発表から20年以上を経ても輝きを失わない夏の名曲であり、彼らの代表曲のひとつです。
その歌詞の世界に迫ってみたいと思います。
夏の名曲『サマー・ソルジャー』
『サマー・ソルジャー』はサニーデイ・サービスが1996年にリリースしたシングル曲です。発表から20年以上を経ても輝きを失わない夏の名曲であり、彼らの代表曲のひとつとなっています。
夏フェスにサニーデイ・サービスが出演する際にはまず間違いなく演奏される曲でしょう。
永遠の夏の名曲、その歌詞の世界に迫ってみたいと思います。
暑い夏の風景
----------------サニーデイ・サービスはデビュー当時からよく【はっぴいえんど】と比較されてきました。
暑さにまかせ ふたりは街へ出た
夏の太陽ギラギラまぶしいから
蜃気楼がゆっくり近づいたら
立ち止まってふたりを狂わせる
≪サマー・ソルジャー 歌詞より抜粋≫
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文学的な歌詞の世界が共通していたからでしょう。
フォーク調だったり、ロックだったり打ち込みだったりとサウンドは様々に変遷しましたが、繊細な日本語詞の美しさを追及するという意味では常に一貫した曲作りを行ってきたバンドです。
『サマー・ソルジャー』でもその歌詞の美しさは際立っています。
「ふたり」は恋人同士でしょう。夏の日差しの中、街へ出ます。
「狂わせる」というフレーズがいかにもサニーデイ・サービスという感じです。
二人の恋心と夏の暑さの両方にかかっているという気がします。
----------------美しい心象風景の表現と、そしてサビでの直接的な愛情描写。
きみの瞳濡らすのは 遠くに見える海なのか
ぼくの心揺らすのは 溶け出して行く季節なのか
愛しあうふたり はにかんで
なんにも喋らず 見つめあう
それは天気のせいさ せいさ せいさ せいさ
≪サマー・ソルジャー 歌詞より抜粋≫
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この対比が素晴らしいですね。
そしてそれを「天気のせいさ」と少しごまかすようなところも青春という感じです。
「余白」が生むマジック
----------------2番では、表現がやや生々しくなっていきます。
いつでも夏は ふたりを放り出す
血を流させてそれでもそのままで
ビルの群がグラリと波打ったら
おおいかぶさってふたりを狂わせる
その唇 染めるのは 彼方に沈む夕陽なのか
ぼくの心つかまえて 青ざめさせる恋の季節
≪サマー・ソルジャー 歌詞より抜粋≫
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「血を流させて」「おおいかぶさって」など、少しドキッとするフレーズが多用されます。
二人の関係が近くなってきたことを示しているのかもしれません。
1番との対比で見ると、時間の流れが見えてくるようで興味深いです。
----------------『サマー・ソルジャー』で最も秀逸なフレーズは何かと問われたら私はこう答えます。
愛しあうふたり はにかんで
なんにも喋らず 見つめあう
それから先は hey hey hey…
hey hey hey…
hey hey hey…
hey hey hey…
hey hey hey…
八月の小さな冗談と真夏の重い病い
天気のせい それは暑さのせい それから先は…
≪サマー・ソルジャー 歌詞より抜粋≫
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「それから先は hey hey hey…」です、と。
愛しあう二人が見つめ合ったら、そこから先はヘイヘイヘイなのです。
野暮なことは言ってはいけません。あとはお任せなのです。
そして、そんな二人の愛情を「八月の小さな冗談」と言ってしまうラストのフレーズ。
夏の間だけ燃え上がり、秋になったら冷めてしまう恋というのもあるでしょう。
この二人の恋が果たしてそうなのかどうか、そこは描かれていません。
物語の最後は聞き手にゆだねられています。それから先は…あなたがが考えてくださいということでしょうか。
『サマー・ソルジャー』が年月を経て多くのファンに愛され、今も名曲と聞き継がれているのはこうした余白を残しているからかもしれません。
この余白に、聞き手は自分の体験や感情を投影するのです。
だから、『サマー・ソルジャー』は聞き手にとって「自分の曲」になるのです。
リリースは秋?
サニーデイ・サービスの曽我部恵一は『サマー・ソルジャー』についてこう語っています。
「恋人と二人でいて、なんか平穏な付き合いの中での、一瞬の覚醒する時。そういう事が、ありうるっていう事の歌。それって感動的な事なんですよ、僕にとっては。」
まさに、『サマー・ソルジャー』は何気ない日常の風景の中に立ち上がる覚醒の瞬間を切り取った曲だと言えるでしょう。
『サマー・ソルジャー』は夏の曲ですが、実はリリースされたのは10月のこと。
なぜ?と思うかもしれませんが、「夏の間にこの曲を書いて、レコーディングしたらそうなった」らしいです。
あえて翌年の夏まで待たずにすぐにリリースしたのですね。
この正直さも、サニーデイ・サービスらしいと思います。ぜひ暑い夏の間に聞いてほしい曲です。
TEXT まぐろ