べたくなるような、そんな作用を持ったポジティブな楽曲で、本作を幕を閉じます。
ガールズ・ポップ好きは必聴の1枚!!
2019年の10月には、本作を引っ提げたワンマン・ライヴ公演や、恒例のバースデイ・イベントも控えている伊藤美来。彼女は、所謂声優アーティストという立場ではありますが、アニメや声優にさほど興味のないという人にも、本作はガールズ・ポップ好きに是非聴いてもらいたい1枚となっています。
声優として、アーティストとして、大人への一歩を踏み出そうとしている1人の女性として、伊藤美来が様々な姿で魅せる「POP」な音世界に、あなたも是非耳を傾けてみてください。
TEXT KOH-1