些細な様子から、愛を感じる
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髪の毛の匂いを嗅ぎあって くさいなあってふざけあったり
くだらないの中に愛が 人は笑うように生きる
≪くだらないの中に 歌詞より抜粋≫
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星野源の『くだらないの中に』という曲は、こんな歌詞ではじまる。
彼女の髪の毛の匂いがくさくて、うれしがる。なんだか変態的ではあるが、その行動には彼女への愛がつまっているような気がして、聞いていて思わず笑みを浮かべてしまう。
「星野源」という、多彩な人間
そもそも、みなさんは、星野源という人をご存じだろうか。【特集】次々と名曲を生み出すヒットメーカー!マルチの才能を持つ星野源
芸人でもないのに、NHKのコント番組のレギュラー。俳優としては、今期の産婦人科医を題材にしたドラマで、主人公の同期を演じている。文筆家としても活動していて、雑誌の連載も2本持っている。そして、音楽家として歌も歌っており、12月には4作目のアルバムが発売される。
忙しい人である。見るからに自然体で、失礼だけれど体力だってあんまりなさそうなのに、なんというバイタリティだろう。師走という月が、師匠が走るほど忙しいという意味なら、星野源は一年中、師走なんじゃないだろうか。
二足のわらじよりも、もっと多くのわらじを履いているのにも関わらず、そのどれでも、彼は成果を挙げている。疲れなど感じさせないような愛くるしい笑顔で、いつだって精力的に働いている。
「毎日を面白くするのは自分自身だし、それをやるには必死にならなきゃ何の意味もない」と、彼は自身の著作に書く。自分で毎日を面白くした成果が、仕事、ということなのだろう。
そんなに頑張っていて、もしかしたら時代の寵児のような売れっ子になりたいのかと思ったら、そうでもない。
「くだらないの中に」にはこんな歌詞がある。
くだらないの中に
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流行に呑まれ人は進む 周りに呑まれ街はゆく
僕は時代のものじゃなくて
あなたのものになりたいんだ
≪くだらないの中に 歌詞より抜粋≫
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あなたのものになりたい。なんてキュンとくる言葉だろうか。このひとことで、私の乙女心は鷲掴みされる。
彼はきっと、時代の寵児になりたいのではなく、ただ、いい曲をつくりたいだけなのだ。それを一生懸命にやっているだけだ。
彼のなかからでてくる、彼の毎日のなかで構築されていった素直な言葉が歌詞になって、そして彼の素朴でやわらかな声で歌われる。そんな歌だから、支持されているのだろう。
日常の中で育む愛おしさ
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心が割れる音聴きあって ばかだなあって泣かせあったり
つけた傷の向こう側 人は笑うように
≪くだらないの中に 歌詞より抜粋≫
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好きな人をふいに、心が割れるほど傷つけてしまう。日々のなかに隠している、彼の、もしくは彼女の抱えている傷を見つける。お互いに涙がながれてしまうほど苦しい。
けれど、彼は優しく言う。「ばかだなあ」と。それからふたりで、傷の向こう側を見るのだ。
この部分からは、涙をこぼしながら優しくわらう星野源がみえるようだ。
この曲は、日常のなかで相手を愛おしむラブソングだ。くだらない毎日かもしれないが、そんな日々をとことん愛してしまう星野源の性格が、なんとも好ましい。
●くだらないの中に / 星野源
TEXT:緑の瞳