しかし、それ以外のWham!の曲を知る人は、少なくなりつつある事でしょう。
『Club Tropicana』の歌詞から、クリスマスだけじゃないWham!の魅力を振り返ります。
Wham!(ワム!)とは…
Wham!は、1980年代に活躍したイギリスのデュオです。
学生時代のバンド仲間だったジョージ・マイケル(George Michael)とアンドリュー・リッジリー(Andrew John Ridgeley)が、1981年にWham!を結成。
デビュー直後から、ラップを取り入れたキャッチーな曲とルックスの良さで、一躍注目を集めます。
1stアルバム『Fantastic!』でいきなり全英No.1を獲得。
1984年の2ndアルバム『Make it Big』から、『Careless Whisper』『Last Christmas』など、ビッグヒットを連発し、イギリスのみならず、アメリカ、日本を含め世界的に大ブレイクしました。
日本では、西城秀樹と郷ひろみが同時にカバーした『Careless Whisper』が印象に残っている方も多いのではないでしょうか。
しかし、人気絶頂期の1986年にWham!は解散を発表。
ウェンブリー・スタジアムでのWham!としての解散公演を最後に、二人はソロ活動をスタートします。
世界に旋風を巻き起こしたWham!の歴史は、たったの5年間で幕を閉じました。
ようこそ「Club Tropicana」へ
『Club Tropicana』は、1stアルバム『Fantastic』からシングルカットされた1曲です。
まだライジングスターだった二人の勢いが感じられる、エキサイティングな『Club Tropicana』の世界へ、足を踏み入れてみましょう。
----------------【和訳】
Let me take you to the place
Where membership's a smiling face
Brush shoulders- with the stars
≪Club Tropicana 歌詞より抜粋≫
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君を連れて行くよ
入会資格は笑顔
スターたちと肩が触れ合うあの場所へ
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パンチの聞いたベース音が遠くから迫り来るイントロに、これから訪れるパーティーへの期待感が自ずと高まります。
この曲のMVで、ジョージとアンドリューがパイロット、バックコーラスの二人がキャビンアテンダントを演じているように、あなたも私も今からエアラインクルー。
長いフライトを終えて辿り着いた目的地は、ハワイかオーストラリアか、もしくは東南アジアの島々か、とにかくヤシの木が揺れるトロピカルな国。
ホテルで制服を脱ぎ捨てて、アロハかビキニに着替えたら、有名セレブも御用達の『Club Tropicana』へレッツゴー!
そこはまさに夢の世界
----------------【和訳】
Where strangers take you by the hand
And welcome you to wonderland
From beneath their panamas…
≪Club Tropicana 歌詞より抜粋≫
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パナマ帽の見知らぬ人たちが君の手を取って
ワンダーランドへと迎えてくれる
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有名人もウヨウヨしている会員制リゾート『Club Tropicana』。
少し緊張気味の新顔を、フレンドリーに歓迎してくれる陽気なメンバーたち。
一歩足を踏み入れた途端、そこはまさに夢の世界。
----------------【和訳】
Club Tropicana drinks are free
Fun and sun shine there's enough for everyone
≪Club Tropicana 歌詞より抜粋≫
----------------
クラブトロピカーナのドリンクは飲み放題
楽しさと日差しも浴び放題
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高級リゾートクラブのドリンク飲み放題、これ以上の幸せはありません。
強い夏の日差しを全身に浴びながら、高いシャンパンやカクテルをガンガン頼んじゃいましょう。
プールはあるけど海はない⁉
----------------【和訳】
All that's missing is the sea
≪Club Tropicana 歌詞より抜粋≫
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海だけはないんだけどね
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“あれ?てっきり海で泳げると思っていたのに『Club Tropicana』にはプールしかないのだろうか…”と、ちょっと気になるフレーズです。
----------------【和訳】
Castaways andLovers meet
Then kiss in Tropicana's heat
≪Club Tropicana 歌詞より抜粋≫
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漂流者も恋人たちも ここで出会えば
トロピカーナの熱気ですぐにキス
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プールしかなくても、楽しければ全てオーライ。美男美女で溢れる『Club Tropicana』は出会いのチャンスにも溢れています。美味しいお酒でテンションが上がれば、次は素敵な恋人探し。いいなと思う人を見つけたら、大胆にアピールしなきゃ損ですよ。
----------------【和訳】
Watch the waves break on the bay
Oh Soft white sands a blue lagoon
Cocktail time a summer's tune
A whole night's holiday!
