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五感で感じる恋のときめき。松田聖子「赤いスイートピー」の秀逸な歌詞

1982年にリリースされた松田聖子の大ヒット曲『赤いスイートピー』。当時19歳だった松田聖子のみずみずしい歌声、松任谷由実による美しいスローバラードの魅力はもちろんのこと、今回は名作詞家・松本隆が紡いだ秀逸な歌詞に注目したい。
『赤いスイートピー』で描かれているのは初々しいときめきだけではなく、大人の恋への憧れだ。

美しいメロディと歌詞、そして松田聖子の可憐な歌声が、ファンタジックな世界を奇跡的に成立させている。

五感に訴えた歌詞は、情景をありありと想像させる。リスナーは、色鮮やかな楽曲の世界に一気に引き込まれてしまうはずだ。

そんな素敵な詞の世界観をぜひ感じて欲しい。

五感で感じる恋のときめき


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春色の汽車に乗って
海に 連れて行ってよ
煙草の匂いのシャツに
そっと 寄りそうから
≪赤いスイートピー 歌詞より抜粋≫
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『赤いスイートピー』の歌詞には色があり、音があり、感触がある。

ひとつひとつのワードからは、情景をありありと思い浮かべることができる。

“春色”

桜のピンク、若葉の緑、空の青…。誰もが、心躍るきらきらとした風景を思い浮かべることだろう。

さらに、出会いやはじまりを想像させる“汽車”というワードと重ね合わせることで歌詞に躍動感が生まれる。

淡くまばゆい“春色”には、ときめく恋心がうまく投影されている。

“海”
“煙草の匂いのシャツ”

さざめく波音、カモメの声、サラサラとした砂の感触。

パリっとしたシャツの感触、煙草の匂いの向こうにかすかに石鹸の香り、シャツ越しに触れるあなた‥。

いくつかのワードだけで、景色も音も「あなた」もとたんにリアリティをもつ。恋のときめきやドキドキを、五感で感じることができる。



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四月の雨に降られて
駅の ベンチで二人
他に 人影もなくて
不意に 気まずくなる
≪赤いスイートピー 歌詞より抜粋≫
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人影のない沈黙と“雨”の対比。ここでいう“気まずさ”は、たとえば不意に手が触れたときの、初々しい照れくささに似ている。

触れたい、触れられない、触れていいのか分からない。ふたりきりという空間にやすらぎを感じられるほど、一緒に過ごしたふたりではないのだ。

あなたについてゆきたい



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何故 知りあった日から
半年 過ぎても
あなたって手も握らない
≪赤いスイートピー 歌詞より抜粋≫
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こちらも印象的なフレーズだ。「あなた」の誠実さと、そんな「あなた」に恋する少女のもどかしさがよく表れている。

手を握りたい、もっと触れてほしいと願う、いじらしい心が垣間みえる。

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何故 あなたが
時計をチラッと見るたび
泣きそうな気分になるの?
≪赤いスイートピー 歌詞より抜粋≫
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帰りたくない、もっと一緒にいたいという気持ちはきっと、恋する誰もが経験し、共感できるものだろう。

数多のラブソングに描かれている「帰りたくない」という感情を、楽曲の世界観を守りながら、いかに別の言葉で表現するか。

それこそが作詞家の腕の見せどころだ。

松本隆は、ありふれたラブストーリーをオリジナルに、丁寧に描く才能に長けている。

彼の詞には、ドラマがある。目に浮かぶワンシーンがあるのだ。



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このまま 帰れない 帰れない
心に春が来た日は 赤い スイートピー
≪赤いスイートピー 歌詞より抜粋≫
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まだ10代の松田聖子に歌わせた、精一杯の「大人」の表現だと思う。実に、さまざまな意味に捉えることができるフレーズだ。

“心に春”
“赤いスイートピー”

秘密めいた甘さを感じずにはいられない。

彼女がまとう清らかさと愛らしさ、大人の女性の顔を見せはじめた19歳という年齢、これらのピースがすべてがそろうことで『赤いスイートピー』は完成している。

音楽史に残るあの名フレーズをひも解く


一般的にスイートピーといえば、ピンクや黄色が主流だ。

松本隆によれば「夢の話なのだから、赤くなくても何色でもよい」とのことであったが、やはり「赤いスイートピー」であるところに、この楽曲が愛された秘密があるように思う。

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心の岸辺に咲いた 赤い スイートピー
≪赤いスイートピー 歌詞より抜粋≫
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“あなたについてゆきたい”

そう思える人に出会って、心のすみっこに芽生えた赤い花。

恋心なのか、それとも少女の性への芽生えなのか…。そのいずれかというところであろう。

少女にとって「あなた」がどんな人なのか、こんなにも語られているのにどこか歌詞の全容をつかめない。それこそが『赤いスイートピー』の魅力だ。


ひとりの少女の恋を歌っているようでもあり、恋する万人の心を歌っているようでもある。具体性と抽象性を両面に兼ね備えた、実に秀逸な歌詞である。

恋を覚えた心に芽生える「なにか」。

その「なにか」は、万葉集の時代からさまざまな表現で記され、共有されてきた。

しかし“赤いスイートピー”ほど可憐な表現を、私は他に知らない。

TEXT シンアキコ

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