マカロニえんぴつの歌詞の優しさ
2012年にはっとり(Vo/Gt)を中心に結成されたロックバンド マカロニえんぴつは、その音楽を“マカロック”と称して、時にエモーショナルであり、時に力強いロックサウンドを響かせる。
2019年9月にリリースされたミニアルバム『season』には、メンバー4人がそれぞれ作曲を担当した楽曲が収録されており、バンドメンバー個々の音楽センスの高さが裏付けされた作品となっている。
しかし、マカロニえんぴつの楽曲の魅力は、演奏や構成面のクオリティだけなく、その歌詞も大きな役割を果たしている。
『season』の一曲目に収録されている『ヤングアダルト』は、若さ特有の“ままならなさ”を抱えて生きる若者に向けた応援讃歌だ。
音楽を通じて会話を重ね、優しく寄り添ってくれる『ヤングアダルト』の歌詞を紐解いていく。
大人になりきれない若者に捧ぐ曲
----------------“将来の夢”というフレーズをむず痒く感じるようになったのはいつからだろう。
夢を見失った若者たちは
希望を求めて文学を
はたまた汗まみれのスマートフォンを
握り締めて詩を書き溜める
ハロー、絶望
こんなはずじゃなかったかい?
でもね、そんなもんなのかもしれない
僕らに足りないのはいつだって
アルコールじゃなくて愛情なんだけどな
≪ヤングアダルト 歌詞より抜粋≫
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「何になりたい、何がしたい」明確なビジョンはないけれど、ただただ現状に対する不満と将来に対する不安だけが募っていく。
「本当はこんなはずじゃなかったのに」
そんな言葉を吐き出して、自暴自棄になってしまうこともあるだろう。
そのままならない現実をアルコールで流し込んで飲み込んで、またままならない現実に戻っていく。
「僕らに足りないのはいつだってアルコールじゃなくて愛情なんだけどな」
アルコールで頭をぼんやりさせて、その一瞬だけ不安がどこかに行ってしまった気持ちになるが、酔いが覚めてしまえば不安はまた襲いかかってくる。
本当に埋めてほしい穴は、アルコールではなく、愛情で埋めてほしい。その愛情は、情愛かもしれないし友愛かもしれないが、きっとどんな形でも誰かに“認めてほしい”のだ。
大人になりきれないけれど、もう子供でもない。そんな『ヤングアダルト』達に居場所を与えてくれるのが、この『ヤングアダルト』という楽曲だ。
----------------“孤独でどうしようもない夜に、君が君自身を傷付けたりしないように”
夜を越えるための唄が死なないように
手首からもう涙が流れないように
無駄な話をしよう 飽きるまで呑もう
僕らは美しい
明日もヒトでいれるために愛を探してる
≪ヤングアダルト 歌詞より抜粋≫
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優しいメッセージは、きっと抱える悩みや不安を根本から解決するものではない。
ただ、同じように孤独に苛まれて自分を自分で傷付けてしまいたくなってしまう人があなた以外にもいて、この曲を聴いている時だけでもその孤独を分かち合って薄めることができたら、と『ヤングアダルト』からはそんな優しさを感じ取れる。
夜通し酒を飲み変わりたり、語り合ったり、という行為はきっと、時間も体力も有り余っている若者にしか許されないのだから、明日からまたままならない現実で歩いていけるように、今夜は一緒にいよう、と伝えてくれる。
“優しい”応援讃歌とは
----------------個性を求められながら、協調性も求められる。そんな矛盾する世間の中で、“自分らしさ”について頭を悩ませ、結局“自分らしさ”が何なのか分からなくなってしまい、統一化されていく。それはきっと珍しいことでも何でもない。
ハロー、絶望
その足でちゃんと立ってるかい?
無理にデタラメにしなくてもいいんだぜ
僕らに足りないのはいつだって
才能じゃなくって愛情なんだけどな
夜を埋めるための唄が死なないように
欠伸ひとつで悲しみが流せるように
夢の話をしよう飽きるまで呑もう
≪ヤングアダルト 歌詞より抜粋≫
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「世間に認められる“天才”になりたいわけじゃなくて、ただ誰かに認めてもらいたい」
『ヤングアダルト』は些細だけれど、根源的で人間らしいその欲求を、エゴではなく丸ごと認めてくれる曲だ。
つらくて涙を流した夜だとしても、眠って朝になったらその気持ちが晴れていますように。
居場所のなさ、ままならなさを抱え、それをそつなくいなしながら器用に生きることができない『ヤングアダルト』に向けたこの応援讃歌は、絶望と向き合いながらも遠くにぼんやり見える希望を感じさせる、優しさを孕んだ楽曲だ。
TEXT DĀ