≪Club Tropicana 歌詞より抜粋≫
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入江ではじける波
ブルーラグーンと白い砂浜
音楽がなり響くカクテルタイムは
一晩中お祭り騒ぎ
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“おや?「海だけはないんだけどね」と言っておきながら、波や砂浜があるって一体?”と、再び疑問が湧いて来ます。
サビの部分でリピートされる「All that's missing is the sea(海だけはないんだけどね)」というフレーズでポイントとなるのは「lagoon」です。
「潟」「湾」などの浅瀬や、サンゴ礁で囲まれた海面を意味するラグーン。
そう考えれば、『Club Tropicana』の海は、きっと海水浴場には出来ない美しすぎる海に違いありません。
大切に保護されている美しいサンゴ礁の海を愛でながらのカクテルパーティー。
そんな最高の贅沢を味わえるのもまた、『Club Tropicana』の会員だけに与えられた特権です。
----------------【和訳】
But don't worry you can suntan!
≪Club Tropicana 歌詞より抜粋≫
----------------
でも心配ご無用 日焼けはバッチリさ!
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小麦色に日焼けした肌こそセレブのステイタス。
海水浴は出来なくても、プールサイドのデッキチェアで、心ゆくまで日焼け出来るのでご安心あれ。
再び訪れるのを夢見て
----------------【和訳】
Pack your bags
And leave tonight
Don't take your time
Gotta move your feet don't you miss
the flight!
≪Club Tropicana 歌詞より抜粋≫
----------------
荷物をまとめて
出発は今夜
ぐずぐずしないで急ごう
飛行機に乗り遅れないように
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デッキチェアに寝そべっていると、ふと目に入った上空を横切る銀色の機体。
“しまった!もうすぐフライトの時間だ”と、名残惜しいけど『Club Tropicana』を後にします。
ホテルの部屋に戻れば、制服はもうランドリーサービスが届けてくれている。
急いでシャワーを浴びて荷物を詰めて、帽子を被るのもそこそこに慌ててチェックアウト。
エアラインクルーは遅刻厳禁です。
----------------焦った冷や汗で『Club Tropicana』の熱気は冷め、無事に搭乗すれば、クールなエアラインクルーとしての日常へと戻って行く。
(Cool, cool, cool, cool)
≪Club Tropicana 歌詞より抜粋≫
----------------
機体は上昇気流に乗って、次の目的地へとテイクオフ!
再び『Club Tropicana』を訪れる日を楽しみにしながら…。
Wham!にアンドリューは必要だったか否か
2016年12月25日に、53歳の若さでこの世を去ったジョージ・マイケル。『Club Tropicana』の作詞作曲はジョージとアンドリューの連名ですが、実質的にWham!の楽曲は、全てジョージが作っています。
20歳にしてこのクオリティの曲を作り、さらにボーカル、ピアノ、ギター、ダンスまでこなしたジョージ。
彼は、紛れもなく天才でした。
じゃあ、相方のアンドリューは一体何をやっていたの?と思いますよね。
はっきり言えば、アンドリューは何もしていませんでした。
ただ、ジョージの隣りでギターをシャカシャカやりながらニコニコ笑っていただけです。
実際、Wham!全盛期から飛びかっていたアンドリュー不要論。
しかし、アンドリューが隣でお気楽に笑っていてくれることで、繊細で内向的な天才肌のジョージは、自分だけの世界にのめり込まずに済みました。
そんなアンドリューの存在あればこそ、ジョージはWham!ならではの最高のポップソングを、この世に残す事が出来たのです。
TEXT 岡倉綾子